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せっかくだし祈祷師さまの弟子になってみたら?  作者: 葵月さとい
第二章 ガーリア帝国への旅路
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⑤マバナ皇国の旅人

お待たせしました!

 ルティアが目を開けると、そこには心配そうな顔をしたユウナギの姿があった。


(そうだわ。私、魔獣と戦って怪我をして……)


 いつの間にか、意識を失っていたようだ。

 身体を起こしながら確認すると、服は破れていたが傷口は塞がっており、痛みもまったく感じない。骨も折れていたはずだが完全に治癒している。


「っ、リュードさん……」


 こんな奇跡を可能にするのは、祈祷師であるリュードしかいない。

 夫の姿を探すと、すぐそばで横たわり休息していた。規則正しい呼吸が聞こえてくる。


「……ルティア、大丈夫?」

「えぇ、もう平気よ。怖いものを見せちゃったわね」


 すり寄ってきたユウナギを抱きしめると、ルティアは小さな背中を落ちつかせるように何度も撫でた。

 ユウナギの両親は魔獣に殺された。

 そのせいで、辛い思い出がよみがえったに違いない。心の傷が癒えるには、まだまだ時間が必要だ。


(私も、そろそろ引退かしらね……)


 己の力を過信していたわけではない。

 それでも、昔の……魔王と対峙した時の自分であれば、あの程度の攻撃は躱せていたはずだ。

 守りたいものがある今、年齢とともに失われつつある()()をルティアは惜しく思う。


(仕方のないことだわ)


 ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音がして、目を凝らす。

 そこに、ルティアを見つめる瞳があった。

 一人は四十過ぎくらいの糸目の男。もう一人はルティアと同じくらいの歳の男か。見覚えがある。

 彼らは魔獣と戦っていた男達だった。

 夕暮れを前に、熾した焚き火を囲むように腰を降ろした二人は、目覚めたルティアのことを安堵の表情で見つめている。


「お加減はいかがですか?」


 若いほうの男がルティアに向かって口を開いた。大陸共通語だが微妙に(なま)りが入っている。


「さっきは助かった。礼を言う」


 続けて、もう一人の男のほうも感謝の言葉を口にした。

 

「たまたま通りかかっただけよ。困っている者を助けるのは、冒険者として当然のことよ」


 ルティアは微笑んだ。

 しかし、同時に違和感を覚える。


(この二人…… ——まったく隙がないわ)


 こちらを警戒しているということか。


(どこからどう見たって、私達は善良な冒険者なのだけど)


 警戒される理由に心当たりはない。

 だとすれば、向こうに何かしらのワケがあるということか……。

 ルティアは不審に思われないよう男達を観察する。

 

(見たところ普通の冒険者、もしくは旅人といったところかしら)


 年季の入っていそうな外套に、武器は短剣や中剣、荷物は革袋がふたつだけ。身軽な旅人だ。

 魔王がいなくなり、魔獣の数も減っている今、道楽として旅に出る者が増えていた。

 ルティア達も冒険者であり旅人だ。ただ、旅をする理由は道楽ではなかったが。

 

(この二人、年齢は違うけれど、よく似ているわね)


 それは頭に巻きつけたターバンのせいかもしれない。それに頭髪は剃り上げているのか、毛筋のひとつも見当たらなかった。珍しい容貌だといえる。

 訛り口調といい、遠い異国の地からやってきたのかもしれない。犯罪者という可能性もある。

 

「……そういえば、自己紹介がまだだったわね」


 ルティアは、己の名を口にする。


「私は、ルティア・ロードナイトよ。よろしくね」


 男達の目が見開かれる。


「……ルティア・ロードナイト!? その名はっ」

「まさか、貴女が、魔王を討ちとったいう女剣士なのですか?」


 そうよ、とルティアは頷く。

 今や、ルティア・ロードナイトは有名人だ。

 魔王を倒した女剣士の名は、幼い子供でも知っている。


「でも、私は一人で戦ったわけじゃないわ。仲間達がいてくれたから諦めずに戦えたの」


 ルティアは眠っている夫に目を向ける。


「リュードさん……夫や、フレッドに、キーノス、冒険者の仲間達がいたから……」


 つられるように、男達も名乗る。

 若い男は、ガラ。

 糸目のほうは、サハラと言った。


「我々は、マバナ皇国から各国を渡り歩いています」

「マバナ皇国……!」


 ルティアは驚く。

 それは、つい最近、関心を持った国だったからだ。

 

(ユウナギの故郷かもしれない国よね)


 マバナ皇国に関する情報は少ない。あまりにも遠方の、文化も違いすぎる国だという。

 ユタが教えてくれなかったら、気に留めることはなかっただろう。


「わざわざ遠いところから、どうして……」

「我々は、ある人物を探して旅をしているのですよ」

「ある、人物?」

「そうだ。生きていれば、ちょうど……その子供と同じくらいの歳のマバナ人を」

「!」


 ガラと、サハラの視線がユウナギをとらえる。


「失礼ですが、そちらのお子は、ルティア様の」

「私の子供よ!」


 嘘をついた。そうしなければいけない気がした。

 目を丸くしたユウナギを胸に抱き寄せて、ルティアは耳元で「話をあわせて」と呟く。


「ユウナギは、私とリュードさんの子供なの。ほら、髪の毛はリュードさん似で、瞳の色は私にそっくりでしょ?」

「ええ、確かに」

「すまない。疑っているわけではなかったが、我々にはマバナ人に見えたのでな」

「……」


 男達の瞳の奥に、獣のような光が見える。

 その光が、ルティアの心に警鐘を鳴らす。

 眠っていたリュードが、わずかに身動ぎをした。


(聞いていたわよね? リュードさん)


 旅慣れた者は、気配や音に敏感だ。

 眠っているように見えても、身を守るために、すぐに行動できるよう意識を巡らせている。

 リュードは覚醒した。


不定期ですが、完結までじっくり書いていきたいと思っています。


お待ち頂いている読者様、本当に有難うございます!

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