全力でゲートへ急げ!
システムを消して、明日斗はゆったりとしたペースで走り出した。
旅のリミットは三週間後の午後まで。夕刻になればゲートが解放されている。
出来れば、午前中には万全の状態で、ゲート出現地点で待機していたい。
そのためには、前回と同じペースでは駄目だ。
「アミィ、少し急ぐが、付いてこれるか?」
「あたぼうよ。お前はアミィ様をなんだと思ってるんだ? お前が嫌だって言っても、オイラは地の果てまで付いていくぜ! 最高だろ?」
「……最悪だ。怖気が走る」
「ひでぇっ!」
「ともかく、お前が付いてこられることはわかった。じゃあ、全力で行くぞ」
次の瞬間、明日斗は全力で大地を後ろへ蹴り出した。
ゴウッ! と音を立てて空気を破る。
体が恐ろしく軽い。
しかし、まだ限界じゃない。
もっと速度を上げられる。
これまでにないスピードに、ともすれば足がもつれそうになる。
体を必死に安定させて、トップスピードのままひた走る。
「ちょおおおおお!! お前どんだけ早いんだよおおおお!!」
後ろでは、顔をくしゃくしゃにしたアミィが必死に明日斗に付いてきている。
引き離すつもりで走っているが、離れていく気配がない。
犬の散歩紐のように、一定以上離れると、それ以上離れないよう強制力が働くのだ。
「大丈夫そうだな」
「どこが、大丈夫、そうに、見える、んだよ!!」
しばらく走ると、体が今のステータスに慣れてきた。
この様子だと、全力で走っても転ぶことはないはずだ。
「もっと速度を上げるぞ」
「やめろおおおお!! ンアァァァァァ!!」
アミィを引きずるようにして、明日斗はぐんぐん西へと走っていくのだった。
○
再び福岡の吉武高木遺跡に戻ってきたのは、死に戻ってから二週間後のことだった。
前に比べて一週間も短縮出来たのは、ステータスが大幅に上昇したこと。また、外地での戦闘を最適化出来たことが理由だ。
「はあ、はあ……ふぅ……疲れた」
「そりゃあんだけ走ったら疲れるだろ」
アミィが呆れ果てたようにため息を吐いた。
しかしすぐに真顔になり、明日斗に顔を近づけた。
「で、そろそろ狙いを教えろよ」
「……なんの話だ?」
「しらばっくれるんじゃねぇよ。魔物をほとんど無視して、野良ゲートも無視してただ走り続けてたんだ。なんか目的があってここに来たことくらい、阿呆でもわかる」
図星を突かれ、明日斗は答えに窮した。
アミィの言う通り、明日斗はここに来るまでほとんどの戦闘を回避した。
日が暮れても移動を行い、襲いかかる魔物から逃げ続けた。
唯一積極的に戦ったのは、あの白い獣だけだ。
ほとんどの一般モンスターは、大量に倒してももうほとんどレベルが上がらなくなった。
Cランクまでの格下ばかりだからだ。
しかしあの白い獣は違う。
ボスクラス、かつBランクのモンスターは経験値が豊富だ。
さらに、討伐するとレベル6つ分も上昇する偉業が取得出来る。
見逃す選択肢などない。
「もう一度聞く。何が狙いだ?」
「前に言ったよな。俺は出現するゲートがわかるって」
「ああ、そういうスキルがあるって話をしてたな。……まさかっ」
「その通り。ここに、ゲートが出現する」
「なるほど、だからか。……あ、いや待てよ。ゲートを攻略するだけなら、他でも良かったじゃねぇか。なんでここなんだよ?」
アミィが当然の疑問を口にした。
それに対する答えは、既に用意していた。
「ゲートのランクだよ」
「ランク?」
「将来出現するゲートに加えて、ランクがわかるんだよ」
「そんなことまでわかるスキルなのか、なるほどなあ」
不誠実な明日斗の発言に、アミィが疑うそぶりも見せずに頷いた。
嘘を吐いていないからだ。
「で、ここに出現するゲートはどのランクなんだ?」
「知らん」
「なんでだよ!? お前、ランクがわかるって言ったじゃねぇか。嘘吐きやがったのか!?」
「いいや。俺はランクがわかるとは言ったが、わからないものがないとは言ってない」
「いけしゃあしゃあと……。だが、なるほどな。ここのゲートを選んだ理由はそれか」
「ああ。ランクがわからないからだ」
もちろんこれも、嘘ではない。
明日斗は金色に光るゲートについて、中からユニークアイテムが出たこと以外、前情報がないのは本当だ。
「きっと特別なゲートじゃないかと思ってな」
「そうかもしれねぇな」
これで納得しただろうか?
ちらり、表情を盗み見る。
アミィは遺跡を眺めながら「なんもねぇ、つまんねぇ場所だな」とつぶやいている。
どうやら、明日斗の能力に疑義をもった様子はない。
内心ほっと胸をなで下ろし、明日斗は荷物を降ろすのだった。
遺跡で野宿すること、一週間。
ただ待つのも暇なので、周辺にいる魔物を倒し、野良ゲートを攻略した。
魔物やゲートは、Cランク以下でまるでレベルは上がらなかったが、多少の熟練上げの相手にはなった。
明日斗はゲート出現の日の朝、万全の状態で目を覚ました。
ステータスをチェックして、不備がないか確かめる。
○名前:結希 明日斗(23)
レベル:54→55 天性:アサシン
ランク:B SP:0→5
所持G:54234
○身体能力
筋力:85→90 体力:→8085 魔力:19→24
精神:19→24 敏捷:155→160 感覚:85→90
○スキル
・中級短剣術Lv3→Lv4(91%→5%)
・致命の一撃Lv4(68%→83%)
・回避Lv5(87%→98%)
・跳躍Lv5(71%→84%)
・瞬間記憶Lv1(19%→41%)
・可死の魔眼Lv3(68%→92%)
・ライフスティールLv2(11%→60%)
・リターンLv2(0.5%→1%)
(メモリポイントはどうするべきか……)
 




