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3-4:お見合い2

 それからランカスタの言っていたお店に寄って、焼き菓子をテイクアウトして公園で一緒に食べることになった。城内部は女王のいる地下一階から十五階まで認証のない一般人は立ち入り禁止されているけれど、それ以外は一般にも開放されており、外部の人が内部の公共施設を使うことも多い。

 入れるのは上層と中層にいる亜人限定だけれども、公園では様々な亜人が食べ物を持ち寄り思い思いに過ごしていた。

 亜人と魔獣の組み合わせはそれ程珍しくもなくて、愛玩種は飼い主の膝の上でのんびりと背を伸ばして日向ぼっこをしたり、毛づくろいをしている。


「休日ともなると人が多いね。どこか開いてるところあるかな」

「あそこなんかどうでしょう?」


 木陰の部分を指し示すとランカスタはスライムな私を抱き上げながら、特に恥じいるでもなく普通にしてくれている。

 話題を提供してくれるから気詰まりになることもなかったし、私が慌てていると落ち着くまでまっていてくれる。どこまでもいい人だと思う。最初あれだけ気構えていたのが嘘みたいに、気がつけば私も普通に話していた。


「技術部の奴らは気のいい奴なんだけど、結構抜けてるところがあってね。没頭すると睡眠も食事も取らないし、なにやらかすかも解らないんだ。数日寝ないこともざらだからか、試験薬を飲み物と間違えて飲んでしまう奴もいるし、論文を見ているのかと思ったら眼を開けたまま気絶してる奴も居たね」

「気絶って……大丈夫だったんですかその人?」

「一応はね。医療施設には毎回お世話になってしまうけれど。けどこの間は納期間近だったからか皆キツそうで、助手が飲み物にコルモダンを入れちゃって大変な目にあったな」

「コルモダン??」

「南領の一部の地域にしか生えていない植物でね。触ると爆発して辛味成分を発生させるんだ」

「ば、爆発?!」

「ああ、そんなに大したものじゃないからね。一般的に料理にも使われている香辛料みたいなもので、食品の長期保存に使用できないかって試験中なんだ。けど助手が眠気覚ましにも使えるんじゃないかって言い出してね。辛味成分を抽出したものを入れたまではいいんだけど、お茶に含まれているレジア成分とコルモダンの持つヒュオ成分が反応を起こして刺激臭を放ってしまってね。その日は一日中洗面所と研究室を行ったり来たりの大掃除で、仕事どころじゃなかったな」

「……そ、それは大変でしたね」

「まあでも、お陰で食品成分由来の安全な防虫剤が作れたし、いい結果にはなったかな。ハハハ」


 連日徹夜続きの中で、爆発するレベルの超刺激的な飲み物を入れる助手。しかも結果は大惨事。納期間近で相当忙しいはずなのに、それでも助手の失敗を笑って済ませたという技術部の人達も凄い。基本的におおらかな人が多いんだろうけれど、私の所属している部所でやったら確実に袋叩きになるだろうなと思った。

 いつもは陛下の下について回ってるから、他の部所の仕事内容を改めて聞くのは初めてだけれど、ランカスタによれば今の時期は新商品開発に忙しく、何処の部所も同じようなものらしい。けれど技術部は毎日がそんな缶詰状態だからか基本的に出会いが少ないらしく、仕事仲間は適齢期が来ても皆独身なのだそうだ。


「モモコちゃんは陛下の直属だろう? 色々と気を使うことも多いし大変そうだね」

「あ、はい。でも慣れると結構平気ですよ。陛下は優柔不断が嫌いなだけですし、意思表示さえはっきりしていれば怒られることも少ないですし」


 それが解るまでに一ヶ月はかかったし、散々はっ倒されたけれども。女王の扱きのお陰か、最近では体の中に爪が突き刺さってもさほど驚かなくはなった。それがいいのか悪いのかは別にして。


