3-10:宴の準備3
程なくして診察に訪れたのは一人の白衣を着た男性だった。
背が高くて全体的な印象がぽやーっとしていて、こちらの世界にまさかあるとは思わなかったビン底眼鏡を掛けている。金色の髪をくしゃくしゃにしているけど、無造作ヘアというわけじゃない、多分あれは全部寝ぐせだ。
けれど医師は跳ねた毛先を気にすることもなく、サイズの合っていないよれよれの白衣とくたびれた黒い診察鞄を持ってゆったり歩いてくる。身なりに無頓着な人なのだろうか?
医師は胸元から銀製のドッグタグを取り出すと、カレンに提示し確認を待っていた。
カルフォビナ所属職員なら誰でも持っているその認識票には、所属する部所などの個人情報が記載されている。ちらりと見えた表面には、医療部と同じエメラルドの石と、カルフォビナの象徴である竜の刻印が打たれていた。
「あら? 貴方一人ですの? 他の方々は何処へ」
「ここ連日の徹夜で撃沈してますよ。陛下から急遽入った仕事でしたのでね。アズラミカ女医も今日は使い物になりません」
「え!?」
やっぱり昨日の時点で限界だったのか。いつもみたいに飄々としてなかったし花も萎れていた。アズラミカの属する樹人族は適度に光を浴びないと倒れてしまうと聞いている。もしかしたらあの装置の研究で、ろくに外出も出来ていないのかもしれない。
申し訳なさが先にたって心配になっていると、カレンが目を眇めて医師のドッグタグを眺めていた。
「しかし男性一人寄こすだなんて、アズラミカにしては気が利かないこと……」
「申し訳御座いません、侍女頭殿。それで私の患者はどこに?」
「この方ですわ」
分厚い眼鏡の奥から強い視線を感じて、ぴっと体を立たせる。城で見たことないから初対面の人だろう。そう思って笑顔でしっかり礼を取ると、軽く会釈を返してくれた。
「では、診察を始めましょうか」
「宜しくお願い致します」
それからカレンとミラリナの監視の元、手足の長さや身長体重。体内温度に水分保有量、食事をした後の増加量など簡単な検査を受けていった。
亜人と同じ体だけれど、改めて見ると以前とは少し違う。肌がつるんとしていて産毛がないし、産まれた頃からあるホクロや、小さい頃に木から落っこちた時に出来たお腹の痣もない。
しかも関節を曲げると普通だったら絶対にありえない角度までぐんにゃりと曲がる。痛覚は前と同じでまったくないのだけれど、だからこそ不気味差も増す。
まるでつなぎ目の無いソフトフィギュアみたいだ。
「あの、アズ先生はどんな状態ですか? 今日お会いすることは出来ないでしょうか?」
「無理でしょうねえ。昨日寝室に入ってから完全爆睡。一応声は掛けましたが、起きる気配もありません。言付けがあるのでしたらお伝えしますが」
「あ、えと。いいです。……自分の口でちゃんと伝えたいので」
「そうですね。その方がアズラミカ女医も喜ぶと思います」
心配だけれど、睡眠妨害してまでお見舞いに行くのもなんだかおかしい。けれどあとで絶対お礼に行かなくてはと思いながら、診察が終わるのを待っていた。
医師は坦々と書類に記入しながら、私の眼の色や舌、喉の奥を確認して体に蒼色の石の付いた聴診器もどきを当てる。不純物が無いか最終確認するそうで、発見されると石が赤く光るらしい。体を見られるのは正直かなり抵抗があったけれど、ミラリナが薄布を持って前を隠してくれたのでかなり安心した。
「可動部分にも体内にも異常は見当たりませんね。怪我をした際の応急処置は、スライム体の時と同じですが、飲み過ぎや食べ過ぎには充分注意してください。スライムを人型に固定したのは初めてのことですから、どんな不測の自体が起こるとも限りません」
「は、はい。わかりました」
飲み過ぎ食べ過ぎ注意って、なんだか健康診断に引っかかった中年男性への警告みたいにも聞こえたけれども、しっかり頷くと医師は診察鞄に書類や医療器具を詰め込み始める。
