④憶測
ユウナギが命を狙われている。
その可能性にたどり着いたのは、ごく自然なことだった。
「ユウナギのご両親は、わざわざ髪色を変えていた。ユウナギと同じ色にわざと染めていたのよ。多分……血の繋がりはないわね」
血の繋がりはなくとも生活をともにしているのは、何らおかしいことではない。
けれど髪染めまでして親子を装っていることに、ルティアは違和感を覚えた。
「そうですね。……しかも、ユウナギはずいぶん幼い頃から旅をしていたようです」
「幼い子を連れたまま、旅を?」
「はい。素性を隠し、親子を装い、旅をする……」
「何か事情があるとしか思えないわね」
ユウナギの両親は武器をとり魔獣と戦っていた。その鍛えられた肉体は、一朝一夕で出来上がるものじゃない。
そもそも、この時世に旅をするのは命の危険を伴う。幼い子を守りながらの旅なら特に。
「しかも、自らの遺体も、荷物のすべても燃やすように指示していたので、痕跡を残したくなかったのでしょう」
「ご両親がユウナギに遺した『ひとりになっても旅を続けろ』というのは、つまり『逃亡を続けろ』と言ってるようなものだしね……」
「狙われているのは、ご両親ではなく、ユウナギのほうなのでしょう」
こんな幼い少年が追われる身となるほど、何か悪いことをしたようには思えなかった。
今も両親を喪った哀しみに耐えながら、前を向こうと健気に頑張っている。
「実は……わたしは他にも気になっていることがあります」
「気になること?」
「ええ。ですがこれはまだ憶測なので……。ルティア、これから魔獣が出たとき、できれば直ぐに攻撃せずに様子を見てもらえませんか?」
「様子を……見る?」
リュードの意図が分からず、ルティアは首を傾げる。
「襲いかかってくるなら、もちろんすぐに戦ってください。身の安全が一番ですから」
「よく分からないけど、分かったわ!」
「ルティア……」
「え、リュードさん?」
リュードが片腕を伸ばしてルティアの肩を抱き寄せる。抵抗はしない。そのまま縋るようにリュードの胸にもたれかかる。
「貴女のことも、ユウナギのことも、わたしが護りますーー」
頭上から降ってくる声に、ルティアの胸は甘く締めつけられる。
(リュードさん、やっぱり私はリュードさんのことが大好きだわ)
夫婦となった今でも、変わらず恋をしているような気持ちになる。
魔王を倒したあとルティアは姿を消したリュードを探して、旅をしていた。もう何年も前のことになる。あの時は、こんな未来がくることなど想像も出来なかった。
愛する人がそばにいる。
幸せだ。
リュードの胸のなかで、ふと思う。
ーー皆、幸せでやっているだろうか。
離れている大切な仲間たち。
ガーリア帝国に着けば会えるだろう。
元気でいるだろうか。
幸せにしているだろうか。
自分だけが、こんなに幸せでいいんだろうか。
何か困ったことがあるなら、力になりたい。
(ユウナギのことも……)
涙の跡を残しながら眠る少年の、心からの笑顔を、いつか見てみたいと思った。