「最近は対処法も編み出しましたからね」

「へえ。俺はいつも陛下の前に行くと萎縮してしまって、ろくに話も出来ないんだよな。あの陛下を恐れないだなんてモモコちゃんは凄いね」

「い、いえ。それほどの事では」

「いやいや。陛下のことだけじゃないけれど、君は本当に凄いんだよ。もっと誇りに思ってもいい」

「……は、はあ」


 そこまで褒められると照れてしまう。

 むしろ爪が甘い! ぬしは配慮が足らん! と女王やネブラスカにこづかれていて小間使いの評価は今ひとつ。なのにランカスタに褒められると満更でもなくなってしまう。舞い上がってしまうのを誤魔化すためにおもわずお菓子を口に含んだ。


「うーん。美味しかった! モモコちゃんはどうだった?」

「はい。とっても美味しかったです! でも本当にこんなにご馳走になっていいんですか?」

「大丈夫だよ。さっきも言ったとおり、研究室に篭って仕事してるとトピを使う機会があまりないからね。毎月税として搾取されるよりも、こうして使った方が俺も嬉しいし。だからそんなに遠慮しなくていいんだよ」

「は、はい。ありがとうございます」


 それから道路脇で目についた露店でアクセサリーまで買ってもらった。スライムの体には付けられないけど、ブローチぐらいならポシェットに付けられる。カルフォビナ領でよく見られるサファイアで出来た雫型のブローチ。

 それがとっても綺麗で、嬉しくてランカスタが苦笑するまで何度も何度もお礼を言ってしまった。


「もうやめて。モモコちゃん。流石にちょっと照れる……」

「うあ。ご、ごめんなさい。でもすっごくすっごく嬉しくて!」

「うん。そういって貰えると贈りがいがあるよ」


 そういってポシェットの縁にまでわざわざ付けてくれた。もう何もかもが優しくて、まるで夢みたいで、こうして一緒に歩いているのが信じられなくて何度も何度も頬を引っ張ってた。

 そのたびに笑われて、「そんなに引っ張ったらだめだよ」って骨ばった手の甲で頬を撫でられる。

 その瞬間、顔から火が出るのではと思うほどに熱くなった。

 死ぬッ!!! 心臓爆発するッ!! ほんとに粉砕したらどうしようッ!! ってくらいに慌てまくって、落ち着くまでランカスタの掌で文字通り転がされていた。


「でもよかった。君みたいな子が相手で。本当の事を言えば、少しだけ不安もあったんだ」

「不安、ですか?」

「失礼だけれどスライムって魔獣の中ではその……」

「ああ、はい。……下等域ですよね」

「うん……。先生に紹介されてなければ多分会うこともなかったと思う。けれど今日モモコちゃんと話して自分がいかに先入観に囚われていたか解ったよ。こんなに純粋な君になら、俺の大切な家族にも紹介できる」

「え……」


 なんでいきなり家族に紹介されるんだろう。もしかして、この流れって家族に紹介→婚約→祝結婚ッ!!? 一瞬だけ白いチャペルで挙式を行う姿を想像して、慌てて頭の中から振り払う。

 初対面で数時間喋っただけで結婚話とか、流石にねーよと自嘲するくらいには私はまだ冷静だ。多分。

 けれどもランカスタはこちらの心中など知らず、顔を逸らして俯いてしまった。


「少し身体的な理由があって、あまり満足に外を出歩ける方じゃないんだ」

「えと……。身内の方がですか?」

「うん。俺にとってはもう兄弟みたいに大事な奴なんだけど。陽の光が特に駄目みたいで、こうやって外に出るといつも苦しそうにしていてね。医者に見せたら、残念なことに夜中しか出歩けない特殊な体質みたいで……。いまじゃ完全に人見知り。気がついたらあんまり笑うことも少なくなってた」

「そう、だったんですか」

「俺はね、君とこうして一緒に遊べて本当に嬉しいんだ。嫌なこと全部忘れるくらいに楽しいし。でも凄く楽しいからこそ、アイツにも同じように感じさせてやれたらいいなって思ってさ」

