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リスタート

　祈りながら、ゲートをくぐる。

　すると、明日斗の耳に叫び声が届いた。

「っしゃぁ！　レアアイテムゲットッ!!　やったぜ……これで俺も、億万長者だ!!」

　先に侵入していたハンターの、喜びの声だった。

　それを聞いて、明日斗の頭から血の気が引いた。

「あー、一足遅かったみてぇだな」

「…………」

「……ま、まあ、長い人生、こんなこともあるさ。だからほら、元気出せよ。なっ？」

　アミィが珍しく励ましの言葉を投げかける。

　しかしその言葉さえ耳に入らない。

　一瞬、『力尽くで奪うか』という考えが頭に浮かんだ。

　極度の疲労と激しい落胆のせいだ。

　そんなクズみたいな考えが浮かんだ自分が、腹立たしい。

「…………くそっ」

「お宝は……残念だったが、でもお前は強くなったじゃねぇか！　次、こういうチャンスがあったら、絶対にお宝を手に入れられるって！」

「…………そう、だな。アミィの言う通りだ」

「おっ、わかってくれたか友よ！」

「お前の友達になった覚えはない」

「よしよし、調子出てきたじゃねぇか。じゃあ、そろそろ別のところに行こうぜ」

「……そうだな。〝いこう〟か」

　ゲートから出て、明日斗は時計を見て、辺りを見回した。

　これで、ゲート出現位置と、おおよその時間が割り出せた。

　目的のアイテムは手に入らなかったが、ただの徒労では終わらなかった。

（次こそは、絶対に手に入れる）

　決意を胸に、短剣を抜く。

　その切っ先を胸に向け――、

「おい、馬鹿、なにやってんだ！」

「お前は言った。『次、こういうチャンスがあったら、絶対にお宝を手に入れられる』って。だから俺は、次のチャンスに駆ける」

「次ってどういう…………まさかッ！」

「向こう側で、また会おう。お前は覚えてないだろうけどな」

「待てッ！　その力は神の――――」

　アミィの言葉をすべて聞く前に、明日斗は自らの心臓を短剣で貫いた。

>>条件：スキル主の死亡を確認

>>スキル：〈リターン〉が発動

>>メモリポイントＣにて復帰します

>>メモリポイントとの接続不具合を確認

>>ステータス情報の一部がロストしました

　　　　　　　　　　○

「そろそろ行こうぜ」

　アミィの言葉とともに、意識が覚醒する。

　死の痛みと恐怖、アイテムを逃した落胆が入り交じって、胸の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。

　だが、完全に振り出しに戻ったわけではない。

　たとえ爪の先ほどでも前に出れば、前進は前進なのだ。

　負の感情を前向きに切り替え、明日斗はシステムを開いた。

○名前：結希　明日斗（２３）

　レベル：５４　天性：アサシン

　ランク：Ｂ　ＳＰ：４５

　所持Ｇ：５４２３４

○身体能力

　筋力：８０→７５　体力：７５→７０　魔力：２４→１９

　精神：２４→１９　敏捷：１４０→１３５　感覚：８５→８０

○スキル

　・中級短剣術Ｌｖ３（９１％）

　・致命の一撃Ｌｖ４（６８％）

　・回避Ｌｖ５（８７％）

　・跳躍Ｌｖ５（７１％）

　・瞬間記憶Ｌｖ１（１９％）

　・可死の魔眼Ｌｖ３（６８）

　・ライフスティールＬｖ２（１１％）

　・リターンＬｖ２（０．５％）

「……ん？」

　ステータスの減少に気づき、明日斗は眉根を寄せた。

　これは、初めての現象だ。

　ポップアップには、『メモリポイントとの接続不具合』と『ステータス情報の一部がロスト』とある。

　さらにロストしたステータス分を考慮すると、明日斗はすぐに答えがわかった。

（ボス討伐の偉業が消えたのか）

　これまで、どれだけ〈リターン〉しても偉業に変化はなかった。

　だが今回は一つだけ、取得したはずの偉業が消えた。

（理由は、ボス討伐系だからか）

　明日斗は三週間前の夜に、Ｂランクボスの変異種を討伐した。

　――あの白いリカオンだ。

　それにより、偉業を達成し『ＡＬＬステータス＋５』の報酬を得た。

　しかし〈リターン〉で戻ってきた今の明日斗は、まだボスを倒していない。

　だから、〝接続不具合〟が起こって、偉業が抹消されたのだろう。

（偉業が抹消されない条件は、〈リターン〉後も達成基準を満たしてるかどうかか）

　たとえば『覚醒してから人類最速でＢランクに到達』の偉業は消えていない。

　これは〈リターン〉後も、明日斗のステータスがＢランクのままだったからだ。

（消える偉業と、消えない偉業はわかった。となると、次はアイテムとスキルが引き継がれてるかどうかだが……）

　確認すると、購入したはずの『魔物避けスプレー』は消滅していた。

　だが、レジェンドスキルの『ライフスティール』は残っている。

　アイテムは例外なく消滅し、スキルはレアリティに関係なく上書きされるようだ。

（アイテムが〈リターン〉で消えるのは、まあ妥当か）

　そうでなければ、世界に一つしかないアイテムを〈リターン〉で量産出来てしまうことになる。

　だからアイテムだけは、問答無用に削除されるのだ。

（だが、アイテムを買ったゴールドが戻ってこないのは解せん……）

　モヤモヤするが、システムがそうなっているのなら、仕方がない。

　やり場のない怒りをため息で吐き出した。

「おい、どうした。行かねぇのか？」

「悪い。もう行く」

　素早く画面をタップし、ポイントを割り振った。

○名前：結希　明日斗（２３）

　レベル：５４　天性：アサシン

　ランク：Ｂ　ＳＰ：４５→０

　所持Ｇ：５４２３４

○身体能力

　筋力：７５→８５　体力：７０→８０　魔力：１９

　精神：１９　敏捷：１３５→１５５　感覚：８０→８５