職業、人身売買
ある日、異世界の女神からテレパシーが飛んできた。
「異世界の勇者よ……何卒世界をお救い下さい」
「無理です他当たってください」
それに対して謎電波を受信した少年――望月祐介は即答だった。
大体、世界を救うって何。剣持って勇者として魔王を倒せとでも? 無茶言うなこちとら学校の部活は今まで全部文化部だぞ。苦手な科目は体育です。
もっとこう、いるだろ他に適任が。
世界の命運を十代のいたいけな少年――自分で言ってて乾いた笑いしか出ない――に背負わせるな。
「お願いしますよ他にいないんですううううう。中々こっちとチャンネル合う人がいなくて、頼めるの今あなただけなんですううううう!」
ぴえん、とかいう鳴き声が聞こえてきそうな勢いで女神の声が脳内に響く。
自室でゴロゴロしてたからまだしも、外だったら耐えきれずに頭を抱えてうずくまるところだった。
しぶしぶ話を聞いてみれば、どうも祐介の思う世界を救う、とは大分違った。
救うというより滅ぼす、だった。
異世界だし、言葉の意味が違ったとしてもまぁ、仕方ないんじゃないかなと思わなくもないけれど流石にそれはないだろうと思える。生かすと殺すくらい違うと思う。異世界ギャップとかマジ勘弁してほしい。
なんでもこの世界にも魔力はあるけれど、なんでかこの世界の人間はこの世界の魔力とうまく適合しないから魔法が使えないものの、だがしかし女神の救ってほしいという異世界ではこの世界の人間がめちゃくちゃ魔力と適合してとんでもパワーを手に入れられるらしい。すげぇご都合主義感。あれだろ、異世界に召喚されて即チートとかのやつだろ。
都合が良すぎて祐介の心の中は疑い一色である。
女神曰く、向こうの世界の人間はもうどうしようもない程堕落しきってしまって改善の余地なし、と女神が判断したのだとか。
なので今から改心させるより、一度滅ぼしてまっさらにしてやり直す事を選んだらしい。
そこで滅ぼすための人材――勇者を祐介に頼みたいとの事だった。お断りだ。
滅ぼし方としては、とりあえず世界を崩壊に導こうという魔王を用意したので勇者としてそれを倒す旅に出て欲しいとの事。これだけ聞けば普通に世界を救う感じなんですが。
ただ、その時にこう、魔王の配下の魔物が町や村を襲うので、助けに向かいつつぎりぎりで手遅れでした、みたいな感じで人口を減らしていきたいらしい。
大量の人間を一度に纏めて滅ぼすのは女神的に大変だけど、ある程度減ってから始末するのは可能なのだとか。
丸ごとの方が簡単そうなのに、と祐介が呟けば、そうすると世界もろとも消し去る事になるので……あくまで滅ぼしたいの人間だけなので……と返された。
一度に全てを滅ぼせずとも、仮にそこで魔王が倒されてもまた数年後に復活させてその時に新たな勇者を……なんてのたまってもいた。なるほど、計画的かつ長期的な犯行。
堕落した人間たちを滅ぼす、ねぇ……そりゃまぁ、そういう話神話とか聖書とかにもあった気がするから別にそこはどうでもいいんだけども。
「それなら女神、うってつけの人物をご紹介しますよ」
――数日後、祐介の同級生である高橋祥吾が学校に来ない事が学内でちょっとしたニュースになっていた。
最初の一日二日はサボリだと思われていたようだし、家族もちょっとした家出で友人の家にでも泊まっているのだろうと軽く考えていたようだが、一週間が経過してもその姿がどこにも無い事でようやく事件になったらしい。
女性なら何らかの事件に巻き込まれて……!? だとかを疑われただろうけれど、男、それも人間関係で表向きはトラブルもなさそうな奴だ。事件の可能性は本当に最後の最後という認識だったのかもしれない。
そんな高橋は、今現在祐介の代わりに異世界にいる。
祐介はあの時、女神ととある契約を結んだ。
こっちの世界で女神と交信できるのが祐介だけ、という現状、女神からすれば頼れる相手は祐介だけだ。けれどその祐介はわざわざ異世界に行きたいわけではない。
