0.日給五万円の仕事は転移冒険家のサポート
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皆様にも本作の主人公と同じくワクワクしていただけるよう精進します。
ファンタジー×コメディです。
本作のご感想、ご指摘等よろしくお願いします。
「返せ!僕の奇跡の力かーえーせ!」
号泣しながら胸倉を掴んでくる少女、砕け散ったピコピコハンマー、木っ端微塵になった世界。
「なんでこうなったんだぁ!!」
理不尽すぎる出来事に叫ぶ。
その日ヤンキー君と転移冒険家は異世界を一つ消滅させた。
葉月高校に通う二年生、春乃 悠哉は退屈そうに外を見る。いつもこの時間にはゲーセンか、日雇いのバイト行ってるはずだよなあ、心の中でため息を吐く
「あれれ~?金髪悠哉君は空なんて眺める趣味なかったよね。もし退屈なら僕が話し相手してあげよーか?」
ニヤニヤと楽しそうにこちらを見てくる赤髪のこいつは宮本 竜、中学からの付き合いで、唯一話しかけてきた友人だ。いや友人というよりは悪友のほうが正しいのかもしれない。
今日は朝からこの悪友から何十回も電話を掛けられ起こされたのだ。
「なあ、竜?俺を学校に呼び出せて満足か?」
「それはそれは、もー大満足だよ。悠哉の出席日数も確保できたことだしね」
「あーはいはいありがとな。んで、電話で言ってた面白いことってなんだよ」
俺が学校に行く気になったのは、竜が電話で「面白いもん見つけたから!」という話があったからだ。俺の悪友が面白いというのだから、心の中では期待していた。
「悠哉ってさ!給料いいバイト探してたよね!日給五万円の仕事どお?」
「なんだと!?」
席を立ちあがる勢いで竜に近づく、日給五万だと、金欠の俺にとっては飛びつきたくなる仕事だ。
「わ~悠哉でもテンション上がるんだね!」
「あ、あたりまえだ。というか冷静に考えてそんな美味い話しがあるのか?治験とか勘弁な」
「あはははははは!僕が友達に治験を紹介すると思う?」
お前はするだろ、悪友は輝かしい笑顔を放っている。
「んで、結局なんのバイトだ」
「転移冒険家のサポートなんだけど」
そうかそうか転移冒険家のサポートか––––––―–は?
時刻は十七時、学校からの帰り道商店街を歩く。ゲーセンに行けばよかったという後悔と共に、右手に持っている紙を広げる。
一面ピンク色の紙には、エメラルドやサファイアなど宝石のようなデコレーション、小学生が描いたような字で『転移冒険家のサポート 日給五万円 内容 荷物持ち』
あの野郎、竜の顔を思い出す。
「ねえねえ!その紙持ってるってことはサポートしてくれるの!?」
「ったく、こんな紙まで用意して馬鹿にしやがって、そーいや昔からあいつの面白いは俺が被害者になる前提だったの忘れてたわ」
「ねえねえ!金髪の君!その紙を持ってるってことは、サポートしてくれるの!?」
ピンク色の髪に、明らかにサイズの合ってない白のコート少女が、ぴょんぴょんと跳ねている隣を通り過ぎる。
「やっぱ自分で探すのが一番だな」
「ねえねえ!金髪で毎日退屈そうな君!その紙を持ってるってことは、サポートしてくれるの!?」
真後ろから声が聞こえるのを幻聴だと言い聞かせ早足で帰宅する。
「ねえねえ!金髪で毎日退屈な日々を送っているけど、将来の夢や希望なんかなく、あー将来は何しよ、なんて考えるのもめんどくさくなるけど、両親からは心配の声と進路の話なんかされて、家でも外でもまともに息できない窮屈な生活をしているそこの君!その紙を持ってるってことは、サポートしてくれるの!?」
「あああああああああああああああぁ!!もう我慢できねえ!なんなんだクソガキ!俺のこと見透かしてるような言葉連射してきやがって!大体俺だけじゃねえし!進路で悩んでいる奴らはなぁ!みんなぶち当たる壁なんだよ!!」