「ランカスタさん……」


 多分その身内の人は、ランカスタにとってかなりの重要部分を占めている人なんだろう。本当に大事にしているのが伝わってきて、思わずランカスタの肩口を掴んだ。すると彼は笑って私の手を握り返してくれる。


「やっぱり優しいね。……モモコちゃん。お願いだ。もしも、もしも嫌じゃなかったら、アイツと会ってやってくれないかな?」


 そうして至近距離から、ランカスタの真摯な目に射貫かれてドキッとした。こんなにも真剣な、でもとても悲しそうな顔をされたら困ってしまう。まだ完全にこの人を信じてもいいのか解らなくてちょっと怖い。


「やっぱり駄目だよね……」

「いえ! あ、あの、私も会ってみたいです。その人と」


 気がついたらそう口に出してしまっていた。本当のことを言えばまだ怖いけれど、優しい笑みが曇っているのを間近に見てしまうと、不思議となんとかしなくちゃいけないと思ってしまう。


「……本当にいいの?」

「は、はい。ランカスタさんともこうして仲良くなれたんですし、その人とも仲良くできたら嬉しいです。でもスライムが相手じゃ逆に嫌がられるかもしれないですけどね」

「そんなことはないよ! 君は見た目も性格も、とっても面白くて可愛い」


 そうしてぎゅっと抱きしめられてにこやかな笑顔を向けられる。

 ど、どうしよう。体全体が熱い。絶対顔赤いのとかドキドキしてんのバレてる! でもこういうときは余裕ぶって背中に手を回すべき?! ガシッと一発お見舞いして親愛を深めてもいいのかね!?


「ら、ランカスタさん……ッ!!」

「本当に、……には勿体無いほどに可愛いよ」

「ん??」


 何が勿体無いんだろう。けれどもランカスタはこちらの困惑にも気がつかず、ローブの内側から財布を取り出してその中にあるものを手に取った。 

 目の前にあるのはおそらく家の鍵。私の部屋でもよく使っている銀色の金属プレートがちらりと見える。


「家に一緒に来てくれるよね?」

「はいッ??!」


 急展開すぎてついていけない。確かに身内に会うんだから家に行くのは当たり前だろうけど、改めてまた後日とかそういう展開だと思っていた。なのにいますぐって感じで、鍵を見せられるとかなり怯む。もしかしてこのままほいほいついて行ったら、大人の階段まで登らされちゃったりして……。

 ひいいいい! 怖い! そんなの無理!! 私まだ乙女でいたいです!!


「ら、ランカスタさん! やっぱり私……!」

「ありがとう。モモコちゃん。そんなに快く返事してくれるとは思わなかった! じゃあ飛ばすからしっかり捕まってね」

「へ?!」

 

 そうしてローブを解くと、ランカスタはその背中から灰色の翼を伸ばした。翼の先は鷹の羽根のように黒と白の模様がついており、内側はふんわりと柔らかな羽毛が生えている。鳥の亜人なんだと驚く暇もなく、ランカスタはニコッと笑い、次の瞬間私を抱いたままもの凄い速さで空を切った。


「ふむょええええええーーーー!!!」

「あ、口開けてない方がいいんだけど……。ってもう遅いかな」


 息ができないくらい苦しいのに、ランカスタは余裕で私を抱き抱えてローブの内側に押し込んだ。もう夏に差し掛かってるから仕方が無いんだろうけど、そこに入った途端、汗の匂いがして一瞬だけビビる。


「暫くそこにいてね」

「ひゃ、ひゃい!」


 もう無我夢中でランカスタの胴を手で掴みながら、必死で眼を瞑る。抱きついてしまったドキドキと得体の知れない恐怖に戦きながら、ランカスタの高速移動にもついて行けず、お腹のあたりでぐったりと蹲るしかなかった。