確認したところ、帰ってくることはできるらしいけれど向こうに滞在した分の日数はこっちでも同じく経過するらしいし、そうなれば帰ってきた時のことを考えただけでも面倒だ。数日ならまだしも、向こうの世界で魔王を倒すとなればどう頑張っても一月以上は確実にかかる。長引けば年単位。
それで帰ってきたら、家族にはまずどこに行っていたのか聞かれるだろうし、恐らくは警察沙汰にもなっているはずだ。それで? 異世界に行ってましたなんて答えられるか? 頭おかしくなってると思われるだけだ。
それに、七年以上戻らなかった場合、最悪死亡届が出されている可能性もある。
戻ってきたとして、高校なんてとっくに単位不足で退学あたりになってるだろうし、そうなれば最終学歴・中卒。昭和の時代は中卒でもそこそこの会社に入れる事もあったらしいと聞くけれど、令和の時代でそれはむしろ、コネでもなければ……いや、あっても無理ではあるまいか。余程才能があって実力もすぐさま発揮できるならともかく。
異世界で勇者として祀られたところで、現実世界じゃ底辺確定。
それがわかっていて誰が行くかという話だ。
戻ってこなきゃいい?
いずれ滅ぶのが確定してる世界に永住?
祐介からすれば冗談ではない。
ともあれ、祐介は女神に向こうで勇者として活躍してくれそうな人材を紹介する事にしたのである。
そいつを代わりに異世界に連れていってもらった、というのが今回の顛末だ。
祐介が高橋を選んだのは、たまたま、とかではない。
どっちかといえば祐介の中で消えて困らない人間が彼だっただけだ。
高橋の家族は悲しんでいるらしいけれど、それについて多少の罪悪感がないわけでもないが、高橋なら大丈夫。だってあいつ、いっつも人の話聞いて「俺だったらそんな事しないでこうやって解決するけどな~」とか毎回後出し激しすぎて鬱陶しかったから。
祐介も先日母がひったくりにあった時の話を別の友人としていたのだが、そこに勝手に割り込んできて、
「俺なら警察に駆け込むよりも速攻で追いかけて取り返してそいつ警察に突き出すわー」
と圧倒的ドヤ顔でのたまってきたので。
お前はそれができるかもしれなくても、十代の健康的な男子高校生の体力と、子を産んでそこそこの年数が経過して体力的にも衰えてきた中年女性のスペックを一緒にするなと言いたい。お前んとこのかーちゃんもそうやっておけばすぐ解決したのに、とか言われても、祐介の頭の中では「こいつ馬鹿なんだな」という感想しか出てこなかった。
祐介以外にも似たような被害に遭っている者はいた。
クラスの女子のお喋りにも高橋は割と空気を読まずに割り込むことが多く、陰ではあいつウザいよねとよく言われていた。
本人は陽キャでクラスのカースト上位にいると思い込んでいる、典型的な陽キャになり切れない自称陽キャであった。
幸いクラスの皆は大人な対応ができる人ばかりだったから、表立ったトラブルにならなかっただけだ。
とりあえず彼なら異世界に召喚されたとしても、お得意の俺ならこうする戦法で華麗に解決してくれるだろう。建前としてはそんな感じだ。
本心としては後出し野郎が本当に解決できるのかよ、という気持ちたっぷりだが。
そんな感じで。
祐介は異世界に行ってもこっちの世界で特に困らないだろう人物を向こうに押し付ける事にしたのである。
ちなみに、祐介はその時に向こうの世界の様子を見ることができる能力を与えられている。
だからこそ、異世界に突然行く事になってしまった高橋君がどうしていいかわけもわからずオロオロして、なんだかんだ勇者として祀り上げられ魔王退治に行くしかなくなった状況を微笑ましく見守っていた。
頑張れ高橋。勇者としてやり切った後は、もしかしたら勇者様素敵ー! とかで女からモテモテになるかもしれないぞ。ハーレムだって夢じゃない!
