魔法の授業
次の日は強い雨だった。
だが、魔法や武器の扱いの指導があると聞いていたので、気持ちは晴れやかだった。
浅沼、木ノ下、宮田とともに朝食をとった。
パーティーや昨日より虫系の料理が少なくなっていた。
不評だったからか、雨が関係あるかはわからない。
宮田は少し残念そうにしていた。
見た目がグロテスクな食材というのは日本でもあったし地域が変われば食性が変わるのもある種必然だ。
俺にとって念願の魔法の授業が始まった。
俺のスキルがおそらく弱く、ステータスも弱いとくれば、努力で何とかなるかも知れない魔法というものに惹かれるのは当然ではあるし、魔法があるとなればやっぱり憧れると思うのだ。
授業中に言われたことは、魔素という物質があると考えられており、魔力のみを扱い魔法を行使するわけではないこと、そのため天候、強い雨が降っている場合や乾燥地域等、魔法の属性にもよるが影響が出やすいこと。
魔法には単純に自身の魔力と魔素を使うものと、魔素以外の外的な力を行使し行うものの二つがあること。
属性は大まかに火、水、風、雷、土、聖、闇、無があるらしく、ただ具体的な線引きはされていないらしい。
一番最初に行われたことは魔紙という魔力に強い反応を示す気を使って作られる紙に魔力を流し込み、自身の得意な魔力を判別するというものだった。
俺は最初魔力というものの感覚が全くわからなかったが、アイーネ先生が魔力を俺に流してくれてようやく理解することができた。
アイーネ先生が魔力を流し込む際に手を合わせるのだが、
「コウタロウ?さん、痛くはないので力を抜いてリラックスしてくださいね?」
と笑顔で言われ心臓は当然ながら早鐘を打ち、余計に体が強張った。
おそらく天使なのだろう。
だが合わせた手は傷だらけでごつごつしていて、とてもかっこいいと思った。
体の魔力を動かす感覚は筋肉に力を入れる感覚に非常に似ていた。
手に魔力を集め魔紙に触ると、魔紙が少し固めた薄い板のようになり、すぐに砂のように崩れ落ちた。
周りは湿ったり、発火したり、焼け焦げたりと様々だった。
浅沼たち三人も魔紙によるテストを受けているはずだが、昨日は一切言っていなかった。
三人は黙っていてくれたのだろうか…お前ら本当に最高かよ。
それからは、球形をはさみつつ魔力を行使してみるとのことだった。
各々が行動を始める。
俺は両手を地面につき、地面を隆起させることをイメージする。
両手では体を支え切れないほど力が抜け、地面が直径10センチ高さ0.5センチほど盛り上がった。
「は?嘘だろ?」
俺は姿勢を保てなくなり緩やかに地面に突っ伏した。
ステータスを見るとMPが0になっていた。
MPの変わりにHPを使うこともできるのか?
HPもかなり削られていた。
――――――――――
HP7/15
MP0/3
――――――――――
少しの間突っ伏していると俺と同じくらいの年だと思われる若い助手みたいな人が俺を壁まで運び座らせてくれた。
「大丈夫かい?」
そう爽やかに微笑んだ。
「はい、なんとか」
「地属性は地脈の関係で扱いが他の属性より難しいから、勇者様だってそう気を落とさないでいいと思うよ」
「土ではなく地属性なんですか?」
「ああ、魔法学者にとっては土属性と地属性は大きく違うものみたいだが、どっちでもたいていは伝わると思うよ。」
「地脈っていうのは?」
「それは地面の下にある大きな魔力の通り道のことだよ。魔力は体外に出ると水中でも空気中でも地面の中であっても分散してしまう性質と、大きい魔力に引き寄せられる性質があるんだ。だから地属性はほかの属性と比べて魔法が使いにくいと言われているんだ。」
「なるほど」
「勇者である貴方と比べるのは失礼かもしれないけれど、私にも地属性の適正Ⅰっていうスキルを持っているんだ。勇者様が地属性でも戦えるということを証明してくれたらきっと地属性ってバカにされることは少なくなるかもなんて思うんだ。なんてね。」
そういう彼は期待の中に色濃く諦めが混じったようななんとも言えない表情をしていた。
残念ながら俺も地属性の適正Ⅰだ。
「そういうことだからさ、頑張ってくれよ、勇者様!」
「わからないことがあったら聞いてもいいだろうか?」
「僕に?いいよ」
そうおかしそうに言って彼ははにかんだ。
「俺は境本幸多朗だ。」
「僕はアレスだ。ただのアレス。普段は城付近の村や門の警備をしてるよ。なんで一般の兵士がっていう顔をしてるね。」
そういって彼は笑い
「王様が全兵士は勇者の手伝いを一度は行わせるようにと全兵士は勅命を受けたんだ。」
「なるほど、よろしくアレス。わからないことがあったら聞きに行くよ」
「僕に?コウタロウはだいぶ変わっているんだね」
爽やかに笑い。
