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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

処刑しちゃった悪役令嬢、生きていたから全力で媚売ろうぜ

「先日我々が処刑した、ミゼット公爵令嬢なのだが……」


王子、スメルモンは、言いづらそうに、側近に切り出した。


「実は、生きているらしい」

「それは……」


ありえない、そんなバカな、と、声にならない反論が飛び交う中、将軍の息子が言った。


「それはつまり……もう一度殺せるという意味ですか?殿下?」

「お前俺よりやばくねえか?」



会話が始まったばかりなのに、早くも空気を変えるためのティータイムが挟まれた。男たちが額を突き合わせて、揃って紅茶を飲み始める光景を、メイドがナメクジを見るような目で見下ろして去っていった。


「さっきの話だが……」


カップをソーサーに戻し、スメルモンが話題を戻す。


「信じられません。ミゼット様はたしかに死にました」

「そうです。殿下の命令で首を切り落とされ、火炙りにして、その後で遺灰を王立川に流して捨てました。国民も目撃しています」

「やりすぎて新しく婚約したドリア嬢が失神したんですよね」

「その後王子、捨てられたんだよね……」


はあ、と重い沈黙が漂う。


自分のわがままで公爵令嬢を冤罪で魔女裁判にかけて惨たらしく処刑した王子はもちろんのこと、それを止めなかった息子たちも、実の親、親族、あるいは父親の部下たちから白眼視されていた。


ここにいるのは恋という熱病に暴走した挙句無実の子女を拷問して殺害し、実質未来を閉ざされた者たちの集まりなのである。メイドも、早く出ていってくれないかな、とばかりに周囲に塩をまき始めた。


「俺は未だ諦めてないぞっ!きっと俺が本気を出せば、ドリアはもちろん、輝かしき戴冠式が俺を待っているはずだっ!」

「つまりそのために、魔女として生き返ったミゼット嬢をもう一度地獄に送り返せばいいわけですね」

「おい誰かこいつを円卓から追い出せ!」

「これ以上部下を減らすつもりですか殿下!」

「こいつの役職、未来の秘密警察の長官じゃねえか!ついこの間父親を粛清したばっかりだぞ!?」


いつから長官の席は世襲制になった、とスメルモン王子が憤慨する。


「じゃあいつから王室は世襲制になったんです」

「王家はそういうもんなの!神に選ばれて、絶対的な権利を神から与えられてるの!」

「神は全知全能で、神の前には人は皆平等ですよ」

「これだから坊主は好かねえんだよな……」


教皇の息子に舌打ちする。円卓などとかっこいいことを言いつつ、求心力も団結力もマイナス補正が入っているとしか思えない一団。


「でだ。ミゼットが死ななかったというのが、2つばかり問題なんだわ」

「あー、一つはわかる気がします」


教皇の息子、アレッドが頷く。


「わかるか?」

「ええ。救世主より酷い殺され方して復活されたら、ミゼット嬢こそ新たなメシアとなりますからね」


ハレルヤ、と救世主を讃えるアレッドの答えに、王子が目を白黒させる。


「そそ、そう。つまり、そういうことなんだな」

「目ぇ泳いでますよ殿下」

「やかましい。まあ、実際は復活とはちょい違うから、この問題はそこまででかくないんだが……もう一つの方」


ピンと突き出した指を掲げ、王子が口を開く。


「はい、わかる人ー」

「ウザッ」

「あぁ、粛清したいなぁこのタコ」

「オイ今なんつった?」

「なんでもありません。それより、答えを」

「……まあいい。2つ目はだな、ミゼットが、魔法を使って生き延びた、このことなんだ」

「異端審問すべきです」

「やめろバカ」


さっきまでハレルヤ言ってたお前はどこ行った。


「条件反射で粛清と魔女狩りやめろ」

「殿下は我々から職を奪う気ですか!?」

「それ誇りにしちゃうのちょっと問題なんだよなぁ……」

「まあ我々も殿下を戴く時点でなぁ……」

「おいやめろよ。悲しくなる」

「な、殺していい?王命で死ねって命令していい?」


青筋を立てつつ、作戦会議を続ける。メイドがわざとすり替えた塩をたっぷり紅茶に入れて、飲む。


噎せた。


「そんなわけで、今後の打開策を考えたいんだが」

「だからもう一回殺せば解決じゃないですか」

「俺はもうお前を先に殺したくなってきたよ」



「ちなみに、陛下はなんと?」

「既に民意は離れつつあるから王族として、あるいは臣下に下るという未来を用意してほしければ何もするな、と」



「えぇ」

「仕事くださいよぉ!」

「そうですよ!俺等は定年過ぎたジジババじゃないんですから、まだまだジャンジャンバリバリ働けますって!」

「ねえ知ってる?無能な働き者って言葉知ってる?」


「そう言えば、ドリア嬢が戻ってくる見込みはあるんですか、殿下」

「それがな……ミゼット嬢が死んでなかったと知った途端、あいつを聖女として信奉する一人にだな……」

「あーね」



「俺知ってる。これNTRって言うんだぜ」

「知ったか乙。NTRは『寝取り』であって『寝取られ』じゃねーんだよバーカ」

「そこのバカ二人は黙れ」

「「殿下に言われたくない!!」」

「殺すぞ貴様ら!」



一向に話は進まない。王子は遠い目をして、まずい紅茶を啜る。


「どこで道間違えたかな……」

「そりゃ、元婚約者を無実なのに魔女に仕立て上げて殺害した時点ですよ」

「アーアー聞こえない」

「あのですね、殿下。一応人一人が死んでんですよ?もっとこう、我々は緊張感を持つべきじゃありませんか?人の死という厳粛な結果に、我々はもう少し、真面目に向き合うべきだと思います」