お前ならきっと普段から言ってたあれこれを活かして、リアルタイムアタックで魔王を一日で倒すとかできるだろ、ファーイト♪
ちなみに高橋君は一か月後、魔王の部下である四天王のそのまた部下である、ゲームで言うなら序盤の中ボス戦で死んだ。合掌。
なぁんだ口先だけだったかぁ……とちょっとガッカリした。これで本当に魔王を倒していたら、今までのあれこれはただの大口じゃなかったんだな! とこっちもビッグマウス野郎とか陰口叩いてた事を反省してこれから一生高橋のことを尊敬していくつもりだったのに。
とりあえず高橋君が異世界で死んだのは残念な事だが、こっちの世界で高橋君の生死はいまだ不明のままだ。
女神から次なる勇者候補を、と言われたので、次に選んだのはたまたま道端で絡んできたチンピラだと思われるお兄さんにした。
普段利用しない場所へ行く事になって、地図アプリを確認しつつ目的地を目指していたのだが、そこでいきなり、
「おう何見てんだよあぁ?」
とかこれまた柄の悪い感じで接近してきて因縁吹っ掛けてきたのだ。
誰もお前の事など見てないよ、と言ったとしてもどうせこの手の輩は聞く耳持たないし、暴力からの金を巻き上げるまでがワンセットだと祐介は思っていたので速やかに女神に引き渡した。
さよならチンピラのお兄さん。名前は知らない。
いきなり見知らぬ世界に飛ばされたお兄さんは最初はとても困惑していたけれど、向こうの世界では異世界から勇者がやってくるというのが既に周知されていたので、彼は人々にとても歓迎された。
わけがわからないが、それでも自分を歓迎し接待してくる人々に悪い気はしなかったのだろう。いやそこ、いきなりそんな状況になったら普通は警戒しそうだけど、と祐介は思うのだけれど。
そうして綺麗なおねーさんたちに囲まれて美味しいご飯と美味しいお酒を振舞われてすっかりいい気分になったところで、勇者として旅立つことを約束されてしまったのだ。
一夜明けて、命の危機もある旅に行く事になった事実を把握したお兄さんは大層ごねていたけれど、王様の部下である兵士たちに追い立てられて一先ずは出立することにしたらしい。
とはいえ、本気で魔王退治に行くつもりはないらしく、彼は適当なところで身を隠そうとしたらしい。
でもさぁ、異世界、見知らぬ土地、そしてほぼ(多少の路銀は提供されたけどすぐなくなりそうな金額)無一文、こんな状態でやっていけるかって話だよね。早々に道に迷ってお兄さんは深い森の奥へ行き、そこで出会った魔物にがぶっとされてご臨終。うーん、あんだけイキリ散らしてたのに、魔物相手には通用しなかったかー。
仕方ないので祐介は次の生贄――最早勇者扱いですらない――にと、学校のヤンキー数人を候補にあげた。
本当に勇者として活躍できそうな人物に心当たりはあるけれど、彼が異世界に行ったらそれはそれでマジで悲しむ人が大勢いるだろうと思ったので。
どうせ滅ぼす予定の世界にそんな貴重な人物を送るはずがない。
今回は複数名で行ったのが功を奏したのか、最初は戸惑ってたらしいけど中々にいい線いった。
ただ、旅の途中で出会った美少女の色香にやられてあいつと付き合うのは俺だオレだおれだー! と一人の女を奪い合い仲間割れに発展し、その美少女が魔王陣営だったので見事にやられた。
彼らの敗因? ハニートラップに耐性がなかった事かな。それでも最初の高橋よりは旅も進んでたと思う。
その後も祐介は適当に選んだ人材を異世界に送り、彼らの様子を観察した。
ストレス解消にホームレスを殴っていた奴とか、塾帰りの女の子を引きずり込んでいかがわしい乱暴しようとしていたホームレスとか、近所で評判の暴力老人と名高いおじいさんとか。
おじいさんは流石になぁ、と思ってたけど四天王の一人を倒したのであのじいさんやべぇなという感想を漏らした。あのじいさんの暴力に奥さん常に晒されてたとか、よく生きてたな。
ところで、女神からは人材を向こうに送るたびに勇者紹介料というのをもらっている。
向こうの硬貨なので勿論こちらの世界では使えないが、金貨五枚。