俺は耐えたほうだと思う。一時間どんどん悪質になっていく無限ループ質問を家に入る直前で爆発させたのだ。俺の反応に、少女は何が起きたか分からないという顔で固まっている。
やばい言いすぎたか?沸騰していた頭が少しずつ冷静になる。
「あ、しゃべったああああ!やった!」
彼女は固まった顔から切り替わりぴょんぴょん嬉しそうに飛んでいる。それはまるでどこまでも飛べそうな羽の生えたウサギのようだ。
電柱のてっぺんまで飛んだところで異変に気付く–––––―は?いや、飛びすぎだろ。
「うれしよ!やっと会話ができたね!まずは何から話そうか、おっといけない飛びすぎてしまったね。とりあえず降下してと、じゃー無難に自己紹介からするね」
ゆっくりと悠哉のところまで降下すると笑顔で近づいてきた。何が起きたのか理解できない悠哉を置いてけぼりで話そうとする少女。
「ちょ、ちょっと待て!今のはなんだ、いやそもそもなんでナチュラルに会話しようとしてんだ!お前空飛んでたんだぞ!」
悠哉の目の前で起こったことを、当たり前のようにしている少女に疑問が止まらない。
「ああ!さっき飛んでしまったことかい?それはね『奇跡の力』を糧に空を飛んだのさ!さっきのは会話できたのがうれしくて、自然に消費してしまったんだけどね!」
「余計分からねえよ!」
奇跡の力?馬鹿にしてるのかと言いたいところだが、実際に見てしまったことは否定することはできない。
「あれ?おかしいなあ、リュウ君に頼まれてきた子だから、てっきり知っているのかと」
「まて、その話詳しく聞かせろ」
そいつの名前が出てきた時点で嫌な予感しかしない。
「たしか『僕の知り合いに超退屈してて、荷物運びにもってこいのスペシャリスト用意するから』って言ってたはずだよ!」
「あの野郎、」
腹の中が煮えくり返るとはこのことだ。中学生のころ好きだった女子に、勝手にラブレターを書かれて渡された、あの日以来の怒りだ。
「ねえねえ!とりあえずさ、手伝ってほしいな!転移探索!もーそろそろ転移先が閉じちゃいそうだからさ!」
少女は腕時計を見つめると、少し焦り気味の口調で喋る。だがしかし、俺にはそんなものお構いなしだ。
「やるわけねぇだろ!大体転移探索ってなんだ、そんな意味の分からねえことで五万貰っても、気持ちわりーんだよ!俺は帰るぞ」
感情が高ぶりすぎて、脳みそが睡眠を希望しているのを感じる。悠哉は、玄関のドアノブに手をかける。
「五万?僕は五〇万のつもりで書いたつもりなんだけど、間違えちゃったかなー」
ドアノブから手を放す。そしてゆっくりと少女に近づく。
「春乃 悠哉です。空とかは飛べないけど、それでもいいか?」
できるだけ低姿勢で少女の目線に合わせる。金銭面が弱点なのは俺の悪いところだ。
「う、うん!よろしくねユウヤ!私は転移冒険家のランプだよ、気軽にランプって呼んでね!」
お互いに自己紹介を終えた頃には、建物の影は暗く染まり、町全体が静まりかえっていた。
「じゃーユウヤ!転移扉を出すからね、少し見ててくれ!」
「お、おう」
ランプは右ポケットから一つのカギを取り出す。すると何もない空中にカギを差し込むような動作をする。
「この鍵はね、鉄鉱山の異世界(バーゲン鉱山)に繋がっている扉を開くんだ!鉱山からはねとんでもない量の奇跡がとれるんだ」
ランプは胸を張って鍵を右に回す。その動作を俺は覗き込む、すると電灯の明かりを遥かに超える光が、鍵から漏れる。
「なんだこりゃ!おい、ランプなにがどうなってんだ!」
あまりの光量に、戸惑いを隠せない俺の右手をランプは掴む。
扉が開が開かれる、と同時に悠哉とランプは吸い込まれる。
「さあさあ、今から始めるんだよ僕たちの転移冒険が!」
俺はつまらない日常を思い出す。それが今崩れようとしている。あの悪友に少しの感謝と、ランプの楽しそうな言動と行動に大きな期待を。
「ひゃっはああー!何年振りの人間だぁ、」
「うひゃひゃ!俺はこの小さい女の足が食いてえなあ」
「ああもぅ我慢できねぇ!食っちまおうぜ」
