表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/69

氷室青也の内心

「足止め……と言いましたけど、結希さん、すべて倒してしまっても構いませんよね?」

「えっ……」


 強気発言に、明日斗は固まった。


(先輩ハンター四人を前に、よく言えるな)


 さすがは天才といったところか。

 その自信が羨ましい。


「まあ、ハンター法を破らない範囲でね」

「承知しました」


 頷くと同時に、動き出す。

 明日斗は入り口へ、神咲はハンターに向かった。


「――おいあれ、まさか、結希明日斗じゃねえか?」

「マジでマスターが言った通り来やがったのか……」

「見てんな、止めろ止めろ」


 至誠ギルドメンバーの四名が、明日斗に歩み寄る。

 その間に、神咲が割って入った。


「結希さんには指一本触れさせません」

「誰だテメェは、邪魔すんじゃねぇ!!」


 ハンターたちが神咲に襲いかかった。


 一応、日本にはハンター法という建前がある。

 誰かが死ぬような結果にはならないはずだ。


 明日斗は神咲の力を信じ、入り口へ。

 館川正義からもらったIDを守衛に見せる。


「結希です。館川から話は伝わっていますか?」

「あ、はいはい。聞いてますよ。こちら、結希さんのカードです。どうぞお入りください」

「ありがとう」


 謝意を告げ、もらったゲストカードでセキュリティゲートを越える。


(さすがは権力者だな)


 明日斗は館川に『テレビ番組に飛び入り参加させてくれ』と要望を伝えた。

 普通ならばあり得ない願いだが、さすがはテレビ局社長の御曹司。鶴の一声であっさり番組への参加許可が下りた。


 無論、そこには番組制作側の『渦中の人物が登場すれば、より視聴率が稼げる』という思惑もあったに違いない。


 結果、こうしてテレビ局への侵入に成功した。

 残るは本番のみ。

 用意したJOKER(カード)を切るだけだ。


「なあ明日斗。さっきの姉ちゃん、一人で大丈夫か?」

「まあ、大丈夫だろ。神咲は天才だからな」

「あー、もしかしてあれがお前の言ってた天才か?」

「……よく覚えてたな」

「一度聞いたことを忘れるような下等生物とは出来がちげぇんだよ!」

「はいはい」

「で、どの辺が天才なんだ?」

「三週間前にあった時とは、比べものにならないほど成長してただろ? あれだけ一気に成長出来るハンターは他にはいない」

「お前、それ本気で言ってんのか? それとも天然か?」

「ん? どういうことだ」

「あの姉ちゃんよりも、お前のほうがよっぽど成長してるだろ」


 それは、その通りだ。

 アミィから見れば、明日斗の成長は一瞬だ。


 だがそれは、〈リターン〉あってのもの。

 命を失わずにあれだけ成長出来る神咲のほうがすごい。


「あれが天才なら、お前はバケモンだ」

「……そう、だな」




          ○




「いくら謝っても、被害者の悲しみとか悔しさって、絶対に消えないと思いますけど、かのハンターは逃げ回ってばかり」


 カメラに向かって雄弁に語った氷室青也は心中で、作戦の成功を確信していた。


 結希明日斗の勧誘に失敗して以来、氷室は天使エリゴスの指示に従い、彼が二度と表舞台に立てぬよう各方面に働きかけを行ってきた。


 民衆は常に、猛烈なストレスを抱えている。


『そんな人間の前に、わかりやすい悪人を提示するとどうなるかわかる?』


 ――面白いほどよく燃える。


『理性的な振りをしてるけど、人間っていうのは感情的な下等生物なの。〝結希明日斗なら殴っても許される〟と思えば、死ぬまで殴るのを止めない。だから、まだまだ燃えるわよ』


 エリゴスが言った通り、結希明日斗はよく燃えた。


 その炎上ぶりは、腰の重いハンター協会さえ動かすほどだった。

 たとえ真偽不明の事案でも、対応が少しでも遅れれば、今度は協会(じぶん)が市民の標的にされるからだ。


 しかし、一度動けば制裁を加えるまでは止まることを許されない。


『どうしてかわかる? 既に結希明日斗を殴った人間にとって、彼が無実だという結論を認めると、〝無実の人間を殴った自分〟も認めなくちゃいけなくなるのよ。だから、それは絶対に認めない。自分が悪人になりたくないから、必死に協会へのバッシングを続けるわ』


『世論に圧されて動いてしまったハンター協会にはもう、結希明日斗を断罪する道しか残されていないのよ』


 これも、エリゴスの言う通りになるだろう。

 人間をコントロールする能力が恐ろしく高い。


 このような上位生命体が自分の天使で良かったと思う反面、彼女の期待を裏切った時の反動が恐ろしい。


(でも、大丈夫。ぼくはうまくやってる……)


 氷室はエリゴスが企てた作戦を、一度だって失敗したことがない。

 だから今回もすべからく上手くいく。


 そう、自分に言い聞かせながら、氷室は口を開いた。


「最低ですよ、ほんと最低! もしぼくが間違いを犯したら、逃げ回らずに、まずはみんなの前で土下座しますね」


 強い口調で言い切った時、横にいるアナウンサーの机に、ADが紙を一枚乗せた。

 それを見たアナウンサーが目を丸くした。


「速報が入りました。なんとこのスタジオに、ハウンドドッグのパーティを壊滅させた容疑者の、結希明日斗ハンターが現われました」

「――ッ!?」


 氷室は目を剥いた。

 うっかり声を上げるところだったが、なんとか歯を食いしばり耐える。


 いま結希は、卯月の下にいるはずだ。

 今日の十二時まで足止めをし、ハンターライセンスを確実に奪う作戦だったのだ。


(なのに、なんでここに!?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