首謀者の結末
2月10日に『最弱冒険者が【完全ドロップ】で現代最強』のコミックス1巻が発売となります。
何卒、ご購入の程宜しくお願いいたします!!
「土下座、してくれるんですよね?」
「するわけないだろ!」
「ではこれまで、カメラを通してデタラメを吹聴していたと、そういうことですか?」
「…………ッ!」
ぶるぶると、体が怒りで震える。
一体こいつは、自分をなんだと思っているんだ。
氷室青也は三大ギルドの一つ、至誠ギルドのマスターだ。
それに、土下座をさせるなど、なんて不遜な奴か!
しかし、視聴者にすべてデタラメだと思われるのも危険だ。
テレビのコメンテーターはイメージが命。
ここで口から出任せばかり言っていたと思われれば、信用が失墜する。
怒りの熱が消え、頭の中をまとまりのない考えがぐるぐる回る。
先ほどからスタッフの冷たい視線を浴び続けて、おかしくなりそうだ。
(どうしたらいい!?)
氷室は祈るような面持ちでエリゴスを見た。
彼女は真剣な表情を浮かべて、一度だけ顎を引いた。
五年間一緒にいた氷室は、それだけで彼女が何を言わんとしているのかが理解出来た。
――隙を見て、殺れ。タイミングはこちらが告げる。
「……ッ」
氷室はスタジオの中心で膝を折り、ゆっくりとした動作で両手を床に付いた。
深々と頭を下げ、
「……すみませんでした」
「ちっとも心がこもってませんね。もしかして、土下座しながら別のことを考えていませんか?」
「――ッ!」
「誠とは、自分の言葉を守って違えず、偽りなく本物であるという意味です。至誠ギルドにも、氷室青也にも、誠はありません」
「~~~~ッ」
相手の言葉に、腹の底が煮えたぎる。
(まだか。まだ油断しないのか!?)
奥歯を強くかみしめて、その時を待つ。
氷室の土下座に厭いたか、結希がふと僅かに視線を切った。
その時だった。
「――今よ! 殺しなさい!!」
「うおぉぉぉ!!」
エリゴスの合図とともに、氷室は起き上がり、魔術を発動。
〈無拍子〉で氷結魔術を発動する。
次の瞬間だった、
「――えっ?」
結希の姿が一瞬でかき消えた。
まるで、こちらが攻撃する瞬間を〝あらかじめ知っていた〟かのように、恐ろしく絶妙なタイミングでの回避行動だ。
(な、なんで……)
誰もいない空間を、氷結魔術が通り抜けた。
その矢先、氷室の背後から声が聞こえた。
「ハンター法第二条三項――」
振り返ろうとした次の瞬間にはもう、氷室の意識は真っ暗な闇の中に落ちていった。
○
渦中の人がテレビ局の独占インタビューを受けた。
その話題はSNSで一瞬にして広まり、ネット視聴の接続者数が一時五百万を越えた。
そのおかげで、明日斗を陥れた氷室青也の行動が、世の中に広く知れ渡るところとなった。
未だに明日斗が悪人だという論調の者もいるけれど、ごく一部の、至誠ギルドの熱心なファンに限られる。
明日斗の信頼が完全に回復したとは言いがたいが、少なくとも世論に押し潰される危機は完全に脱した。
事件が明るみになったことで、ハンター協会への出頭命令やハンターライセンス没収の話は完全に撤回された。
後日、事件が一段落したところで協会から正式に謝罪を受ける予定だ。
それまでは、協会は事件の対応で手一杯だろう。
事件を起こした張本人の氷室青也は、三大ギルドの一角を担うトップハンターだ。
もしライセンスを没収すれば、日本の防衛力が大きく低下してしまう。
かといって相応の罰を与えないわけにはいくまい。
ハンター協会は、非常に難しい判断を迫られている。
明日斗としては、彼がどうなろうと知ったことではないが、もう二度とこちらに関わらないで欲しいと切に願っている。
テレビ局前で至誠ギルドメンバーの足止めを行った神咲はというと――。
「準備運動にもなりませんでした」
地面に崩れ落ちるハンター四名を尻目に、どこかがっかりした様子で柳眉を下げていた。
一流ギルドのハンターが、覚醒したての神咲に手も足も出なかったことに、落胆しているのだ。
(かわいそうに……)
もし自分だったら、二度と立ち直れないかもしれない。
日本最高の才能を直接見せつけられたハンターに、明日斗は同情を禁じ得なかった。
一夜明けて、明日斗は銀山をハンター協会に送り届けた。
「昨日は大変助かったよ。このまま死ぬんだろうと覚悟してたんだ」
実際、助けに行ったのが別の誰かであれば、銀山は間違いなく死んでいた。
なぜなら、寄生樹の根治薬の製造法を知っているのは、現時点ではこの世に明日斗しかいないからだ。
明日斗は、シリンダ入りの『除草毒』に『解毒薬』を混ぜ合わせ、根治薬を生み出した。
その薬を銀山の静脈から注入。
除草毒が寄生樹を枯らしつつ、人体への毒の影響は解毒薬で中和した。
除草毒は寄生樹にも人間にも効くが、解毒薬は人間にしか効果がないというところが、この薬の重要なポイントだ。
薬を注入した銀山は無事、死の淵から舞い戻った。
至誠ギルドの凶行を受けた、生き証人として――。
「いやあ、しかしまさか、明日斗の個人情報流出の件を調べただけで、至誠ギルドに捕まるとは思わなかったよ」
「災難だったな」
「まったくだ。それもこれも、明日斗のせいだよ」
「なんでだよ!」
「明日斗がそれだけ目立ったから、情報を盗もうとした不埒者が現われたんだよ」
「だとしても、それは不埒者とやらのせいだろ」
「明日斗がいなければ、情報は流出しなかったのだよ」
「助けてやったのに、酷い言われようだ……」
人のせいにするな。
ため息をついた明日斗はふと、とある考えが浮かんだ。
(もしかして、前回まことが死んだのって、自殺じゃなくて、至誠ギルドに消されたんじゃ……)