悠哉は目の前の後継が逆転して見える、正確に言うと視界が上限反転している。もっとざっくり説明すると俺とランプはロープのようなもので、きつく縛り上げられている。
「おい、ランプ。俺らの冒険終わりそうになってんだが、」
「うわああああああ!死にたくない!たすけてくれよぉ!なんでもするからぁ!」
「なんで、おめーがてんぱってんだよ!!」
ランプの焦り具合を見て少し冷静になる、一度周囲を見回すと、手足の長い緑色の化け物が祭りのように俺らのを取り囲んでいる。はっきり言ってこの状況は終わっている。
「ランプ、鉄鉱山ってのがここなのか?」
「んぐっ、すん、、全然違うよぉ、なんでこんなとこに転移したかもわかんないもん、ぐすぅ」
すごい、鼻水と涙が逆流してる。
「あの時みたく、空を飛んで逃げれないのか?」
「うぇ、うぐ、こんなに縛られてるのに、むりだよぉ、、いや、なんとかなるかもしれない!」
「なに!?どうすんだ!」
「えっと、僕の左ポケットのズボンに転移石っていう石ころが入ってるんだ!それをとってくれ」
ランプの話を聞き、俺は体を左右に揺らす。これならあいつのポケットまで口が届くだろう。幸運にも奴らは宴の準備で夢中だ。
「いくぞ!ランプ!」
「うん!どんとこいだ!」
ランプまでの距離残り僅か、いける。俺はそう確信すると、を大きく開け彼女のズボンに噛みつく。
–––––―ずるっ
「あ、」
「うわああああ!何してるんだ!!」
口の中に石は確保できたものの、ランプのズボンは、さの状態から上にあげてしまいパンツがかなりはみ出ている。
「うひょーい!人間分かってんじゃねか!」
「宴の催しを食料自ら用意するなんて、これだから人間はやめられねぇんだ!」
奴らの宴の準備もそろそろ完成するころだろう、ランプはというと、
顔を真っ赤に染め、死を受け入れるように目をつぶっている。
「マミーパピー、みたいな出来損ないを育ててくれてありがとう。僕の人生短かったけど幸せでした」
「馬鹿野郎!何あきらめてんだ、この石をどうすりゃいいんだ!?」
「でもやっぱり。マミーとパピーに会うまでは僕は死なないから、生きるよ。よし!覚悟は決まった!ユウヤ君!その石を見せてくれ」
「こ、こうか、」
口の中に入れていた石をランプに見せる。
「どこに転移するかは分からない3級品の道具だ、覚悟はいいかい?」
「覚悟なんてのはとっくにできたんだ!この際どこへでもついてってやるよ!」
「頼りにしてるよ!『奇跡の力を糧に転移を施す』いっけー!!」
ランプが勢いよく唱える、石は青色の輝きを放つ。
「うきゃああ!逃げられるぞ!」
「そそ、んな!」
「ああ、次に来るのは何年後だろうな」
「でも、」
「兄ちゃん!嬢ちゃんのパンツ見せてくれてありがとよ!
「「「ありがとよ~」」」
悠哉とランプに最期まで手を振り続けた。
怪物たちは数年に一度しか見ることができない人間に好奇心と食欲が湧くのだが、中には人間から知識や技術を学ぼうとする怪物もいるのである。
ある部屋に青い光が差し込む、怪物たちはさぞ驚いたであろう。
「やったー!抜け出せたぞ悠哉!私の作戦のおかげだな!」
「ああ!おまえのおかげなのは間違いねえな!聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずナイスだランプ!」
胸を張っているランプを惜しみなく褒める。正直なところめちゃくちゃビビっていたのだからあの窮地を脱出できた喜びはすさまじい。抱き着いてやりたいぐらいだ。
「じゃーハイタッチしようよ!はい」
「おう!そーだな!」
差し出された手に迷いなく近づける。
「「いえい!」」
「イヤ、イエイジャネーヨ」
玉座に座る怪物の存在に気付いたのはその時だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
皆様が「クスッ」と笑えるように、コメディ要素も多めに書き込んでいきたいです。