将軍の息子が深刻そうな顔で手を挙げる。


「そう言えば最近君の領地ではアカの手先との戦いが激化してると聞いたが……」

「ヤツラは国土を荒らすウジ虫共です。情けはいりません。軍靴で踏みにじるべきです、早急に!」

「でも、お前の指揮で無謀な突撃やって、領民の士気ははガタガタなんだろ?」

「どうせいくらでも畑から取れますよ。命なんてそんなもんです」

「おい数分前の言葉を思い出せ。お前命についてなんて講釈たれた?」


将軍の息子は純粋な目で首を傾げる。


「……手遅れっぽいですね」

「まあ、ほら、権力の座にいると誰もがね?ほら」

「まあ確かに、数字の帳尻あってりゃいいかってなるわな」

「特にスメルモン王子の陣営では」


一人の呟きに、酒も入っていないのに爆笑が起こる。カップをジョッキのように叩きつけて、クロスのかかったテーブルをバンバンと手で叩く。


またメイドの視線が険しくなった。


「なあおい、マジでなんか考えろよお前ら……ミゼットの件での我々の、その、やりすぎちゃった、を挽回しつつ、権力を取り戻し〜の、ドリア再びゲットだぜ、的なの」

「えっそんな名案があるんですか!?」

「ないからお前らにも頭使えって言ってんだよ!あったら最初からお前ら抜きでやっとるわ!」



「まあ確かに。殿下の独断ってミゼット嬢の魔女裁判だしなぁ」

「今頃故郷の掲示板じゃ、俺たちの残酷さを非難するような落書きがされてるらしいしな……」

「あー、だから俺は掲示板壊したわ。次の日誰かがもっとキレーなの作ってて笑った」

「笑い事じゃねえんだよなぁ……」



「とはいえまずいですよ殿下。このままじゃ話は堂々巡りですし、つまらない会議に尺取すぎでまるでニホンジンみたいですし、何より華であるはずの悪役令嬢が我々の語りの中でしか登場してないじゃないですか」

「メタいのやめろ」

「うわー!ニホンジンと同じ!まいったなー、あの勤勉さとおもてなしで知られるニホンジンと一緒かぁ!」



「取ってつけたようなニホンジンアゲやめろ!しかもどっちかってーとそのニホンジンの悪癖と同じ、って揶揄されてんだぞ!頭を使え頭を!」


「「殿下に言われたくない!!」」

「天丼!天丼だなコラ!ブチ殺すぞお前ら!」


「こうなったら殿下、一つだけいい案があります」

「ん……なに、もう好きに言えよ」


疲れ切った王子が、テーブルに突っ伏して、手をヒラヒラさせる。では、と取り巻きの一人が言う。


「お笑い芸人になりましょう」

「その人生最後の賭け俺たちにきつくねぇ?」

「でもこのままだとニートですよ俺等。王宮内ニート」

「それでもただ飯食えるなら俺はそれでもいいんだけどなぁ」

「さすが殿下!国民の血税で飯を食って臣下を殺した人間が言う台詞には説得力ありますね!」

「おいバカやめろ。マジでやめろ。今きついからマジでやめろ」

「あっ、なんかすみません」


とりあえず、黙々と書記を務めていた男の下書きが提示される。


死刑を魔法で免れたミゼット嬢をどうするか。


・もう一回殺す

・もう一回異端審問

・お笑い芸人になる


「碌なのねぇ……誰だよ三人寄らば三途の川って言い出したやつ」

「色々間違ってますが状況的にはあってますね」

「やめろよもう……っておい、これ、最後の落書き、これなんだ?」


王子が下書きを指す。そこに、「ミゼット嬢の使徒になる」と誰のものかわからない案が書き込まれていた。


「これは?」

「我々は一度ミゼット嬢を葬った張本人です。故に、彼女が間違いなく死亡したのを確認しています」


まさか落書きに着目されるとは思っていなかった書記が早口で言う。


「つまり、彼女が甦ったのを知った、かつての裏切り者という立ち位置です。つまりここで改心して、彼女へと下り、かつてのメシアの弟子たちのように振る舞えば、我々も社会的な体裁は繕えるのではないか、というものです」

「うん……そうねぇ」


よし、と王子が手を打った。


「全員傾注!碌な案が出なかったので、(この発言に、発案者の書記が目を剥いた。)一番良さそうなこの案を実行する!さあ、みんな揃ってミゼットに謝りに行こう!」


おお、と皆が声を上げた。物陰に隠れたメイドが、懐から取り出した軍用無線で、どこかへ暗号化された通信を電波に乗せ、彼らの動向を報告していた。


「お帰りください」


ミゼットに会うどころか、その使徒であるドリアに塩をぶっかけられて、王子たちは立ち尽くした。


今やミゼットは国内の公爵領を用いて領内に一大宗教圏を確立し、国の中に国が出来上がりつつあった。


「いやー惜しかったな。まあいい、もう一回、帰って何か策を考えよう!」


王子が笑う。


「そっすね!」

「あ!ミゼット嬢のフィギュアか土産物屋に売ってる!」

「甘いな。俺が買うのはこのドラゴンのシャーペンだ!」

「おいおい、木刀は買うなよ?俺たちは、帯剣を許された高貴な身分なのだからな!」


HAHAHA、と少年たちの笑い声が響く。


もう少しずる賢く動けば、悪辣さを元に処刑できるのに。


大人たちが頭を悩ませる中、彼らの周りは呑気な時間が流れていた。




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