第七話 武器
それから一週間が過ぎた。
鍛錬場での時間は、麗奈にとって確かな積み重ねになっていた。
術式は安定し、光球も揺らぎが少なくなった。
魔術具の扱いにも慣れ、発動の感覚も掴めてきている。
そして――身体強化。
まだ一瞬だけ。
けれど、意識すれば“通る”感覚がある。
「無理に続けるな。短く、確実にだ」
マコラナの言葉を守りながら、少しずつ。
剣も、最初の頃よりは長く持てるようになった。
そしていろいろな武器を試させてもらった
槍、短剣――様々な武器を、麗奈は実際に手に取って試していった。
最初はどれも重く、扱いにくい。
だが、触れるたびに分かることがあった。
双剣は軽く、動きやすいが間合いが近い。
大剣や太刀は一撃が重いが、隙も大きい。
斧やハンマーは破壊力があるが、振り回すには体が追いつかない。
弓は距離を取れるが、集中力と安定が必要になる。
そして悩む私に、
「武器は相棒だ。向き不向きがある」
鍛錬場の中央で、麗奈は一度すべてを置いた。
「……私に合うのって」
ぽつりと呟く。
自然と、一本の武器に手が伸びる。
それは――自分の身長くらいの長さの剣。
両手で扱えば安定する。
重すぎない。軽すぎない。
「それかい」
いつの間にか見ていたマコラナが、腕を組む。
「……なんか、一番しっくりくる」
正直な感覚。
マコラナは少しだけ頷く。
「いい選び方だ。頭じゃなく、感覚で選んだな」
「振ってみな」
麗奈はその剣を、改めて握り直す。
柄の感触。手に伝わる重み。
ゆっくりと構え足の位置を整え、呼吸を合わせる。
マコラナがこくりと頷き、麗奈は一歩踏み込む。
――ぶん。
空気を裂く音。
大剣ほどの重さはないが、確かな手応え。
振り抜いたあとも、体勢が崩れない。
「いいね。そのままもう一度」
もう一度。今度は、少し意識を深くする。
温かさが広がる。それを腕へ、手へ。
「……!」
流れを“通す”。
振る。
――ぶんっ。
さっきより速い。そして軽い。
剣が、体の一部のように動く。
麗奈の目が見開かれる。
「今の……」
マコラナが口元を緩める。
「乗ったね。身体強化と武器が繋がった証拠だ」
呼吸が少し荒い。
けれど、確かな手応えが残っている。
「それが“扱う”ってことさ。ただ振るんじゃない。流れごと動かす」
麗奈は剣を見つめる。
ただの鉄の塊だったはずのそれが、今は違う意味を持っている。
「その剣、しばらく使いな」
マコラナが軽く言う。
「基礎を固めるにはちょうどいい」
「……うん」
鍛錬場の静けさの中、麗奈はもう一度構える。
一方で、美咲は――
すっかり薬草の世界に夢中になっていた。
「これね、乾燥させる時間で効き目が変わるんだって!」
「短いと回復寄り、長いと鎮静効果が強くなるんだよ」
本を広げながら、目を輝かせている。
小さな布袋を肩から下げ、薬草の図鑑を大事そうに抱えている。
ページの端には、いつの間にか自分なりの印やメモが増えていた。
森で採取してきた薬草も、美咲の手にかかればただの草ではなくなる。
時には露店の薬屋を手伝うこともあるらしい。
露店の薬屋では、瓶の整理や簡単な計量、調合の手伝いを任されることもあるらしい。
「最初は難しかったけど、分かると楽しいんだよね」
その言葉には、迷いがない。
麗奈はそんな妹の姿を見て、ふっと微笑む。
「将来、薬師とか向いてるかもね」
「えへへ、そうかな」
少し照れながらも、嬉しそうに笑う。
以前よりもずっと、自分のやりたいことが見えている顔。
この世界での居場所を、それぞれ見つけ始めている。
そんなある日。
朝の空気がまだ冷たい時間、マコラナが装備を整えていた。
どうやら定期的に交流のある商隊が町から来るそうで出迎え兼護衛として出向くらしい
「町……」
初めて聞く、村の外の具体的な場所。
「そんなに珍しいかい?」
少しだけ笑いながら言う。
「だって……初めて聞いたから」
麗奈の言葉に、マコラナは「ああ」と軽く頷いた。
「ティコルは外との関わりが少ないからね。けど完全に閉じてるわけじゃない」
荷袋を肩に担ぐ。
「定期的に商隊が来る。布や金属、珍しい薬材なんかを持ってきて、こっちは森の恵みを渡す」
美咲が興味津々で身を乗り出す。
「町ってどんなところ?」
「人も物も多い。賑やかで……まぁ、騒がしい場所さ」
少しだけ肩をすくめる。
「村とは全然違う?」
「違うね。ここは“調和”で成り立ってる。向こうは“流れ”だ」
麗奈はその言葉を考える調和と流れ。
どちらも大事だけど、きっと空気は全然違う。
「……行ってみたいな」
ぽつりと漏れる。
マコラナはちらりと見る。
「そのうち連れてってやるさ。今のままじゃ迷子になって終わりだろうけどね」
「う……」
図星だった。
美咲がくすっと笑う。
「お姉ちゃん方向音痴だもんね」
「ち、違うし!」
軽口が交わされる。
遠く、村の外れの方へ視線を向ける。
「さて、そろそろ時間だ」
朝の冷たい空気の中。マコラナは一歩踏み出す。
「留守、頼んだよ」
「うん」
「気をつけてね!」
二人の声を背に、マコラナは森の入口へと向かっていく。
その背中が、木々の向こうに消えていく
少し忙しく更新が空いてしまい申し訳ありません
今後は定期的に更新予定です。




