②ユウナギと薬草
川で身体を清めたあと、ルティアは汚れた衣類の洗濯に取り掛かる。
(今日が晴れている日で良かったわ)
山間では陽射しが遮られることも多い。それに季節は秋で、日が暮れるのも早いのだ。
だが今日は程よい風も吹いている。
洗濯物も明日の出発までには乾くはずだ。
一方、リュードとユウナギは火を熾し、食事の用意を始めていた。
旅人の食糧といえば、乾燥させた干し肉や木の実など、日持ちするものが多い。
ただ何もない荒野にくらべ、山道を往く旅では、狩りができるし、春であれば山菜など、豊かな恵みをいただくことができる。
とくにリュードは野草に詳しかった。
野草のなかには、疲労回復に効果があるものや、整腸作用があるもの、切り傷の手当てに適したものなどがある。
リュードはそのなかでも栄養価が高い野草を採取し、薬湯にすることが多かった。舌には苦いが、健康には良い。旅人にとって身体はなによりの資本だ。
「リュード、こっちの葉っぱはどうするの?」
ユウナギはさきほどからリュードの手伝いをしている。指示されたとおりに荷物から必要なものを取り出したり、火が消えないように乾いた小枝を焚べたりなど、ちょこちょこと動きまわっていた。
やることが無くなり手持ち無沙汰になってしまったところで、リュードが道端で摘みとった野草に目を留める。
「それはユウナギのための薬草ですよ」
「え、オレのため?」
きょとんとした赤い瞳がリュードを見上げている。
「はい。あなたがグッスリと寝て、明日元気になるための薬草です」
「オレ、元気だよ?」
「気付かないうちに疲れはたまるものなんですよ」
「ふぅん。大丈夫だけど……でも、ありがと」
「どういたしまして」
リュードが目を細めて柔らかく微笑むと、ユウナギは照れたように顔を逸らした。それから半月のような形をした薬草を摘みあげて、しげしげと観察する。
「わっ、この薬草、裏側が真っ白だ!」
「表面は濃い緑色ですが、裏は白くて産毛があるのが特徴ですよ」
「うぶ毛……。ん〜、なんかシャリシャリする」
「本来は乾燥させたあと煎じて飲むのが一般的なのですが、今日は葉をちぎって、そのまま湯にひたします。草の汁にも高い効果がありますから」
「へぇ。味は?」
「とても苦いです。でも大丈夫ですよ。ルティアとユウナギの薬湯には蜂蜜をたっぷり入れますから、甘くて飲みやすいはずです」
「オレ、苦いのヘーキだよ!」
「わたしもです。一緒ですね」
二人はお互いをみて笑い合う。
「ちなみにこの薬草は、山のなかの、よく陽があたる場所に自生しています。わたし一人では他の薬草に気を取られて、見逃してしまうこともあるでしょう」
「ならオレも探す!」
「頼りにしていますよ、ユウナギ」
「うん!」
大きく頷いてから、ユウナギはまた薬草の特徴を掴むために、じっくりと眺めはじめた。
ルティアの言った「せっかくだし祈祷師さまの弟子になってみたら?」という突拍子のない提案に、ユウナギはまだ返事をしていない。
けれど、少しは意識しているようで、リュードの行動をよく見ている節があった。
そしてリュードは、幼いユウナギにとって負担にならない程度の役立つ知識を、旅のなかで教えることに決めた。
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