⑧強くなりたい
あまりにも頼りない足取りで、一歩を踏み出したユウナギに疑問が浮かぶ。
「どこへ行くつもり? ……ユウナギ?」
ルティアの問いに、ユウナギはただ、ぼんやりとした眼差しで道の先を眺めながら呟く。
「どこへ? 決まってない……だけどオレは行かなくちゃ」
明確な目的地は無いのに?
まるで何かに駆り立てられるようにユウナギは歩き出そうとしている。
「ユウナギ。あなたは、これから「どうしたい」と考えているのですか?」
リュードが率直に聞いた。
「オレは旅を続けなきゃ」
「何故ですか?」
「父さんと母さんからずっと言われてきたんだ。ひとつの場所に留まるな、ひとりになったとしても、旅をつづけろって……」
「その理由を、ユウナギは知っているの?」
「……知らない」
嘘はついているようには見えなかった。
だが、理由も知らないのに、従順に動こうとするユウナギには違和感を覚えずにはいられない。
ルティアとリュードは無言のまま視線を交わす。二人の気持ちは、ユウナギと出会った時から、既に決まっている。
「じゃあオレ行くから。色々、ありがと」
「ちょっと待ちなさい!」
ルティアが引き止める。
当然だ。こんな幼い子をたった一人で行かせるわけにはいかない。
旅には危険が伴う。
魔獣と遭遇すれば、戦えない者や弱い者はすぐに命を落としてしまうのだから。
「私達がユウナギをひとりで行かせるわけないじゃない!」
「ルティアの言う通りです。ユウナギ、わたし達と共に行きましょう」
「……いいの? 迷惑じゃない?」
「子供が何言ってるのよ! もしひとりで行くって言うなら、リュードさんと一緒に後ろをくっついていくつもりよ!」
今のユウナギを一人にしようだなんてルティアもリュードも思っていない。
(せめて、ユウナギが安心して暮らせる場所まで連れて行かないと)
最近では孤児を受け入れる施設も増えてきている。
その中にユウナギが気にいる施設もあるかもしれない。
いくら親が言ったからと言って、留まらずに旅を続けるのは困難に近い。
「ユウナギ、あなたは自分が「何者」になりたいか、考えたことはありますか?」
リュードの問い。
その意図を、ルティアは理解する。
(リュードさんが、ユウナギの望みを聞こうとしている……)
リュードも孤児だった。
彼の場合は、物心ついた時には既に神殿で暮らしていて、祈祷師になるための修業をしていた。
生まれながらに未来を決められていたリュードだからこそ、ユウナギのこれからを案じている。
もしもユウナギに望みがあれば、それを叶えられそうな場所まで導くつもりでいるのだろう。
「……考えたことない。ただ……」
「ただ?」
「強くなりたいって思う」
――強く。
それはルティアも何度も思ってきたことだ。
もっと強く。
大事な人を守れるくらい強く、と。
そう思いながら剣を振るってきた。
魔王を倒し、愛するリュードのそばにいる今は、その感情は前より穏やかになったが、決して今の自分に満足しているわけではない。満足してしまったら、そこで成長は止まってしまうからだ。
(この子は、きっと強くなるわ)
いつかの自分とユウナギを重ね合わせるルティア。
そこで、ふと思いつく。
「そうだわユウナギ! これから一緒に旅をするんだもの、せっかくだし祈祷師さまの弟子になってみたら?」
「で、弟子!?」
「わたしの……弟子? ですか?」
ユウナギもリュードも呆気にとられた表情をしている。並んだ二つの顔がそっくりで、ルティアは思わず笑ってしまった。
「リュードさんは強いわ。剣なら私が教えられるけど、リュードさんのような祈祷師が一番強いと思うわ!」
自信満々にルティアが言うと、ユウナギは「考えてみる」と返事をした。
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次から第一章が始まります。
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