表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

事故物件にまつわる怖い話 ①

作者: 夕

大学生のころ、一人暮らしをしていたアパートの近所に事故物件がありました。

それを知ったのは、大学入学前に不動産屋にアパートを探しに行ったのがきっかけでした。

候補をいくつか挙げてもらった際、家賃が異常に安い物件があったのです。


「あぁ、これですか。一応ご説明しときましょうか」


担当さんは事故物件とは言いませんでした。

業界では『告知事項あり物件』と呼ぶそうで、その中でも『心理的瑕疵有り』に該当するそうです。

『心理的瑕疵有り』というのは、殺人事件や死亡事故、自殺などの不審死が発生している物件に付けられる告知事項で、その物件の場合は自殺でした。

一瞬、家賃が安いならここでもいいかと考えましたが、4年間耐えられる自信が無かったので借りるのはやめました。


大学2年の夏休みが明けた9月のある日の夜、僕は友人2人と部屋で飲んでいました。

友人Aが突然言いました。


「お前らさ、事故物件って知ってるか?」


彼は先日テレビ番組で事故物件という存在を知ったらしく、ひどく興奮していました。


「あぁ、それなら近所にあるよ」


僕は簡単にそう言ってしまってから後悔しました。


「まじ? すげーじゃん。行こうぜ、そこ」


予想通りの反応が返ってきて、うんざりしましたが、後の祭り。

友人Bも酒の酔いが手伝ってかやけに乗り気で、結局三人で見に行くことになりました。


その事故物件のコーポは、僕が住んでいるアパートから歩いて10分くらいの位置にありました。

道の細い住宅地に入って小さな公園を抜けると、そのコーポはありました。

2階建てでそれぞれの階に5部屋づつ、計10部屋のそのコーポは、事故物件と知らなければ何の変哲もない普通のコーポに見えます。


「自殺のあった部屋って何号室?」


友人Aはためらうことなく聞いてきました。

記憶では103号か104号だった気がするのでそう伝えると、Aは「よし」と言って、Bと共に部屋の前まで歩いていきました。

どちらの部屋も玄関扉付近には何もありませんでした。

表札に名前もありません。


「どっちも住んでなくね?」


Bが言いました。


「まあ、なんと言っても事故物件だからね……誰も住まないでしょ」


僕がそう言うと、玄関扉の横の小さな窓に顔を近づけていたAが、

「そうだ、電気メーター見れば分かるぞ」

と言いました。


3人で電気メーターを確認すると、両部屋とも動いていませんでした。

やっぱり、誰も住んでないのか……

僕がそう思って黙っていると、Aはおもむろに103号の玄関扉のドアノブに手を掛けました。

当然、鍵が掛かっていて開きません。

それを見たBは104号のドアノブに手を掛けました。


玄関扉は音もなく開きました。


「何してんだよ! 閉めろよ!!」


僕は咄嗟に言いました。

意外にも冷静な様子のBは、ちょうど顔が入るくらいまで玄関扉を開けると、中を覗き込みました。


「おい! やめろって!」


僕は声を張らないようにしながらも、Bに聞こえるように言いました。

しばしの沈黙が流れた後、Bは顔を引っ込めて、ゆっくりと扉を閉めました。


「な、なんかあったか?」


興奮気味のAが聞くと、Bは首を横に振りました。


「暗くてよく見えなかったけど、たぶん何にもない」

「もういいから帰ろう!」


僕はたまらずそう言って、半ば強引に二人を引っ張って帰宅しました。



そんなことがあった一月後、Aが訪ねてきました。

心なしか青ざめて見えるAに僕は少し不安になり、なにがあったか聞きました。

彼は最初言い淀んでいましたが、ゆっくりと話し始めました。

3人で事故物件を見に行った数日後のこと、Bからアプリでメッセージが届いたそうです。


そこには『変な画像送るのやめろ』と書かれていました。


心当たりのないAは知らないとBに伝えました。

それでもBは納得しません。

なぜならBの言う『変な画像』は、Aのアカウントから送られてると言うのです。

あらぬ疑いをかけられたAは、とにかく自分じゃないと主張し続けました。

Bは『お前かお前じゃないかはどうでもいい。とにかく気持ちの悪い画像を送るのをやめろ』とだけ書き残して、そこで連絡が途絶えたそうです。


それから数日後、突然Bのアカウントからメッセージが送られてきました。

それは一枚の画像でした。


Aは震える声で、

「お前なら分かると思うけどさ……俺もお前もこんな写真撮れるわけないんだよ」

そう言いながら、スマホの画面を僕に見せました。


人がドアを開けて中を覗き込む姿が写っていました。

それは明らかにあの夜、Bが104号の玄関扉を開けた時のものでした。

ただ、奇妙なのはBの姿でした。


腰から下が写ってないのです。


しかも、その写真はBの姿を真後ろから捉えています。

あの時、僕とAは103号の前に立っていて、104号を覗くBの後ろには誰もいないはずでした。

たしかにこれは、Aに撮れるはずの無い写真でした。もちろん僕にも……


連絡の途絶えたBは大学にも来なくなりました。

Aは以前のような快活な感じは無くなったものの、なんとか授業にだけは出席しているようで、たまに大学内で見かけることがありました。


社会人になってしばらく経った頃、大学時代の別の友人と話す機会があり、共通の友人であるBの話題になりました。

その友人によると、Bは大学2年の秋にバイクで腰の骨を折る大事故を起こしたそうです。

命に別状はなかったらしいですが、大学は長期的に休学となり、結局そのまま自主退学したそうです。


事故とあの時の行動になにか関係があるのか、そもそもあの写真はなんだったのか、今も分からないままです。


友人や知人から聞いた実話を元に、極々短い小説を書いています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