金貨。つまりはゴールド。
……溶かしたりして延べ棒とかにできないかな、と思いはしたが、とりあえず何年かあとに先祖の遺してたやつです、なんか海賊船で発見されたとかいってたやつ、とか適当言って売れないかなと思っている。
金に目が眩んで誰彼構わず送り付ければ金貨はもっともらえるけれど、流石にそれは問題しかない。
何となく目についた「あー、こいつ迷惑だなー」という感じの奴を異世界に送るのを何度もやっていれば、それなりの時間が経過する。
気付けば祐介は高校を卒業し、大学へ入学していたし、そこから更に卒業して就職――で躓いた。無職のままは流石にどうかと思ったのでとりあえずバイトすることにして、せっせと人材を派遣していく。
ちょっと治安の悪い地域で接客業をしていると、とても頭のおかしい奴らがゴロゴロいたのでそいつらを送ることにして、金貨を貯める。
だがしかし、そういった連中をバンバン送りすぎたのか、気づけば周囲からはすっかり人が減って、やべぇのしか来なかった店は客がいなくなった事で一つはつぶれ、もう一つはまともな客がやってくるようになった。
実のところこの頃には祐介の周りにいる人間が忽然と消えていくこともあって、一時期警察に疑いをもたれていたのだけれど、祐介は女神に頼むだけなのでそういう意味では何もしていない。祐介と対面しているときに消えたならともかく、そうじゃない時に忽然と人がいなくなることもあって祐介の疑いは一応晴れた。
流石に居づらくなった感もあったので、祐介は引っ越すことにした。
高校卒業の時点で家を出ていたが、もう少し実家から離れたところにしようと思い立つ。
だがしかし、それより先に女神からのテレパシーが飛んできた。
「お久しぶりです。数多くの勇者派遣、お疲れ様でした」
「おや、そういう言い方をするってことは」
「えぇ、魔王を倒した人はいませんでしたが、人間同士の争いを起こしてくれたり様々な方法でこちらの世界の人たちと対立したりして、人口も随分と減ったのでそろそろ一掃しやすくなりまして」
なのでもう紹介しなくて大丈夫ですよ、と告げられる。
最初のころはよく異世界の様子を観察したりもしていたけれど、少し前からは見ることもなくなっていた。どうせ途中で死ぬだろ、という感想しかでなくなっていたので。一縷の望みをかけて帰れるかもしれないと思って勇者としての役目を果たそうとした者も、勇者とか頭おかしいんじゃないの!? と拒絶して見知らぬ土地で好き勝手生きて周囲と敵対していった者も、やり方は違えども女神の望みを叶える結果となったらしい。
もしその中に一人くらいは改心して、周囲に対する迷惑な行為を反省するようなのがいたならまだしも、女神の話しぶりからしてそういった人物はいなかったようだ。
「それで、今までのお礼も兼ねてこちらから何か一つ、願いを叶えて差し上げようかと思うのですが」
「願い、ねぇ。それは何でも?」
「えぇ、私にできることならば」
わぁ凄いな。と祐介は素直に思った。正直な話、祐介がやった行為は相手の同意なく見知らぬ土地に放り込む事だ。そして大半は向こうで死んだ。やっている事は直接手を下しているわけではなくとも、立派な殺人だろう。なのにそれをやって、向こうの世界の貨幣とはいえ金貨をもらい、更にその上女神が一つ願いを叶えてくれるという。
今までこんな優遇された悪党がいただろうか。
そう思いながらも。
「それじゃあ――」
祐介は願いを口に出したのであった。
――数年後、祐介はとある企業で働いていた。
女神に望んだ願いは大それたものじゃない。今までもらっていた金貨。あれをこちらの世界の金額に変えてほしいというものだ。
向こうで金貨五枚がどれくらいの価値だったのかわからないが、結構な金額になったのだけは確かである。
そしてその一部を罪滅ぼしというわけではないが、寄付をして、残った金額は貯金しつつ資格を取る勉強の際などに使う。
そうして彼は今、就職できたというわけだった。やはり資格があるのと無いのとでは大違いだった。大学にいたときに取れていれば……!
