レジェンドスキルの真価
アミィの言葉に、明日斗は眉根を寄せた。
アバターアイテムとは、ゴールドショップにある天使限定の商品だ。
その価格はピンキリだが、いずれも人間には使えないものばかりだ。
なぜなら天使は、地球上のありとあらゆるものに触れられないからだ。
そんな存在が扱えるものとなると、人間には触れられない――別の次元に存在するアイテムになる。
「オイラ、実は欲しいものがあってよぉ。カメラが欲しい――」
「却下だ」
「まあ、待て。結論を急ぐな。このカメラは高画質高精細で、録画も出来るんだぜ? 特に録画した映像は人間にも渡せる――」
「却下だっ」
明日斗はきっぱりと言い放つ。
確かに、アバターアイテムを天使に購入するハンターはいる。
たとえば自分の好みの服を買い与えて、天使を〝盛る〟のだ。
衣服なら数百ゴールドからあるが、天使用のカメラともなると五万ゴールドと、売るつもりのない値段設定だ。
たとえ安かろうと、将来地球を滅ぼす相手には1ゴールドたりとも使うつもりはない。
「くそっ、とりつく島もねぇ。そんなに大量のゴールド、寝かせといてどうすんだよ。利子なんて付かねぇんだぜ?」
「ある程度たまったら、別のスキルを買うかもな」
「ん、防具は買わないのか?」
「あー、そういえば、防具のことは何も考えてなかったな」
「せめて命を守る装備はあったほうがいいぜ?」
「確かにそうだな」
「……んで、買うのか、買わないのか?」
「買わない」
「何でだよ!? 攻撃を食らったら一撃で死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「当たらなければどうということはない」
「ケッ! 死んでもしらねぇからな!」
〈リターン〉がある明日斗にとって、防具はあまり意味がない。
戦闘中に怪我をしないにこしたことはないが、防具は動きを阻害する。
良いものになると動きは阻害しないが、今度は値段が高くなる。
また、防具があれば多少の攻撃を防げるが、〝少しくらい当たっても大丈夫だ〟という甘えが必ず生じる。
その考えが固着すると、少しずつ回避が雑になり、立ち回りが下手になる。
今は〝当たれば死ぬ〟くらいが丁度良い。
それくらいしなければ、無才の明日斗が最強のハンターになるなど夢のまた夢だ。
「……さて」
陽が落ちて、当たりが真っ暗闇に染まった頃。
明日斗は短剣の柄に手を当てながら、唯一ある出入り口の一つを凝視する。
夜になってから、魔物の気配が非常に濃くなった。
もうすぐ、明日斗の臭いを嗅ぎつけた魔物が、この建物に侵入するはずだ。
外地での二度目の夜戦。
これまで一度目の失敗を、何度も思い出しては対策を考えた。
今回は、魔物の群れに押しつぶされぬよう建物の中で戦う。
さらにはレジェンドスキルも手に入れた。
ここまで準備して乗り越えられなければ、純粋に明日斗の力不足だ。
時間をかけてレベル上げをした方がいい。
しばらくすると、通路の向こうから魔物の気配がこちらに近づいてくるのを感じた。
明日斗は短剣を抜き、音もなく立ち上がる。
軽く腰を落とし、短剣を構える。
意識が前方に固定。
深い呼吸を繰り返す。
集中力が増大。
やがて――雑念が消えた。
すぅ……。
息を吸って、止めた。
次の瞬間、
「シッ!!」
部屋に現われたレッサーリカオンの首を、コンマ一秒で跳ね飛ばす。
その勢いのまま、次の魔物の心臓を突く。
「――――ッ!!」
声なき悲鳴を上げ、二匹目のリカオンが床に倒れ込んだ。
「す、すげぇ。Cランクの魔物を瞬殺かよ」
アミィのつぶやきに、強い恐れが混じっていた。
目を向けると、すっと後ろに下がった。
次は自分が殺されるとでも思ったか。
明日斗は視線を戻し、リカオンの死体を積み上げる。
部屋の出入り口は一つだけ。
ここに死体を置けば、敵の移動を阻害出来る。
障害物を設置した明日斗は、再び部屋の奥へと戻り腰を下ろした。
リカオンの血の臭いが、部屋に充満している。
窓がない部屋を選んだため、換気が出来ない。
生臭い鉄の臭いが、口の中いっぱいに広がる。
(頭が痛い)
頭痛を堪え、明日斗は次の魔物を待つ。
そこからは、ほとんど一方的な戦いが続いた。
部屋の出入り口は間口が狭く、多くても二匹しか同時に侵入することが出来ない。
たった二匹なら、明日斗はコンマ二秒で殺せる。
闇の中、輝く可死光、貫く刃。
流れるように、明日斗は命を奪っていく。
入り口が死体で埋まると、魔物たちは同胞の死体をかき分けながら部屋に侵入してきた。
完全に隙だらけになった魔物を倒すのは、赤子の手を捻るより簡単だった。
(あの苦労は一体なんだったんだ……)
外で戦った時は、倒しても倒しても、次々と魔物の波が押し寄せてきて、ついには押しつぶされた。
だが部屋の中に陣取った途端に、戦闘の難易度がぐっと下がった。
(自分にとって有利な場所で戦うことが、これほど戦闘の難易度を変化させるとは、思ってもみなかった)
頭で理屈がわかっても、実際に体感するまでは、真の理解は得られないとはこのことだ。
倒しても倒しても、次から次へと魔物が現われる。
それだけ、外地でブレイクしたゲートが多いのだ。
最初のレッサーリカオンが現われてから、二時間ほど経過した頃。
明日斗は体力がちっとも低下していないことに気がついた。
(これがライフスティールの力か)
これくらいの戦闘ならば、何日でも続けられる気がする。
実際には一日戦っただけで、ただの流れ作業の戦闘に心が死にそうだ。
――などと精神の心配をしてしまうほどに、体力が有り余っている。
三時間が経過して、そろそろ集中力の限界を感じてきた頃だった。
ひときわ強い気配が近づいてくるのを感じた。
「――む?」
地形効果、大事




