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1:異世界に行く方法

 昔からファンタジー小説は好きだった。有名所のゲームも一通りやったし、映画も基本的にファンタジーな、それも恋愛が絡んだものは大好物だった。

 現実世界からの逃避、妄想はいつものこと。

 もしも一億円当ったらと夢想する人も多い中、私はそれがもしも、異世界に行けたら……だっただけ。

 ついでにいえば恋愛FTのテンプレとも言える高スペック、いわゆる色白金髪碧眼美少女、しかも才女とか天才とか羽が生えちゃったり膨大な魔力があったりして、王子様とか騎士とか魔王とかその他もろもろの超絶美形と恋に落ちたり、私を巡って争わないで~な展開になったらいいな、なんて妄想するわけです。

 現実社会という名の残酷なリアルの中で、心の中で思っているだけの極ささやかな望み。


「…………確かに異世界に行きたかったよ。うん」


 私は白い雪に閉ざされた森の中に一人佇んでいた。

 ここは多分異世界。もしくは外国。やっと望んだ世界に潜り込んだというのに私の気持ちは暗いままだ。

 なぜならば、天才超絶美少女になるわけでもなく、世界を破壊するほどの強大な力を得るわけでもなく、慈愛があふれ出る天使のように愛らしい姿でもなく。

 ぷるんぷるんと透明感に溢れるスライムの姿でここに来たのだから。


「………………どうしてこうなった」


 私のかなり寂しいつぶやきは雪の中に塗れ、どこに届くことも無くあっさり霧散した。



 事の起こりは数日前に遡る。

 異世界に行きたいという願望が日々募る中、私はいつものようにネットサーフィンをしていた。検索すると意外にも異世界に行く方法というのはあるもので、WEBに記載されている方法はとにかく片っ端から試した。

 エレベーターやら鏡やら階段やら幽体離脱やら。ありとあらゆる方法を試したが、結局私は異世界に行くことは出来ず仕舞い。

 そうして半ば諦めかけた頃、私はとある検索項目に眼を留めた。

 なんの変哲も無いテキストリンク。けれど明らかに他のリンクとフォントが違う。象形文字のような不思議なテキストリンクをおそるおそるクリックすると、これまた不思議なオカルト系サイトに繋がった。

 黒一色で統一された妙におしゃれなFLASHのHP。その中のメニューに異世界に行く方法という項目を見つけたのだ。

 方法は簡単。牛三つ刻に近所の神社に行き、黒装束を着け、頭に蝋燭を五本刺し、熊のぬいぐるみを持って「異世界に行きたい」と気持ちを込めて叫ぶというもの。

 牛の刻参りとなにかが混じったようなそのへんてこな儀式に、最初は笑って項目を閉じたのだ。

 もしも人に見られたらあらゆる意味で社会的に抹殺されそうな行為、そんな、恥ずかしいこと普通の人間ならばするわけがない。

 けれど私はやった。

 躊躇無くやった。

 声が枯れるくらいの大声で言った。


「異世界に行きたい!」


 元々精神的に不安定だったのに加え、その頃の私は箸にも棒にもかからない就活戦争に疲れ、人間関係にも疲れていた。ゲームでも小説でも癒されないその疲弊。もしも行けたらモウケもんだくらいの気持ちが一割。九割は本気だ。

 幸い私は実業家の家系の中でも相当の味噌っかすで、普段から関心を持たれていない。こんな馬鹿なことが出来るのも学生である今が最後。そう思って書置きもしっかりと残しておいた。


『しばらく外国に行ってきます。お元気で 桃子』


 こんなことをしたら、またどうしようもない甘ったれだと家族に思われ、益々見放されてしまうんだろう。けれどもう腹は決っていた。もしも今回の異世界行きが駄目でも、元々あの家からは出ようと思っていたんだから。

 そうして私は小学校時代からこつこつ貯金していた全財産とパスポート、携帯に着替えと準備万端整えて、頭に五本の蝋燭を刺して熊のぬいぐるみを持って奇行に及んだわけである。



「いや確かに異世界に行きたいって言ったけどさぁ……」


 これは無いだろとぷよんぷよんの腹を抓る。ピンク色のボディにツルンとしたゼリーのような透明感。強度は結構あって、ジャンプするとグミみたいな反発力がある。そしてなんだか体中から良い香りがした。

 勿論人間の手足や胴体は無い。けれど己の意思によって手らしき触覚みたいなものが身体から伸びるのである。勿論収納も可能。

 こんな雪の中にいて寒さを感じることも無く、雪に触れていても凍傷等の被害も無いようだ。便利なのか不便利なのか良く解らない身体を動かしながら、私はこの世界に一緒に来た相棒・熊のぬいぐるみをぎゅっと握り締めた。

 急ぎで用意した為に造作をあまり見ないで購入してしまったが、眼がヒラメのように離れていて結構マヌケな顔だ。

 まあ、これでもあちらの世界から一緒に来た相棒と思えば、可愛らしいと思えないことも無い。


「っていうかここどこ?」


 呆然と森の中から見上げる。しんしんと降り積もる雪は地面を埋め尽くし、私の存在まで埋め尽くしそうだった。


「っていうか埋まってるー!!!」


 頭の上に蓄積した雪を身体を揺らして払い、私はとりあえず今日の寝床を確保するために周囲の探索を始めることにした。

ちょっとアレな主人公ですが宜しくお付き合いください。

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