⑤旅をする理由
連載再開!
「なんだか二人とも嬉しそうだね?」
ルティアとリュードに挟まれて歩いているユウナギが、背の高い二人を交互に見上げて言った。
それはもちろん! とルティアは力強く頷く。
「今夜は久しぶりに、ちゃんとしたベッドで寝られるし、お風呂にも入れるわ」
「そういえば……これから行く村には、ルティアの好きな“お肉料理の食堂”もありますね」
「それよ! 村での食べ歩きも楽しみのひとつよねぇ」
「食べ歩き……」
「ユウナギもたくさん食べるのよ、育ち盛りなんだから!」
「……うん」
並んで歩く三人の旅人は、側からみれば仲の良い家族のようだ。
これから立ち寄る村ではルティアとリュードを知る者が多くいる。子供を連れていたら驚くだろうが、余計な詮索をする者はいるまい。
この時代、孤児は珍しくなかった。
皆が何らかの事情を抱えながら日々を生きている。
(村のみんなは優しい人達ばかりだし、ユウナギの癒しになればいいわ)
たっぷり休んで、たくさん食べて、そうやって少しずつ元気になっていけばいい。哀しいことや、危険なこと、その全てから守護するとルティアとリュードは決めている。それが出来るくらいの力なら、今の自分達は持っている。
「ねえ……きいてもいい?」
「なあに?」
ユウナギが積極的に話しかけてくるのは珍しい。
少しずつ心を許してくれてきたのかもしれないと、ルティアは嬉しく思う。
「あのさ……なんで魔王を倒した剣士と祈祷師が、こんなとこ旅してるの?」
「私達が旅をする理由?」
「そう」
「ん〜と、それは……」
どう答えようかルティアが唸ったところで、リュードが言葉を継ぐ。
「わたし達が旅をする理由は色々ありますが、今の目的は、これを集めることです」
「リュードさん、それ!」
「いいんですよ。ユウナギも知っておいたほうがいい……」
足を止めたリュードが、腰のベルトに括り提げていた麻布の袋から、あるものを取り出す。
手のひらに収まるくらいの大きさのそれは鉱物だろうか。赤黒く濁った色をしていた。
「これなに?」
「魔獣の魔核です」
「!!」
「危険はないので大丈夫ですよ。触れてみますか?」
穏やかなリュードの声に導かれるように、ユウナギは魔核を掴んだ。
(リュードさんが大丈夫って言ったら大丈夫だと思うけど……)
ハラハラしながら、ルティアは見守る。
ユウナギの両親は魔獣によって命を落としたのだ。
魔核を前にして心の傷口が開いてしまったらと、心配になる。
しかし……意外なことに、ユウナギは恐れるどころか逆に興味を示す。
「これが魔核……初めて見た。軽いし、きれい……」
「魔獣にとって魔核は力の源泉、人間にとっての心臓みたいなものですね」
ーー魔核。
空から降ってきたそれは、どこで生まれたものかも分からない未知の物質であり、人間にとっては邪悪な存在だ。魔核は変異し魔獣となる。
これまでの歴史のなかで、少なくとも二度、魔核は地上に降り注いだ。
とくに巨大な魔核は「魔王」を生み出し、ルティア達冒険者は、命懸けで戦い討ち取った。
魔王がいない平和な時代はやってきたが、魔核はまだ地上に残されている。
「……なんで集めてるの?」
「魔獣について研究している友人に頼まれたんです」
「友人?」
ユウナギの様子にひとまず安堵したルティアも口を開く。
「そうよ、名前はフレッド。一緒に魔王を倒した大切な仲間よ」
「魔王を倒した……冒険者……!」
「フレッドはとっても強い魔法剣士なの……、しばらく会ってないけど、元気にしてるかしらねぇ」
「魔法剣士……すげー……」
年相応のあどけない少年の眼差しに、ルティアは笑ってしまう。
魔王を倒した冒険者達は世間的には英雄の扱いだ。
ただ実際にあの死線をくぐり抜けた者達にとっては、痛ましく、忘れてしまいたいほどの傷を心に負った。
時とともに、それもだいぶ和らいではきたが……。
「どうして魔獣のことを研究してるの?」
「それは……一言で説明するのが難しいですね」
リュードが魔核を袋にしまうと言った。
「あなたのような未来を生きる子ども達は、真実を知っておくべきかもしれませんね」
「真実?」
「ゆっくり、旅をしながら、わたし達が経験してきたすべてを教えてあげます。楽しい冒険譚ではないかもしれませんが……。これから未来を歩むユウナギにとって、助けになることがあるかもしれません」
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