「では。何か入用の際はすぐにお呼びつけ下さい」
「ありがとうございました。医師様」
医師はビン底眼鏡をすっと押し上げて会釈をし、さっさと石碑の間から出て行った。実験動物を見るような目線を向けられなくて安心はしたけれど、カレンの妙に鋭かった視線に動じないあたり結構マイペースな人らしい。
「さあ、モモコ様。支度をいたしましょう」
「あのでも私、服を一つも持っていないのですが」
「それについてはご心配なさらず。私共の方でご用意させて頂きました」
ミラリナは鏡台の後ろから黒い化粧箱を持ち出すと、その中から取り出した服を私の前に当ててみせた。
丸襟の白シャツに胸元が大きく開いた半袖の黒いパフスリーブワンピース。腰元には円形の白いフリルエプロンが付けられている。白で纏められた揃いのガーターベルトとレース付きのオーバーニーソ、黒の革靴を履かされて足の具合を確かめる。そしてミラリナに丁寧に髪を梳かれて、綺麗に結い上げられ、最後にヘッドドレスを付けられて完成。
着せられた全ての服や靴。下着までぴったりと体に合っていて驚いた。体全体とほつれ一つない完璧なまでの編み込みを鏡で見ながら、ミラリナの手先にも改めて感心する。
「急ぎで作ったのですけれど、身頃が合っていて良かったですわね」
「ええ。とってもよくお似合いですわ、モモコさん」
「カレン様。ミラリナさん。ありがとうございます!」
二人が着ているクラシカルなタイプではないけれど、新人侍女達が着ているものとまったく同じ服だ。これで正式に小間使いとして認められたみたいで、嬉しくて口がにまーっと緩んでしまう。
この仕事着、一度でいいから着てみたかったんだよねえ!
パニエが入っていてふんわり広がるスカートの裾を持ってくるくる回ると、エプロンのリボンが一緒に揺れて、服が肌にサリっと擦れた。
「あひゃッ!?」
「どうかされましたか?」
「あ、いえ。大したことじゃないと思います……」
いま一度だけ妙な違和感を覚えた。けれど意識してみると余計に布地が体に障り、ムズムズとして擽ったい。なんでだろうと原因を考えて、でもすぐに思い至って、かなり顔が熱くなってきた。
スライムの時は別に気にしていなかったけれど、いつも裸同然だったんだなー……。
四ヶ月半も裸族だったら、そりゃ違和感もあるかもしれない。別に直接身体を見られたわけじゃないけれど、そう考えると猛烈に恥ずかしい。
まあ、あのまん丸ボディでは取っ掛かりがなくて、服なんか着れるはずもないのだけれど。
「ほう、上手く化けたの」
「陛下!」
石碑の間に戻ってきた女王は、すでに普段とまったく同じ余裕の表情に戻っていた。それでも嬉しくてふらふらしながら側へと駆け寄る。
「陛下! 陛下! カレン様とミラリナさんに侍女服を用意して貰えたんです! これでちゃんとした小間使いとして見てもらえます! 陛下! 陛下! ありひゃひょうひょひゃいまひはッ!」
「解ったから少し落ち着くのじゃ」
お礼を言っている途中で、何故か片手で両頬をぶにっと押し潰された。でも邪険にはされなくてそれが嬉しくて笑う。すると体をくるりと一回転させられて、何故かカレンの方に向けさせられてしまった。
「カレン。この脳天気に付けてやれ」
「畏まりました」
女王から放られたものをカレンが素早く受け取り、私の首元に取り付ける。カチッと軽い金属音がして鏡を見てみれば、そこにあるのは黒いチョーカーで、留め金の部分には銀で目の刻印が打たれていた。かなり小さいけれど多分エレベーターに付けられているものと同じ形だ。
「陛下。これはなんでしょうか?」
「迷子札じゃ。宴の場で迷子にでもなられると面倒だからの。浮かれるなとは言わぬが、正体を暴かれた後の状況くらいは想定しておくことじゃ」
「正体……? あ……ッ!」
「ほんにぬしは頭が緩いの」
「き、気をつけます!!」
体は変えられても中身はまだスライムなのだから、見つかったら食べられる可能性があることをすっかり忘れていた。完全に緩んでダルダルになっていた気を慌てて引き締める。
