スキル推察
「ほら、買えよ」
「買わん」
「なんでだよ。せっかくオイラが薦めてやったのに」
「しょぼくて高いスキルを薦めるからだ!」
「しょ、しょぼくねぇよ!」
「なんでアサシンの俺に魔術スキルを勧めてんだよ」
「ぬ? お前、天性アサシンだったのか」
「アサシン以外の何に見えてたんだよ……」
軽いめまいを感じ、明日斗は額に手を当てた。
たしかに今回は、アミィに自らの天性を一度も開示していなかった。
しかし明日斗の戦い方を見ていれば、魔術士でないことくらいはわかるはずだ。
にも拘わらず、あえて魔術士スキルを薦めたところに悪意を感じる。
「――ってかお前、なんでスキルスクロールの中身が瞬時にわかるんだよ!?」
「覚えてるからな」
「覚えてるって、六桁だぜ? お前のちっちぇ脳にゃスキルスクロール百万パターンなんて入らねぇだろ」
「よし、その喧嘩買った」
チャキッと短剣を握り、腰を浮かせる。
青ざめたアミィがすいーっと後ろに下がった。
「じょじょ、冗談だよ本気にするなよ! かわいらしいオイラの、かわいらしいジョークじゃねぇか」
「誰がかわいらしいんだよ……」
がくっと肩を落とす。
完全に殺る気が削がれた。明日斗は短剣から手を離し、再びどしっと腰を下ろした。
「前に俺が〈記憶再生〉を買ったのを覚えてないか?」
「ああ、そういや買ってたな」
「それがあるから思い出せるんだよ。一度でも使われたことがあるスキルなら、ネットに掲載されてるからな」
「なるほどな。合点がいったぜ」
「わかったなら、しばらく黙ってろ」
「ひでぇ言いようだな!」
ぷんすか怒るアミィを無視しつつ、明日斗はスキルを4つピックアップする。
それらは将来開示される情報の中で、最もレアリティの高いスキル――世界に一つしかない、レジェンドスキルだ。
誰かが一つでも購入すれば、他の人のゴールドショップからも消滅する。
なので、購入するなら今のうちだが、どれも魅力的で決めきれない。
・963021番 60000G
ザ・バイブル。光の聖霊と契約出来るアクティブスキル。使用者に様々なバフをランダムでかけてくれる。
・062567番 100000G
ウェポン・マスタリー。あらゆる武器を使いこなせるようになるスキル。
・078965番 50000G
ライフスティール。攻撃する度に相手から体力を奪うパッシブスキル。
・576034番 80000G
自然治癒(大)。自然治癒力が格段に上昇するパッシブスキル。攻撃する必要がないので、ライフスティールよりも使い勝手がいい。
いずれも良いスキルだ。
出来るなら複数取得したいが、現状ではどの組み合わせでも足が出てしまう。
「な、なあ明日斗、そそ、そのスキルはなんだ?」
「ん、これのうち、一つ買おうと思ってな」
「なな、なんでそのスキルを選んだんだよ?」
アミィが声を震わせた。
本人は隠しているつもりだろうが、内心の焦りが手に取るようにわかる。
(高レアスキルを取られるのが嫌なんだろうな)
いくらスキルが強くても、レベルや熟練度が低ければ効力も弱いままだ。
レアリティの高いスキルを弱い状態で使用しても、真価は発揮できない。
長い時間をかけて育ててようやく、スキルのポテンシャルを100%引き出せるのだ。
人間が高レアリティのスキルを育てると――本来脆弱な人間がその存在以上の力を得る――最終的に人間界を滅ぼそうとするアミィら天使が困る。
なので、強いスキルの早期取得に慌てているのだ。
(実際、これらのスキル情報が公開されたのは数年後のことだしな)
「……さてな。なんとなくこれが強そうだなって思ったからだな」
「おい、答えになってねぇぞ! 一体なにを隠してやがる!!」
「落ち着けよ。そんなに焦ると裏を読まれるぞ。たとえば『お前はこのスキルを〝どうして〟取得されたくないのか』とかな」
「うぐっ! ろ、論点をずらすな。聞かれたことにきちんと答えやがれ」
「わかったよ。スクロールの番号と名称は、判明したものがネットにアップされる。その番号を、俺は〈記憶再生〉でいつでも思い出せる。ここまではいいな?」
「ああ。それがどう、この4つのスキルを選んだ理由に繋がるんだ?」
「わかったものを除くと、名前も効果もわからない番号が無数残る」
「当たり前だな」
「実はある法則を使えば、その中から自分に合ったスキルに目星がつけられるんだよ」
スキルスクロールは、数値でマスキングされている。
しかしこの数値には、一定の法則がある。
たとえば、第二次アウトブレイク時点に〈リターン〉してから、明日斗が認知したスキルは以下の通りだ。
・013245番――回避=体術。
・019486番――短剣術=体術。
・013245番――跳躍=体術。
・005875番――スラッシュ=体術。
・199605番――スナップショット=魔術。
・143844番――ヘイスト=魔術。
・853953番――獣キラー=その他。
・996425番――記憶再生=その他。
こうして羅列するだけでも、それとなく法則が見えてくる。
ここに、将来ネットで公開されるスキルも重ね合わせると、次の法則が浮かび上がる。
・1~100000番まで=体術系
・100001~200000番まで=魔術系
・200001~300000番まで=遠距離系
・300001~400000番まで=神聖系
・400001~500000番まで=創造系
・500001~1000000番まで=その他
スキル番号で、おおよそどの系統に所属するスキルなのか、判別することが出来るのだ。
これは明日斗の発案ではなく、ハンター黎明期から噂されていたくらい、有名な法則である。
「ここからさらに、俺の手持ちで買える高額商品のうち、五万ゴールド以上、十万ゴールド以下をピックアップすると、どうだ?」
「…………お前のカートに入ってる4つが、ぴったり該当してやがる」
「だろ?」
この説明で、アミィが目を丸くした。
「お前…………頭良かったんだな。オイラてっきり、馬鹿な奴だとばかり……」
「ぶっ飛ばすぞ?」
スキルのマスキングは、プログラミングみたいなものだとお考えください。
スキル番号=プログラムそのもの
スキル使用→人間(OS)で動き始めるため、理解可能な言語に変換される。
ちなみにスキルその他は、パッシブ系スキルが多めです。
当然ながら、これら販売されているスキルには、ハンターとして使えないものが大量に含まれています。
例:田植えスキル
(大金を払って田植えスキルが出て来たら闇落ちしそう)




