狭間の章
一人の男が世界の有様に呻き、嘆いていた。
破壊の一途を辿るその道筋の中で見出したものは少ない。
希望・夢・愛。そんな空想に近いものは無く。
無秩序の中で生まれるのは享楽と破壊。
ただ残るのは深い絶望と混沌。
男は殺戮の歴史を見続けた。
壊れた世界を再生し続け、人々の為に男は自分の人生を潰した。
残ったのは賞賛と秩序と少しの平和。
だが男の胸のうちに開かれた空虚を埋めるものは誰もいない。
男はすべてをやり遂げたある日、ついに世界を見放した。
「もう、この生活に疲れた……」
永遠に近い業。
男は死ぬことすらも許されず、
その世界に縛り付けられていることに次第に恐怖を抱いた。
いつまで続ければいいのだろう。
この世界の維持を。繰り返し起こりえる殺戮の未来を。
誰にも語ることのできなかったそれを男はある存在に吐露した。
それはただ吐き出すだけの行為であり、意味はない。
この世界から逃げ出すことなど許されない。
そうして諦めていたからこその言葉。
しかしその存在は男の言葉を受け入れた。
男の為に次元を捻じ曲げ、ある一つの世界に男を落とす。
男は代償として力を奪われ、身一つで落とされた先の、その美しい世界に涙を流した。
そして目の前に広がる自由と、重圧から解放されたことに無邪気にも歓喜する。
男はその存在に感謝の念を抱き、その世界に傾倒していった。
────それが新たな苦痛の始まりだったとも知らずに。