徹夜と授業と自己嫌悪
浅沼、木ノ下、宮田の三人と話した結果、俺のステータスの合計値が異常に低いこと、また、三人のスキルが俺と比べて明らかに優れていることがわった。
「はぁ…」
どうしようもない事実にとりあえず溜め息をついておく。
「元気だすンゴ、きっとスキルもステータスも最初は弱いって人が後から覚醒して俺TUEEEEする王道展開ンゴ」
宮田は優しく励ましてくれるが、そうはいいつつも頬は弛み優越感が垣間見える。
きっと俺が同じ状況で自分が明らかに強いと自覚したらきっと同じような顔になるだろうから放っておく。
「でも適性ですよ?伸ばしたらものすごく強くなるスキルなのでは?」
と木ノ下が言う。
「いや、それはないみたいなんだ。農民でももっている人が多いスキルらしい。そう記録係の人が言ってた。」
食い気味に否定してしまった。
「そうなんですか…ですが我々は勇者です。きっと大丈夫ですよ。」
と木ノ下が優しく声をかけてくれる、本当にお前イケメンかよ…。
―――――――――――――――――
境本幸多朗
LV 1
EXP 0 /10
SP 0
HP 15/15
MP 3 /3
STR 5
ATK 5
VIT 7
DEF 3
INT 4
RES 2
DEX 4
AGI 8
LUK 5
パッシブスキル
地属性の適正Ⅰ
―――――――――――――――――
木ノ下圭太
LV1
EXP 0 /10
SP 0
HP 20/20
MP 11/11
STR10
ATK10
VIT10
DEF4
INT24
RES5
DEX8
AGI23
LUK6
パッシブスキル
雷の技巧
―――――――――――――――――
浅沼礼二
LV1
EXP 0 /10
SP 0
HP 27 /27
MP 9/9
STR14
ATK14
VIT12
DEF5
INT6
RES4
DEX7
AGI27
LUK7
パッシブスキル
風の技巧
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宮田剛
LV1
EXP 0 /10
SP 0
HP 34/34
MP 7/7
STR18
ATK18
VIT15
DEF15
INT5
RES3
DEX6
AGI7
LUK6
パッシブスキル
水の技巧
―――――――――――――――――
俺、なんにもないじゃん。
三人が言うには他にも火等の技巧持ちが複数人いて、全員が技巧のみで地属性の適性Ⅰのような数字付はいなかったそうだ。
技巧は少なくとも適正より優れているのだろう。
いいなぁ…はぁ。
「土の技巧持ちはいたのか?」
そわそわして聞いてしまう。
「あっていないでござる」
「ンゴ」
んご?肯定なのだろうか?
「私も会っていませんがもしかしたらいるかもしれませんね。」
「だよなぁ…はぁ…」
「きっと大丈夫ンゴ!元気出すンゴ!」
いるのかなぁ…土の技巧持ち…。
ステータスが近いからこいつらと一緒になったというよりはスキルが近しい者だったから一緒になったのだろう。
「そういえばスキルはないのか?」
「話した方たちも持っている方は少なかったでござるが、スキルって強く願ったらスキルツリーみたいなのが浮かんでこないでござるか?」
「おおー本当だ」
モヤがかかってはいるがスキルツリーが浮かぶ。
「SPを稼ぐ方法がわからないですがきっとSPを使って取得するんでしょうね」
頬が自然と弛む。我慢できない。
「境本氏にやけてるンゴ」
俺だけではなく全員の顔が弛んでいた。
「やっぱり…異世界に来たんだなぁ」
そうしみじみ呟くと
「ええ!」
「はい!」
「ンゴ!」
三者三様の答えが返ってくる。
心がふわふわする。
頬を軽く両手で挟み込むように叩きパンッと乾いた音を鳴らす。
「どうしたンゴか?」
「いやほんと…これからよろしく」
顔を叩いたのに頬は弛むし照れる。
「ええ」
「もちろんでござる!」
「ンゴ!」
「明日から授業と訓練が始まるっていってましたね、もうそろそろ寝ましょうか。」
「ああ」
興奮して寝れそうにないが、きっと他の三人も同じだろう。
ベッドに入り一時間程たった頃だろうか。
目を瞑っても全く寝れない。
スキルツリーやステータスが頭から離れない…。
あぁ…本当に楽しい。最初に陸上を初めた時みたいだ。
「誰か起きてるンゴか?」
「あぁ…」
「起きてますね…」
「眠れないでござる!」
四人で今後について他愛もない話をしていたら、ッキューーーーーという聞いたこともない動物の声が聞こえ、柔らかい朝日が差し込んでいた。
「おはよう三人とも」
「みんなちゃんと寝ないとダメですね」
笑いながら木ノ下が言いうと二人が笑う、勿論俺も。
朝食は昨日パーティーを行った場所でバイキングだった。
見たことがない食べ物ばかりでとてもおいしかった。
まあ、【カズレワの幼虫の蒸し焼き】っていう30cmくらいの幼虫を蒸し焼きにした料理は勘弁だが。
料理人は質の良いカズレワの幼虫を使ったと言っていたが高級なものだったのだろうか…。
きっとこういう食べ物にも慣れていかないといけないんだろうなぁ。
食後暫くして簡易的な授業の説明が行われた。
・モンスターについて
・魔法について
・戦闘技能について
・世界のことについて
の大まかに四つでそれぞれ講習と実技があるそうだ。
世界のことについての実技は主にサバイバル術の講習が行われるらしく、2ヶ月はこの四つを行うそうだ。
七つの部屋が準備され、呼名されて振り分けられた。
木ノ下、宮田、浅沼は3クラス目に、俺は最後のクラスだったことからおそらくステータスの合計値、又は、スキルの貴重度順だと思われる。