「だ、大丈夫? モモコちゃん?」

「ごめんなさい。だいじょばないです……うえっぷ……」


 ランカスタに抱き抱えられながら屋敷の中に入ったものの、先程のドキドキや恐怖感はすでになく、私の中には強烈な吐き気しか残っていなかった。

 まだ空を舞っているような浮遊感と、ぐるぐると回る視界がランカスタの姿を湾曲させる。心配して優しく背中を摩ってくれているというのに、お礼の一つも言える余裕が無い。それでも無理矢理に笑みを浮かべようとして、やっぱり無理でキッチンシンクの上に突っ伏した。

 ……しかし初デートで吐き気を催してる女って、相手の男的にはどうなのかなー。面倒くさいとか引かれてたら嫌だなー。あ、色々考えてるだけで気持ち悪い。もう無理。吐くわー……。


「ごめんね。モモコちゃん。つい、いつもの感覚で飛んじゃって……」

「い、いえ。こちらこそ迷惑かけてしまって申し訳ないです。むしろ耐久性のなさに自分でもびっくりしてます」

「いやいや。こっちは気にしなくていいから、落ち着くまでゆっくりしてて」

 

 冷蔵庫から瓶を取り出しコップに注いでくれる。それを受け取って口の中をもごもごと動かして更に吐き出した。

 ……あー本当に駄目すぎる。私駄目女過ぎる……。

 ぐるぐると廻っていた目線がなんとか定まってきた頃には、デートで最高に舞い上がっていた気分なんか吹っ飛んでて、完全に素の状態に戻っていた。

 冷静になってから見渡せば、ダブグレイで統一されたシックなお部屋が眼に入る。城と比べれば質素だけれど、中世時代に出てくるような猫足付きの長いダイニングテーブルに鮮やかなブルーのクロスが掛けられ、その上に乗る銀の燭台が目に眩しい。壁には当然のようにカルフォビナのタペストリーが掲げられている。ちょっとしたパーティーでも開けそうな広さはあった。


「ん? 落ち着いた?」

「あ、はい。なんとか」

「よかった。モモコちゃんに何かあったら、それこそ先生に叱られちゃうからね」


 そうしてぽむっと頭を撫でてくれるけど、先程のようなドキドキはない。むしろ申し訳ないというか、そういう気持ちの方が大きくなってて居心地も悪い。


「うん。顔色も大分良くなってきたね。でもアイツに会うのは無理そうなら後日にしようか」

「いえ、折角来たんですし挨拶くらいは……」

「そう? じゃあ連れてってあげるね」


 再び抱き上げられて一瞬ビクっとしたけど、ランカスタは宥めるように体を撫でてくれた。こんなみっともない様を晒したというのに、なんて優しい人なんだろう。

 そうして扉をあけて中庭に入り、手入れされた庭園と石造りの噴水を通りぬけると一人の女の人の姿が目に入った。

 真っ白な翼と揃いの長いストレートの髪を豪快にタオルで一本結いにし、灰色のツナギを着て作業をしている。お目目ぱっちりでまるでお人形さんのようなのに、その姿は容姿と違って格好よろしい。庭の手入れをしているのか、軍手で額の汗を拭いながら一生懸命に作業している。

 この屋敷の侍女だろうか? それを問う前にランカスタは私を抱き抱えながら走りだし、もの凄く嬉しそうに声を上げた。

 

「ただいま。マリエッタ!」

「あらあら。おかえりなさいませ。今日の帰宅は遅いと聞いていたのに何かありましたか?」

「うん。聞いてくれ! 前に話していたピーチスライム……いや、モモコちゃんが来てくれたんだよ!」


 そうして女の人の前に突き出されて正直タジタジになった。目の前のマリエッタという人はこちらを見て眼を輝かせ、まるでチークをはたいたように頬をピンク色に染めた。もの凄く嬉しそうな顔だ。初対面でこんなにも好意的に接してくれる亜人は初めてで、どう返していいのかも解らない。思わずランカスタを見上げるも彼はこちらを見るでもなく、マリエッタを同じように輝く瞳で見つめていた。


