恋を知らない僕が、先輩聖女に『一目惚れ』について尋ねてみた 【アーノルド殿下の5分間回想録】
ぼくの名前はアーノルド・スラサク・ラーン。
ラーン帝国の第三皇子だ。
ラーン帝国を含め、ぼくの住んでいる世界には、さまざま魔法が存在していて、魔法を使う職業がたくさんある。
ぼくは、ひょんなことから、リアナという名前の聖女と身体が入れ替わってしまっている。
きっかけは、リアナ聖女が土砂災害に巻き込まれて、土砂に埋まる際に、帝国の皇子であるぼくと、なぜだか身体が入れ替わってしまって、お互い入れ替わった状態で、現在生活をしている。
まぁ、入れ替わっているのは、今は良しとしよう。慣れてしまえば、大したことではない。
それよりも今日は、ぼくが初めて耳にした言葉についてのやり取りを記録しておきたい。
それは、『一目惚れ』という単語だ。
リアナは聖女であり、先輩聖女の三人と一緒に仕事をしていたらしく、リアナの身体に意図せず入ってしまったぼくも、今日からその先輩聖女の三人と一緒に仕事をしている。
『一目惚れ』という単語が今朝でてきたので、それについて、質問する機会をぼくはずっと窺っていたところ、昼食後の休憩時間なら、この話題について教えを乞うても大丈夫だと判断し、ぼくは三人の先輩聖女に意を決して尋ねてみた。
「あのですね……。会話の中ででてきた『一目惚れ』というのは何ですか?」
ぼくは、まだ十歳だから城の中で教わっている内容に、そのような単語が出てきたことがなかったため、今朝交わした会話の内容が理解ができていなかった。
「聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥」ということわざが、東方の国であるというのは習った。
今が絶好のチャンスだ。
恥をさらしてでも、理解したほうがいいはずだ。
先輩聖女のお三方に質問したけれど、誰もすぐに返事をしてくれず、しばらく沈黙した後……。
「うふふふふ」
「へぇ~、リアナ聖女は色恋には疎い方なのかしら」
「まだ恋を知らないのかもしれないわよ。ふふふ」
先輩聖女の三人が頬を赤く染め、気分が高揚してきているように見える。
しかも、すまない。
ぼくのせいで、リアナ聖女が恋をしたことがないということになってしまったが仕方がない。
ぼくはさらに質問を重ねる。
「えっと……その『一目惚れ』とは恋愛に用いる言葉なのですか?」
ぼくは、先ほどの会話から読み取った部分を再度聞き返す。
「ええ、そうよ。リアナは『一目惚れ』を知らないということは、経験したことがないということね?」
先輩聖女の一人がほほ笑みながら、ぼくに聞いてくる。
「そうですね。経験したことはないと思いますが、どんな感じのことを意味するのでしょうか?」
すると、また別の先輩聖女が『一目惚れ』について解説を始める。
「それはね。相手の殿方を見たら、この人だ!と思って瞬間的に恋に落ちてしまうってことよ~」
一瞬で、恋に落ちるなんて恐ろしい。魅了を使った魔術じゃないのか、それは。
「恋に落ちる時は、自分でそれを感じとることができるということですか?」
「そうよ。すぐにわかるわ!」
応えてくれた先輩聖女は頬に手を添えて、過去の一目惚れ体験を振り返っているようだ。
「それは、どんな感じだったのか参考までに教えていただけますでしょうか?」
「え? 聞きたい? そうねぇ。雷に打たれた感じで、ビビビッてくるからすぐにわかるわよ」
雷に打たれた感じ? 危険じゃないか。感電した経験があるのか、この聖女は。
もしくは、その殿方が雷魔法を使用した可能性は考慮しなくていいのだろうか?
「ちなみに、私の場合はねぇ……」
別の先輩聖女も、話に加わってくる。
何?! 人によって症状が異なるのか?
「その男の人に後光が差して眩しくて目が開けられなかったわ」
この聖女も『一目惚れ』の経験があるらしい。
後光が差していたというのは、目くらましの光魔法を使われたのではないのか? 目が開けられないほどの眩しさなんてかなり高い魔力をぶつけられていそうだが、大丈夫なのか? 失明に至らなくて良かったな。
「私の場合はねぇ~。心臓がキュンとして、ドキドキが止まらなくなるの。それで、気が付くの」
こちらの聖女も『一目惚れ』経験者だったのか……。
心臓がキュンとするなら、病気に違いない。
脈が速いというのは、高い緊張状態の中にいるのだから血圧も計測した方がいいかもしれないな。
まぁ、聖女なのだから、自分の脈拍のコントロールなんて朝飯前なのかもしれないが。
「そうなのか……。『一目惚れ』というのが、かなり危険な状態に陥るということは理解できました。お三方の貴重な体験談、ありがとうございます」
ぼくは、不明だった単語を確認すると午後の仕事の準備に取りかかった。
お三方とも、ご壮健で何よりだ。
ぼくは、『一目惚れ』を経験したことがないが、この三人以外の症状もあるかもしれない。
他の症状の経験を話したい時は、感想に記入してぼくに教えてくれてもいいし、人知れず君の胸の内にしまっておくのも美徳だろうから、どちらでも構わない。
これで、『一目惚れ』談義は終了だが、もし、アーノルド殿下のぼくが、他の国の聖女と身体が入れ替わってしまったことを、もう少し知りたいというなら、【孤独な聖女は 溺愛されて封印を解く】に経緯が書かれているからそれを読めばいい。
でも、読まなくて構わない。ここまでぼくの話を聞いてくれただけで、充分だから。
判断は君に任せよう。
また回想録の項目が増えた時に、会えるかもしれない。
機会があればまた会おう。
では、お互い良い一日を!
読んで下さり、ありがとうございます。
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