「陛下。調整が終わりました。ネブラスカ様にも通達しましたので、いつでも出立出来ます。騎士隊の再編成をされますか?」
「うむ。それについてだが少し考えたいことがあっての。────モモコ。そろそろ出る。ぬしも支度があるのなら今のうちに致せ」
「は、はい。ただいま」
ミラリナを従わせて書類を見に行った女王の後ろ姿を見送り、仕事用にいつも持ってきているポシェットを漁る。とはいえ持っていけるものといえば認識票と兎のストラップくらいしかないのだけれど。
取り出した蒼色の石の付いたタグとチェーン。いままで何度付けても落っこちてしまって付けられなかったそれを、いそいそと首から下げて重さを確かめる。
この蒼いサファイアは女王直属の証だ。トロテッカの固有文字でモモコと刻まれたプレートに満足して何度もそこをなぞった。
人になれたことで出来る事、その一つ一つが嬉しくて口が緩んでしまう。
けれどストラップを取り出すと、高揚していた気持ちが少しだけ萎んだ。
いつも持ち歩いていたから、少しだけ毛先がぺちゃっとしてくたびれてしまった兎。元の大きさに戻ると兎もかなり小さく見える。黒い目を静かにこっちに向けているだけで、以前のように元気に動く気配もない。金の鍵穴を少しだけなぞって、そっと手を放した。
「…………」
少しだけ迷ったけれどストラップも一緒に留めつける。胸のあたりにだらんとぶら下がる銀のドッグタグと兎のストラップ。侍女服には似合わないけれど、やっぱりこれを持っていると安心するし、少しだけ繋がっていると感じることができる。
シャツとワンピースの間にその二つを仕舞い込むと、位置を直してぽんぽんと服の上から叩いた。
「おしッ!!」
やっと念願の人の体を手に入れたんだし、いまは少しでも長く喜びに浸っていたい。まだモゾモゾするけれど、スライムの時と違ってどこもかしこも調子が良い。形を変えただけにしてはとても性能が良い体、それを使いたくて仕方がない。
宴に行く前に少しでも足を慣らしておくのもいいかもしれない。そう思って石碑の間を歩いていると、カレンが静々と私の前に立ち手を引いた。
「モモコ様。折角ですから、もっと可愛らしくいたしましょう」
「はい?」
カレンに手を引かれるままに椅子に座ると、シュッと何かを吹き付けられて甘い匂いが周囲に広がった。とてもいい匂いがして、スンスン鼻を鳴らすとカレンに笑われる。
「気に入りまして?」
「はい。とってもいい匂いですね。新商品かなにかですか?」
ハート型の赤い香水瓶にはピンク色のリボンがくるりと巻き付けられていて、赤い蝋でカルフォビナの封が押されている。女王が使う香油や香水リストをチェックしているけれど、この手のデザインはまだ見たことがない。
それをたっぷり、というか念入りに吹き付けられ、鼻がむずむずとしてくる。香りは控えめみたいだけれど、こんなに掛けられたら……。
「ぶへくちょいッ!! か、カレン様、かけすぎです!」
「あら、ごめんなさいませ。けれど念入りに掛けた方がより効果がありましてよ」
「そ、そうなんで、へーちょッ! なぜ顔面目掛けて吹きつける必要性が、へくしょいッ! あの!! ど、どういう効果があるのですかね!?」
更に吹き付けられそうになって慌てて噴射口を指で抑えると、カレンは笑顔のままにチッと舌打ちをした。
……それ、もの凄く怖いのでやめて下さい。
嗅覚が麻痺しているから解らないけれど、香水をこんなに掛けたら相当臭くなるんじゃなかろうか。困惑しながらカレンを見上げれば、六角形の模様の入った瞳がすっと細められている。
この御方、たまに顔の上下半分で温度差があるから恐ろしい。
「うふふ、美肌効果ですわ。最近は売れ行きが良すぎて、市場にもなかなか出まわっていない香水でしてよ」