「まあまあまあ! 凄いですわ! 甲斐性なしのクソ野郎と貴方のことを毎日馬鹿にしていたのが嘘のようですわ!」

「そうだろう! そうだろう! いやぁ、これで我が家も安泰だよ」

「初めましてモモコさん! これからもこの惑わせ当主と私共々、末永くお付き合い下さいませ」

「は、はい??」


 マリエッタの言葉の中に、爽やかに挟み込まれている罵倒に戸惑い二人の亜人を見比べる。けれども二人はさして気にしたようでもなく輝く眼、たとえるならば星が入ったような瞳でこちらを眺めていた。

 気のせいかな。雲行きが怪しい気がするんだけれども。


「さあさあ、リンパギータちゃんに合いに行きましょうね、モモコさん!」

「あ、あの! ちょっと待ってください。リンパギータさんって……?」

「あらあらあら、やっぱり甲斐性なしのクズ野郎だわ! 大事な事なのに全く説明していないのね!」

「いや、ちゃんと説明したよ。僕の一番の友達であり、兄弟みたいな存在だって」

「また抽象的な表現をぶちかまして相手の方を惑わせましたね。その思わせぶりな所をいい加減直してくださいませんと、私も大変困りますのよ? それにモモコさんにも真意が伝わってませんし、全然説明にもなってませんわ」


 マリエッタはニコニコ笑いながらもランカスタの脛を数十回は蹴り上げ、地味にダメージを与え続けていた。けれどもランカスタは一切怒ることなく、むしろ頬を紅潮させてハァハァと喘いでいる。

 ……先程まで私の前にいた紳士的なランカスタは何処へ行ったんだろうか。

 あれこそが幻想で、いまここにあるのが真実なのか。いやそんなことは考えたくない。というかこれから起こり得るだろうこと、そして嫌な予感が当たらないことだけを祈る。 

 しかし庭にある大きな木の洞まで連れてこられると、予感は確信へと変わった。

 

「これが我が家の甲斐性なしの旦那様の唯一の良心、そして魔界一可愛いリンパギータちゃんですわ!」

「ヘー。ソウナンデスカー」

 

 本能が穴の中を見るなと言っている。けれどもその穴の中からのっそりと出てきた物は私の視界を遮るように、丁度真ん中へ出没しやがった。


「ワー。トッテモトッテモ大キイデスネー」

「マルマルタ種といって、高級食材としても認可されている由緒正しい魔獣ですのよ! モモコさんの格と同等の認知度ですわ」

「うんうん。こうして二匹を並べると意外にお似合いだね、マリエッタ!」

「そうですわね!」

「スライムとマルマルタの掛け合わせなんて想像付かないけど、もしも二人の子供が産まれたら僕等夫婦が一丸となって育てるからね……!」

「あらあらまあまあ! 気が早すぎて寒気すらしますわよ! モモコさんの承諾を得ないことには、二匹の間で子作りなんか出来ませんのよ?」

「あ! ……そうだね! 気がせいてしまってすまないね。いつも説明が足りないって、この妻には怒られてしまうんだよ」

「まったくもう。どうしようもない旦那様なんだから!」


 二人夫婦漫才を真っ白になりそうな思考の中で聞きながら、私はリンパギータを見上げていた。数時間前にあったランカスタとの思い出がガラガラと音を立てて崩壊し、風と共に去っていく。

 さようなら甘い青春。いらっしゃい辛い現実。

 丸い穴から出てきたのは真っ黒な巨体と大きくて黒い円な瞳。こちらを見て恥ずかしそうに前足を組み合わせ、キュロキュロと可愛らしい鳴き声をあげている。その姿はどこからどうみても可愛らしい────ムササビ。


「で、どうかなモモコちゃん! 君のお見合い相手としてうちのリンパギータは!?」

「トリアエズ、オ友達カラオネガイシマス」


 ……そら夜行性ですもん、日中外とか出歩けませんよねー……。


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