国王とステータス
気がついたら大きな部屋の中にいた。
豪奢なステンドグラスが壁を彩り、シャンデリアに似た不思議な形の照明が部屋の中を照らしている。
きらびやかな色とりどりの装飾に調度品、様々な色や形が混ざりあってはいるが、決してとっ散らかっているわけでも、毒々しいわけでもない。
一枚の絵画のように洗練されていた。
目の前には冠を被った長髪を後ろに結んだイケメンと、屈強な男が立っている。
俺の周りには多くの学生が倒れていたり茫然と座っている。
俺が目を覚ましてから1分間もたたないうちに全員が目を覚ましたようだった。
冠をつけた青年はゆったりとした優しい口調で喋りだす。
「私はエンデ国王、アルノヴァ・エンデです。異界からこの国を、この世界を救いに来てくださった勇者御一行様だとお見受けいたします。前勇者様が討ち滅ぼしたと言われていた魔王が突如復活し、その影響で魔物たちが凶暴化、マグレリやダンジョンが活発化しており人類は窮地に立たされております。もし魔王を討ち、この国に、この世界に平穏が訪れたときには私が持てるすべてを使って勇者様方に対価を支払います。どうか魔王を討ち滅ぼして頂けないでしょうか。」
アルノヴァ・エンデが嘘をついているようには見えなかった。
ただの事実を淡々と述べているように見える。
俺は何かの集団実験に巻き込まれたのだろうか?
目の前の光景があまりにも現実的で、非現実的なのだ。
ただ、だからと言って魔王を倒しますとはならないだろう。
「ちょっと待ってください。我々は勇者ではなく、ただの学生です。」
発言したのは芦田だ。
「勇者様では無いのですか?」
アルノヴァ王に動揺が見える。
芦田は無言で頷いた。
堂々とした仕草があまりにも自然で見入ってしまう。
アルノヴァ王は少し考えこむと、
「ステータス、そう唱えてみてください。」
「ステータス?」
芦田が困惑した様子で聞き返したが、何もない虚空を見つめている。
そして数秒後瞬きと共に
「僕が勇…者…?」
芦田は呟いた。
王さまは念を押すように
「はい、あなた様方は勇者様で間違いないようですね」
にこやかに笑い、そう言った。
それからはもうお祭り騒ぎだった。
ステータスという声が広間中から聞こえ、驚いたり喜んだり、それは俺も例外ではない。
スキルという欄やそもそも自身のステータスが可視化されているということが嬉しかった。
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ステータス
境本幸多朗
職業:勇者
LV 1
EXP 0 /10
SP 0
HP 15/15
MP 3 /3
STR 5
ATK 5
VIT 7
DEF 3
INT 4
RES 2
DEX 4
AGI 8
LUK 5
パッシブスキル
地属性の適正Ⅰ
スキル
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陸上の経験からなのだろうか。
AGIとVITが抜けて高かった。
パッシブスキルの地属性の適正Ⅰって言うのが所謂恩恵なのだと思う。
そう思っていた時期が俺にもありました。
騒がしくなった学生に対し、
「みなさん。」
アルノヴァ王の言葉は直接脳に語り掛けているようだった。
アルノヴァ王は手を口の前に、手には青、黄、緑が入り混じる宝石のような流動的な物体が輝いていた。
これはきっと魔法なのだろう。
「転移してきてお疲れだろうとは思いますが、皆さんのステータスに合わせてグループ分けを行いたいので協力していただけませんか?」
大人数が転移してくることがもともとわかっていたからこその用意の良さなのだろう。
「次はそちらの...。」
「はい。」
どうやら俺の番らしい。
いかにも学者のような帽子をかぶり、白を基調とした柔らかなシルエットの洋服を纏った人たちが細かにステータスを書き取りしている。
「ではこちらでステータスの提示をお願いします」
個室には学者が二人待機していた。
確認漏れなどを防ぐためだろう。
ステータスは開示しようと思えば誰にでも見せられるという説明があらかじめ行われていたためそれに従う。
「ステータス、オープン。」
俺自身が聞いても上擦った声だった。
だが白髪で顔に真一文字の傷がある老年の記録係の反応は俺の期待したものとは大きく違った。
「総ステータスは61少し低めですね、」
少し低めとはどのくらい低いんだろうか?
「このステータスはこの世界ではどのくらいになるんですか…?」
老年の記録係は少しだけ考え、言葉を選ぶようにゆっくりと喋った。
「そうですね、一般的なレベルかと思われます。ですが、勇者様たちは前例も少なく、ある勇者様は成長率が非常に高かったなどの記録もあるので悲観するほどでもないかと思われます。あとパッシブスキルまたはスキル欄に何かあれば教えてください。」
ステータス、オープンではスキルやパッシブまでは見えないらしい。
「パッシブスキルに地属性の…」
「絶巧ですか?」
「適正Ⅰです。」
絶好?ぜっこうとはなんだろうか。
くだらないことを考えながら記録係を見ると目を見開いて固まっていた。
「地属性の適正Ⅰ、ですね?」
絞りだしたような声で再度聞き返してきたため
「えっあ…はい」
と生返事をかえしてしまう。
「そうですか…はぁ、他にスキル等お持ちですか?」
溜め息というよりは驚いているような反応だった。
珍しいスキルなのかも知れない。
「いいえ、ありません。その地属性の適正Ⅰっていうスキルは有名なスキルなんですか?」
眉間にしわを寄せ言いにくそうに答える。
「はい、農村出身の方が生まれつきよく持っているスキルで、非常に変換効率が悪く、魔力の消費が多いのは勿論ですが、戦闘用の魔法としての発動が遅く、威力が弱くて脆いです。それに加えて持っていない方でもある程度訓練すればこの国の地脈の関係で簡単に習得できますね。」
つまり珍しくないということだろうか?
少し間をおいてから彼は続ける。
「正直申し上げますと、異界から召喚された方が持つ恩恵はだいたいひとつで、スキルか非常に高いステータスです。勇者様の持つ地属性の適正Ⅰが我々の世界のものと同じものかはわかりませんが、今のところあなたは戦力になりづらいと判断する他ありません。」
ここまで言い切ってくるというのはある種の思いやりなのだろう。
「そう…ですか…。いろいろ教えてくださってありがとうございます。」
少しだけ、少しだけ悲しい。
どのくらい悲しいかと言えばすごく悲しい。
チートとかないじゃん。
感謝を伝え足早に退出しようとしたとき記録係が口を開く。
「いいえ、つい熱が入ってしまいました。申し訳ありません」
彼はそう言った。
それから少しだけ時間がたった。
ほとんど記録は終わったようでいたるところでマウント合戦が発生している。
記録係の一人が王様に何かを耳打ちする。
記録が終わったという報告なのだろうか。
記録が終わってから自身のステータスを何度も見直したが勿論スキルもステータスも変わらなかった。
アルノヴァ王の指示のもと200人はあっという間にステータス、スキルによるグループ分けがなされた。
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