そんな貴重な香水を私などが使っていいのだろうか? それこそ女王に使うほうがいいのではと疑問を口にする前に、今度は顎を固定されて顔に化粧下地を叩き込まれる。人にやってもらうこともだけれど、がっちりメイクなんて初めてのことだ。
ブラシが動いていちいち吹き出したくなるのを我慢して、終わりにカレンが差し出した鏡を見れば。
「ふおおおおおお!!!」
日本人顔でぺろーんとした顔が、化粧によって目鼻立ちがはっきりとしたように見えた。
「凄いですカレン様! め、眼がぱっちり二割増しです! 二重くっきりです!! 睫毛わっさわさです!」
「宴の開始時間は夜ですからね。少し濃い目にしてみましたわ。気に入って頂けまして?」
「はい! ありがとうございます!」
「うふふ。素敵な夜をお過ごしくださいませ。────上手く行けばもっと城が賑やかになるかもしれませんし」
「え? あの、それは一体どういう……」
「うふふふふふふふ。モモコ様。他領の者はとても粗野ですからね。誰彼構わず付いて行かず、陛下のお側でしっかりと、小間使いとしての義務を果たすのですよ。貴女はカルフォビナ侍女一同の代表として陛下のお側に立つのですから、その顔に泥を塗ることがないよう、充分立ち振る舞いには気を付けてくださいませ。────解りまして?」
「は、はい」
笑顔の圧力にビビりながらも頷くと、カレンはそれはもう超絶笑顔で女王の元へと去っていく。いつになく機嫌が良さそうだけれど、何か嬉しいことがあったのだろうか。
というか早口でまくし立てられたから一瞬聞き逃しそうになったけれど、侍女代表って結構責任重大のような……。
「では、そのように致せ。行くぞえ、モモコ」
「はい。陛……ぐえっ!」
いきなり腰から引き上げられて、肩に担がれてしまった。お、お腹が潰されております! というかこの体勢、パンツが見えてしまいます!
「へ、陛下! 私自分で歩けます!」
「今だけじゃ。あとでたっぷり歩かせてやるから黙っておれ。────カレン、ミラリナ。わらわが居らぬ間、しっかり監視するのえ」
「畏まりました」
「陛下、お気をつけくださいませ」
二人の言葉にひらりと手を閃かせると、私を抱えながら女王は石碑の間の扉を開けた。
観音開きになった外、騎士達が槍を掲げ恭しく頭を垂れる寸前、私を見てぎょっとする。けれどこちらとしてもへらっとした笑顔を返すことしか出来ない。
そうしてすれ違う度に戸惑いを見せる騎士や侍従も構わず、女王はエレベーターのある方向へと足を向けた。何度も何度も住人と目が合うのが恥ずかしくて、思わず手で顔を覆う。
そうして米俵のように担がれたままエレベーターに飛び乗ると、女王は円柱ではなくその横にあるレバーを倒した。蛇腹式の天上がスライドして、六角形状の石壁が頭上に見渡せる。
ここは大きな荷物を運ぶことも多いから、最上階以外吹き抜けになっているけれど。……まさか。
「へ、陛下。あの、もしかして」
「しっかりと口を抑えて掴まっておれ」
「や、やっぱりぃい……!」
思ったとおり、女王は私を抱き直すとその場で蒼い翼を伸びやかに飛び出させた。そして翼を数回はためかすと一気に最上階目がけて突き抜ける。
地下15階から地上7階までの蜂の巣のように入り組んだこの城の中で、唯一地上に直結している場所といえば此処しかない。それは分かっているけれども、まさかこんな所で飛ぶという考えはなかったし、高速移動時に起きる強烈な衝撃を再び味わう羽目になるとも思っていなかった。
飛ぶたびに六角形の構造をした石壁が目に入ってくるのも相当キツイ。それでも振り落とされるのが怖くて目を瞑って、女王の首元にぎゅっとしがみつく。
「ッ……ッ!」
ジェットコースターで頂上に付いた時のようなあの独特の浮遊感。それを体に感じたとき、飛行が一気に緩やかになった。
「もう口を開けても良いぞえ」
「へぁ……」
言われてようやく、がっちり閉じていた目やら口やらを開く。