「勇者様の期待に応えられるようにいっぱい勉強しておくよ」
そう言った。
「ああ、改めてよろしくなアレス」
「こちらこそよろしく、コウタロウ!」
そういってどちらともなく笑った。
実習が終わってから宮田、浅沼、木ノ下の三人と授業内容を共有する。
三人はモンスター、主にゴブリンの生態などについての授業であり、概ね昨日の俺たちの授業と同じ内容だった。
クラスによる進行速度の差はそこまででもないのかもしれない。
そう言えば俺は魔力の回復速度も人並みだということが分かって悲しかった。
半日で回復した魔力の総量は6で、一度目以外地面に変化を与えることができなかった。
HPが減少するほど魔力を行使したため以降体がブレーキをかけるようになったのではないだろうかと推測している。
魔力を行使する範囲をコントロールできれば大きく変わるのだろうか
三人に意見を求めるが、三人は実習中には魔力が一度も切れなかったそうだ。
あまりにも羨ましく、なんと参考にならないのだろうか。
筋トレを四人で行うことにした。
腹筋やスクワット、腕立て伏せくらいのもので、どのくらいの効果があるかわからないが、検証もかねて行う。
運動部ではない三人はきつそうではあったが勇者であることや、ステータスというわかりやすい数値があるためモチベーションが俺も含めて高かった。
次の日は4人とも筋肉痛だった。
STR等の数値の変化は四人ともみられなかったが、俺だけMPが4/4に増えていた。
MPは使えば使うほど最大値が増えるのだろうか?
そのことを3人に報告すると3人は自分のことのように喜んでくれた。
今日俺は宗教についての講義だった。
なんだかんだ転生?転移?のどちらかはしているため、神がいてもおかしくないのだろう。
簡単にまとめると、神が神自身を模した命を作った完成形が人間であり、その過程で獣と混ざったものが獣人、精霊と混ざったものがエルフ、魔族などと混ざったものが魔人である。魔物として扱われる魔人は意思疎通が不可能で魔物成分というか比率が高いものを魔物としているようだった。
人以外は亜人とまとめられるらしく亜人は失敗作で悪しきものとして扱われているらしい。
また、この影響で亜人の人権がこの国では基本的に認められていないそうだ。
この講義では亜人がどれだけ危険なのか、これまでどのような犯罪を犯してきたかを正教会の教祖様直々に語っていた。
講義を行ううちに半分以上の生徒の亜人への考え方が変わったといってもいいだろう。
教祖の言葉は、人を自然と惹きつけるような魅力があった。
俺も実際にあったことがないためわからないが、話を聞く限りでは魔物と同等の知能しか持たず、食欲や性欲のために他国を侵略したり人間を襲うそうだ。
ではなぜまだ人間が亜人を絶滅させていないのだろうか?
戦力の問題でできないのだろうか?
だが話を真に受けるのなら、亜人の国はこの前の講習であったダンジョンのような部類なのではないだろうか?
ここは実際に亜人と会えば解決するだろう。
講義中アイーネ・ツヴィア先生は教室にはいたが一言も話さず不服そうに教祖を眺めていた。
何か思うところがあるのだろうか?
講義が終わり終了かと思ったら再度ステータスやスキルの変化についての調査があった。
なんでも、この数値やスキルを鑑みて一人一人にあったプログラムで効率的に指導を行うためだそうだ。
だが、200名それぞれに指導を行うことなど可能なのだろうか?
とりあえず部屋に戻る前に訓練場に寄った。
地面に手を当て地面を盛り上がらせるイメージを頭の中に描く。
魔力が急速に減っていくのを感じる。
ジェットコースターで速度が上がったときに重力が体にかかっていく感覚に近いだろうか?
吐き気と頭痛がどんどん強くなる。
地面はやはり盛り上がらない。
強い眩暈を感じたため力を抜く。
凄まじい脱力感と徒労感。
ステータスを確認するとHPは減っておらず、MPだけが0になっていた。
暫くその場に座り込んでいた。
軽い気絶をしていたのだろう。
心配するようなアイーネ先生の言葉で目を覚ました。
「自主練は素晴らしいが気を失うほど追い込むことはあまり関心できないな。」
「すみません。」
「謝れと言っているわけじゃない。気を付けてくれればそれでいい。」
そういうとアイーネ先生は立ち上がった。
「ほどほどで帰るように。」
アイーネ先生が訓練場から去ったのを確認しステータスを開く。
MPは4まで回復していた。
反省等ない。
地面に手をつき魔力を込める。
より強い吐き気と頭痛。
手を地面から離したころにはMPが1/4まで減っていた。
地面は無論そのままだ。
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