ちなみに俺は最後の最後に呼ばれた。
もし現在の評価順に呼ばれたのだとしたら悲しいものだ。
教室内にはもう30人近い生徒が待機しており見知った顔もいくつかあった。
空席は教室の前方にしかなかったため席側から見て右側の最前列に腰掛ける。
椅子が柔らかい材質で何時間でも授業を受けれそうだった。
俺が入室したせいで静かになった教室は徐々に活気を取り戻していった。
先生が教室に入ってきた。赤と黒の混じったストレートの髪に切れ長の瞳。背はそこまで高くないものの伸びた背筋と目つきも相まって正直怖い 。
開口一番言い放ったのは、
「あなたたちは一般人と同じか、少し強いくらいでしかありません」
だった。
あなたたち?やはりここにいる奴等は俺と同じくらいのステータス、スキルなのだろう。
「ですがあなたたちは無限の可能性があります。三度目に召喚された勇者ミヤケ様は召喚時には貴方たちよりステータスが低かったにも関わらず、魔王を討ち倒しました。」
崇拝しているような言い方ではなく、事実を淡々と述べているようだった。
「あの~、質問しても良いですか?」
そう間延びした声で聞いたのは伊藤絵莉という子だ。
前髪を斜めで切り揃えたショートボブで活発な子だったと思う。
芦田翔のことが好きだったらしく、関係ないこいつも俺に嫌がらせをしてきていた。
許容できる範囲の嫌がらせだったが、顔が可愛いだけにそれなりに悲しかった。
「はい、構いませんよ?」
凛然とした態度で返事をする先生。
「私たちより低かったってどのくらい低かったんですか?」
「最初の総合値が75しか無かったと記録されています」
「75!?私だって85あるのに?」
「はい」
俺は伊藤より20以上ステータスが低いのか…
まあ、あの三人は俺の2倍以上あったし伊藤も低い方にはいるのかな?
「総合値85は、この世界ではLV15の成人男性ほどの数値です。」
「そのLV15っていうのは?」
「レベルはその人の戦闘力を簡易的に示す絶対的な指標です。魔物などを討伐することで体内に魔力が蓄積していき強化されていくと考えられています。
一流の冒険者と言われる人たちの多くがLV40越えずに引退していきます。
普通の冒険者はLV35程で引退されるかたが多く、貴方のステータスは冒険者ではない一般男性と現在のステータスが同等ということになりますね。」
「85もあるってすごすぎじゃん!」
「絵莉マジぱないって!」
伊藤の周りの女子が騒ぎ始める。
伊藤は先生にも物怖じせず次第に空気が弛緩していく。
喋る生徒たちを少し困惑した表情で見ていたが、
「はぁ…少し静かに」
凛然とした態度は消え失せ、諦めたように先生が騒いでいる女子たちを優しくたしなめ
「名乗るのが遅れました、アイーネ・ツヴィアです。これから2ヶ月という短い間ですが皆さんに出来る限りのことを教えたいと思っています。どうかこの世界をお救いください。」
先生の目には強い決意のようなものが宿っているように見えたが一瞬でそんな気配は霧散してしまう。
「さあ授業を始めますよ。」
先ほどまでの堅い雰囲気はアイーネ先生にはもうなかった。
はじめに行われた授業はゴブリンについての説明だった。
彼らの体躯は小さい子供ほどしかなく、力も弱く頭も良くないが、簡易的な罠等を悪知恵が働くこと。
また簡単に頭数が増えることが強調された。
ゴブリンロードやメイジ、キングといった強力な個体もたびたび確認されているため、油断できないこと、夜目が聞くことなど…覚えることは様々だった。
他にもなにか言われた気がするが、だいたいこんなところだったと思う。
休憩の時に伊藤等が先生に話しかけていた。
2つ目の授業の最初に先生は元々冒険者で後に王国兵になったと簡単ないきさつを説明してくれ、そこからエンデという国の状況や兵士、冒険者の状況を話してくれた。
周辺諸国から見れば豊な国であることは間違いないが、複数の国に囲まれている地理上国境での警備に加え、広い国土での魔物の掃討が長期間続いていることなどが原因で騎士団は疲弊しているとのことだった。
授業が終わり、あの部屋に戻る。
三人は魔法の講義を受けていたらしくウッキウキだった。
小さな水玉や風を起こしたり、木ノ下にいたっては雷を腕に纏わせていた
「木ノ下殿!?なんですかそれ!?」
ござるをも忘れてただ驚く浅沼。
「おっと、俺に触れたら火傷しちまうぜ」
木ノ下もノリノリだった。
「お前らのクラスはもう全員こんなことができるのか?」
「いや、魔法を一番うまく扱えたのは木ノ下氏で、技巧もち以外は四苦八苦してたンゴねぇ」
「かくいう私も雷以外はまともにできませんでしたし、ですが、スキルがなくても魔法は使えるらしいという情報が手に入りました。」
と木ノ下が言った。
「お前らは技巧を持ってるからじゃないのか?」
「いいえ、うちの講師も境本氏と一緒で王国兵ではありましたが、パッシブスキルやスキルにはない2つの属性が使えるそうで、実際に見せてもらいました。」
「剣に炎と風の属性を纏わせた瞬間凄まじい勢いで炎が溢れだして凄かったンゴ!」
「スキルには無い…か」
「境本氏も地属性だけにとらわれる必要は無いと思うでござるよ」
俺が最低なのは、きっとこういうところなんだと思う。
「ああ、ありがとう」
三人には個性とステータスがあって俺には三人に比べたらなにもない。
酷く空虚で悲しかった。
彼等の気づかいを前にしてもそういう風に思ってしまう自分のことが何よりも悲しかった。
閲覧ありがとうございます。