すると眼下には、それはそれは美しく青紫に染まった鮮やかな空が広がっていた。日が暮れる間際にだけ見ることができる紫と橙色のグラデーション。そして遠くに見える夕日色に染まった雲と運河に、一瞬で思考を奪われる。
「うわぁ……!!」
「夕刻か、まあ良い頃合いじゃの」
ランカスタと一緒の時は色々余裕がなくて景色を見ることが出来なかったけれど、女王と共に遙か上空から見渡す景色はとても素晴らしかった。
大小様々な建築が立ち並ぶ城下町、それを長い外壁と水が周囲を覆い、城を夕日色に染めて金色に輝かせている。
その周囲に咲く白百合に似たスターリリアが、先端から蛍のようなほのかな光を綿毛のように飛ばし、一気に風に舞い上がらせた。
その幻想的な情景の美しさに、女王の腕の中で思わず歓声を上げる。
「凄いですね陛下……! とても綺麗ですね!」
「ふん。これからもっと面白いものが見れるぞえ。ほれ」
程なくして夕焼け色に染まった景色の中に、黒くたなびく何かが見えた。こちらにまで近づくことはないけれど、有翼亜人の騎士達が横一列に並び、黒い布を引きながら目の前を通過していく。すると騎士が通った空の色が徐々に闇に染まり、町のそこかしこから蒼い外灯が灯り始め、色鮮やかな蒼い花火まで上がったのである。
温かい橙色から深い蒼色へ。瞬く間に作り上げられた素晴らしい夜景と、スターリリアから止めどなく溢れる光の粒に見惚れてしまう。
「……きれー……」
「宴の合図じゃ。他領の者らも続々と会場に来て居るの」
「本当ですね。騎士様方が沢山……。あれ? そういえば陛下の護衛は何処にいらっしゃるのですか? ネブラスカ様や騎士様は?」
いつも城の随所に配置されている騎士達や、警護と称してストーカー並みに側に張り付いているネブラスカが居ない。これは普段だったらありえないことだ。
まあネブラスカに関しては最近忙しそうでこの頃は直接目にすることもなかったけれど。そうしてぐるぐる周囲を見渡していると、額をペチッと叩かれた。
「案ずるな。見えない位置に配置してあるだけで、居らんということはない。ネブラスカは先に入場口で待機しているように指示してあるからの。後で嫌というほどに会えるぞえ」
「そ、そうですか。護衛がいないわけじゃないんですね」
ほっと一息つくと、からかうように鼻をふにっと摘まれる。
「なんじゃ。心配でもしたのかえ?」
「当たり前です。陛下が襲われたりしたら大変じゃないですか」
すっと見上げた目と鼻の先に、ありえないほどの美女っぷりを放つ御仁が居らっしゃる。その美の振りまき具合はハンパない。実際これだけ美しければ、色々危険があるのではないかと不安になるというものだ。
たとえ竜の姿であっても女王の信奉者は男女問わず多いし、ネブラスカ以外にも王配にと望む男性は結構多いのだ。私がお守り出来ればいいけれど、非力なスライムじゃどう考えても無理そうだし……刺されたら完全に刃物が体を貫通するので、盾にもならない。
かといって女王に何かあった場合、ネブラスカやカレンに怒鳴り散らされるのは必須。サラウンドで聞こえてきそうなお説教にぶるりと身を震わせると、面白がるような目線とかち合った。
「ほんにぬしは根っからの阿呆だの」
「へ?」
「わらわは見た目通りのか弱き女ではないのえ? 襲われたのなら襲い返すまでのこと。相手の四肢を食いちぎり、急所を捻じり切ればよい」
「ね、捻じり切るって……」
「大抵は頭と心臓か。まあ男ならば股の間にある……」
「わーわーッ!! いいです! 充分に解りました!」
「恥ずかしがることかえ? 相手の弱点を把握し、身の安全を図るのは当然のことじゃ。ぬしもそうなったときは躊躇わずもぎり取ることだの」
もぎり……。
女王の言葉に返す言葉もなく絶句する。
というかああいうの。保体の授業でしか見たことないけど、簡単に千切れるものなんだろうか……。けれど具体的にどうするのか、なんて問えるはずもなく、恥ずかしくて女王の肩に顔を埋めるしかなかった。