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⑤ユウナギという名の少年

ブクマ、有難うございます!

「……ダレ?」


 少年は眼前にいたルティアに向かって問う。

 口内が渇ききっているのか、小さな声はガサついている。


「私の名前はルティア。冒険者よ」

「……冒険者? ふぅーん……」


 疑わしい、そんな含みを持った口振りだった。

 警戒を(あら)わにこちらの様子をうかがっている。ルティアはそれを正しい判断だと感心した。


(確かに女の冒険者は珍しいわよね)


 旅をしながら、各地に点在する冒険者組合(ギルド)に立ち寄った時も、女の冒険者の姿はまず見かけない。

 仮に冒険者になったとしても、女性の場合は、体力的なものや、結婚などを機に足を洗う者も多かった。

 まして魔王を倒した時世(じせい)では、(いま)だ魔獣の脅威はあるものの以前よりも平穏になりつつある。

 そう遠くない未来、冒険者という職業も無くなる時代が来るかもしれない。


「痛いところはありませんか? 少し起き上がれますか?」


 リュードが少年の背を支える。


「へーき。どこも痛くない」

「それは良かったです。さあ、水ですよ。ゆっくり飲んでください」


 上体だけを起こした少年に、リュードは水をたっぷり注いだ木製の(うつわ)を差し出す。

 受け取った少年は、器に顔を近づけて、くんくんと鼻を利かせている。


「毒は入っていませんよ。安心してお飲みなさい」

「毒じゃなかったらナニが入ってるの?」

「それは解毒(げどく)作用のある聖水です。さきほど気持ちが落ち着く薬草を(ひた)したので、少し臭いがあるかもしれませんね」

「ふーん……」


 少年はもう一度器の中を見たあと、口をつけて一気に飲み干した。


「……ぷはっ。……ありがと」

「どういたしまして。わたしの名はリュードと言います。あなたは?」

「オレは"ユウナギ"。……思い出した。オレ、魔獣から逃げてたんだ。もう行かなきゃ!」

「ちょっと待って!」


 立ち上がったユウナギの腕をルティアは掴む。


「ナニ? 痛いんだけど。離してよ」

「ご、ごめんなさいっ」


 無意識のうちに力を入れすぎていたようだ。

 ルティアは慌てて腕を離す。


 ――告げなければ。


 なにも知らないまま、両親の変わり果てた姿を目にするのはショックが強すぎる。


「その、ユウナギ……貴方、ひとりきりでこんな山のなかを歩いてたわけじゃないわよね?」

「? 当たり前じゃん。おれは父さんと母さんと一緒に旅をしてんの。心配してると思うから、早くいかないと」

「ユウナギ、落ち着いて聞いて」

「?」


 今度こそ力加減を誤らないように気を付けて、ルティアはユウナギの小さな手を、自分の両手で包む。


「この道の先で馬車が横転していたわ。その近くにね、武器を持った男女が倒れていたの」

「え……」

「多分、あなたの両親だと思う。私が見つけた時には、もう……亡くなっていたの」

「!!」


 ユウナギは言葉を失っていた。

 ただただ何度か開いた口で浅く空気を飲み込んでは、未熟で頼りない肩を震わせている。

 その深く大きな哀しみをルティアは知っている。


(大好きな人がいなくなるのは、何よりも辛く哀しいことだわ)


 それをこんな幼いうちに経験するなんて可哀想だ。せめて両親のどちらかでも生きていてくれたら良かったのにと思う。

 ユウナギにとって(にわ)かには受けいれ難い現実だろう。


「……ルティア、だっけ?」

「そうよ」


 まだ顔は伏せたまま、ユウナギが言う。


「おれを父さんと母さんのところに連れていって。早く行ってあげないと。……おれは無事だったって、父さんと母さんのおかげで、ちゃんと……生きてるんだって、言わないと。心配してるから……」


 ルティアは歯を食いしばる。

 そうじゃなければユウナギの健気な姿に、涙が出てきてしまいそうだった。


(一番哀しいのはユウナギ。私が落ち込んでる場合じゃないわ!)


「えぇ、一緒に行きましょう」


 ルティアが先導する。

 その後ろを、リュードに手を引かれたユウナギがついてくる。



お読みいただき有難うございます!

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