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③これからのこと。

「良かった。ユウナギ、ぐっすり眠ってるみたい」

「ええ、薬湯の効果でしょう」

「ずっと気を張っていたものね、この子……」


 焚火のそばで肩を寄せ合い、ルティアとリュードは幼い少年の穏やかな寝顔を見つめていた。

 ここ数日、毎晩疲れて眠りについていたユウナギだが、夜中になると声を殺して泣いていた。

 両親を喪ってからまだ日も浅い。幼い心に負った傷は深いだろう。

 昼間でも「用をたす」と言って、ふらりと木立の陰に入っていくと、泣き腫らした目で戻ってくることもあった。

 このままでは、身体まで限界を迎えてしまうのではないかと心配していたが、今夜は深い眠りに落ちている。ひとまずは安心だ。


(私達の前では元気に振る舞おうとするし、子供なのに、気を遣いすぎなのよね)


 子供なら子供らしく、もっと感情を出しても良いとルティアは思う。

 けれどユウナギがそうしないのは、我慢強く理性的な性格や、両親の教育の影響があるのだろう。


(今夜くらいは、良い夢を見れるといいわね)


「ユウナギが眠っている間に、ルティアと今後について話し合いたいと思っていました」


 リュードの言葉に、ルティアは頷く。

 今のうちに話しておきたいことがあるのは、ルティアも同じだった。

 しかし、その中にはユウナギに聞かれたくない内容も含まれていたため、今まで話せなかったのだ。


「これから、わたしはガーリア帝国に向かおうと考えています」

「じゃあ今年は、そこで冬を越すのね?」

「はい。そろそろ一度戻らなければいけない頃合いですし、いかがでしょう」

「良いと思うわ。ガーリア帝国なら伝手(つて)もあるしね」


 迷わずすぐに賛成する。

 ーーガーリア帝国。

 そこはかつてルティア達が魔王と対峙した因縁の地だった。

 戦いの記憶がよみがえるたび、古傷が疼くように、心が冷たく痛むことがある。

 けれど、時とともに、少しずつ過去の思い出として昇華されつつあった。

 今、ガーリア帝国には、かつて共に死戦をくぐり抜けた大切な仲間達がいる。それに、リュードの故郷でもある。


「それと……もし、ルティアが許してくれるのであれば、わたしはユウナギの後見人になろうと思っています」

「それって、ユウナギを本格的に弟子にするっていうこと?」

「いいえ。……ユウナギには、わたしのようになって欲しくないのです」

「リュードさんのように?」

「わたしのように不自由な生き方をさせたくない、という意味です。ユウナギには金銭的な援助と、安心して暮らせる場所が必要です」


 孤児だったリュードは物心ついた時には神殿にいて、祈祷師になるために修業をしていた。それ以外の生き方が許される環境ではなかったのだ。


(リュードさんは、ユウナギが自分の意志で未来を選べるようにしたいのね)


 一般的に、親のいない子供は孤児院が受け入れてくれる。運が良ければ子供を持てない夫婦に引きとられたり、貴族の屋敷の下働きとして雇ってもらえたりする。

 そうでない場合でも、ある程度の年齢になったら、孤児院を出て行かなくてはいけない。身を立てていくのには苦労するだろう。

 ユウナギの場合はもっと複雑になる。

 両親との「ひとりになっても旅を続ける」という約束を果たそうとしていることから、孤児院に身を寄せるのは難しい。

 だが、このままずっと一緒に旅に連れて行くわけにもいかない。ルティアとリュードの旅にも目的があるからだ。


「リュードさんが決めたなら、私はそれで良いと思うわ。どちらにしろ冬の間は旅はできないし、良い機会ね。ガーリア帝国なら、もし私達がそばに居れなくなっても、頼りになる人達はたくさんいる……」

「ええ。()()()()()()()対処できるでしょう」

「リュードさん、やっぱり……気付いてる?」

「そうですね……」


 いったん話すのを止めて、リュードは少年の寝顔に目を向けて確かめる。起きる様子はなさそうだ。


「ユウナギは、誰かに命を狙われている可能性があります」




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