若干の後悔こそあれど、どうにか安定した生活を送ることができている。
年齢的にもいい年だし、時折くる親からの連絡で「あんた恋人は? 結婚とかする予定ないの?」などと聞かれるが、結婚はちょっとな……と思ってしまう。正直自分の倫理観が世間一般の普通からズレている自覚はあるのだ。だからこそ、下手に結婚して相手を万一染めてしまったら。生まれた子供にそれらが引き継がれてしまったら。そう考えると、祐介はやめておいた方がいいだろうと思えるのだ。
貯金は既にたっぷりとある。一生遊んで暮らせるほどではなかったけれど、両親がもっと年を取ってホームに入る、なんてことになったのであれば、ある程度の金はポンと出せる程度には余裕があった。だからこそ後はコツコツと稼いで暮らしていく。祐介の人生はそんな、傍から見れば平凡な一生を終えるつもりでいたのだ。
だがしかし。
「おや?」
ある日の事であった。
祐介は突如、見知らぬ場所に立っていた。
これから会社に行こうという時である。鞄を持ったまま、ぼんやりと周囲を見回す。
空を見て、電線だとかビルだとかが何もないのはわかった。空がとても広く感じられる。
それどころか、空気が澄んでいた。都会ではありえないくらいに。
そして、ふわりと飛んでいったそれを見て祐介は己の身に起きた事を把握した。
羽の生えた妖精。そんなもの、祐介が生きていた世界にはお伽噺の中でしか存在しなかった。だからこそすぐさま事態を理解できたともいう。
ここは自分が生きていた世界ではない。
異世界に転移させられたのは確実だ。
問題は、どういった事情でそうなったか。
以前の祐介のように、自分が交信できた女神とは別の神とチャンネルが合った誰かが転送した可能性がこの場合は高い。
あの女神の仕業なら祐介に何か事前に言うだろう事は明らか。しかしそんな声は何も聞こえてこなかった。
誰かによって転送されたとして。
以前の祐介のようにムカつく誰かを追いやったのか、それともたまたま目についたこいつでいいや、というものだったのか。
誰かを敵に回すような事をした覚えはないけれど、逆恨みだとかであれば流石にそこまでは把握できるはずがない。
この世界がどういう情勢であるのかによってそこら辺は判断できるだろうか。
もし、もしもだ。
勇者として戦わなければならないような世界だった場合。
果たして生きて帰れるだろうか。
以前女神が言っていた世界と同じようなものであれば、この世界の魔力と適合しているから祐介はきっととんでもなく強くなっているはずだ。
とはいえ、かつて祐介が送り込んだ者たちはその事実を把握できていなかったのもあって力をうまく使いこなせてはいなかった。いきなり絶大な力を手に入れてもそれを上手くコントロールできるかは別の話というやつだ。
そういった力が自分にもあるのであればいいが、そうでない世界の可能性もまだある。
「ま、死んだとしてそれはそれで今までのツケが来ただけの話だし、生きて帰れればラッキー、か」
そうだ。今まで自分がした行いが返ってきただけの事、と言ってしまえばそれまでなのかもしれない。
みっともなく慌てふためいたところですぐに帰れるわけでもなさそうだし、祐介は小さくため息を一つ零し、それからふらりと歩き始めた。
彼が生きて帰れたかどうかは、定かではない。