婚約者令嬢の朝は早い【スピンオフ】
3部作になった!これは2番目。公爵令嬢視点。 @短編その16
1・処刑された最低王子は転生して死んだ悪役令嬢に許しを乞う 王子視点。
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3・遊びは終わりだ、お前達。 王子視点。
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わたくし、エウルィ王国の第一王子、ネイザン様の婚約者でケーラ公爵の娘、メラディです。
爽やかな朝です・・今日も頑張りましょう。
まず6時に起床。目覚めのミントウォーターで喉を潤します。
それから筋トレに剣の稽古を1時間、軽く汗を流してから髪を結ってもらい、軽めの朝食。
8時に学園に登校、授業を受けます。今は最終学年、魔法授業が多くなってきました。
ランチは令嬢方といただきます。そして午後の授業。
終業したらお城に戻り、お妃教育。これはもう四年続いています。
お妃教育は本当、奥が深いです。
そしてディナー。最近は王様とお妃様と一緒に頂くことが多くなってきました。
「あら、またネイザンはいないの?」
そうです。この頃御学友の方々と、召し上がってくることが多くなってきました。
なので帰りも遅いです。このまま顔を合わせないこともあります。
「どうも、息子の行動が芳しくないようだな・・」
「全く・・はぁ」
王様とお妃様が顔を見合わせて大きなため息・・
知ってますわ。彼が何をしているかって。お二人もご存知なのですね・・
「諦めないで頂戴、メラディ。今はまだ子供で、遊びたい盛りなのよ」
と、お妃様はいいます。握り拳を両方、顎の下でキュッ可愛く。
でもボクシングのガードに見えてしまうのは何故でしょう?
とは言いますけど・・・・。それダメです、はい。
食事も終え、課題や復習も終え、風呂にも入り、今は自室でぼんやりと過ごしています。
机にはレターセット。
『拝啓 父上』
ここでペンが止まっています。
『もう、家に帰らせてください。正妃は他の方になって頂ければ宜しいでしょう』
と、書くつもりだった。
国を担う後継が遊びに夢中!王子ですよ?
こんなに責任も弁えない、子供のおつむの彼と何を共有しろと?
わたくしばかりが頑張って勉強し、政治経済を学び、お妃教育を叩き込まれ、剣も嗜む。
・・・私、女王になれるのではないかしら?
でもこのエルフィ王国は、王が国を治める慣し。
いっその事・・・その慣し、潰してしまえば良くないです事?
それに、子供が出来ないかもしれない事態を見越しての、側室・・一夫多妻制。
本当に産めない事がわかった時で良いのでは?夫の取り合いなんて、ゾッとする。
だって今でも、あの平民の・・・
そう思うと涙がぽろっと一粒、机に落ちた。
学園に特待生として通う、平民のあの娘。
ネイザン様は彼女がお気に入りで、いつも一緒。
その娘の手料理を食べて帰ってくる。だからディナーの席に来ない。
本当に貴族のマナーがなっていない子だから、最初は親切心で教えていたの。
それが鬱陶しいとばかりに反抗し、私の顔を見たらしかめっ面で、
「はいはーい、お貴族様は意地悪ですねー」
毎度毎度、こんな言い方をされては、こちらだってムッとするというもの。
だけど彼が庇うのは、平民のあの娘。
すぐ王子に言いつける。しかも大袈裟に。
そんな事は言っていないのに、盛りに盛るのだ。
無視するとこれはこれで言いつける。
わたくしの説明も何も聞かないうちから庇うの・・
そしてネイザン様と取り巻きが言うの。
「おい虐めるな」
「可哀想だろ」
「やきもちしたって可愛くない」
最近聞いたのだけど、この娘、何か聖なる力を持っているのだとか。
・・・・そんなにその娘が良いなら、そちらに行ってくださいませ。
ええ、熨斗を付けて差し上げますわ。
わたくし、頭が悪くてゆるくてボンクラな方は、好みではありませんもの。
それに・・・子供の頃からわたくし・・好かれていませんでしたから。
出会った頃の事、婚約してから、学園に入学して、今。
彼との思い出を鑑みると・・・本当、全然好かれてないわ!!
別に王妃になりたかったわけではないの!
わたくし以外になれそうな子がいなかったから、押し付けられた、気がするの!!
でも・・わたくし・・王子様を好き・・・・・・
・・・・・・・・・
ポロポロポロ・・・また涙が机に落ちる。
『でした』って言えない。『過去形』じゃないもの・・・
「今も好きなんですもの・・・」
記憶の中の、彼の天真爛漫な笑顔を思い出して。
意地悪ではあったけど、小さい頃はわたくしを置いていかなかった。
遅いとか面倒とか言いつつ、わたくしの手を握り、引っ張って連れて行ってくれた。
大きくなってからも、時には笑顔を見せてくれていたの。
だから筆が進まないの。進められないのね。
今の事は黙認し、結婚したら厳しくする?いいえ、側室の処に入り浸りになるわ。
そして今よりも無視されてしまうのだわ。
多分王の執務もわたくしに押し付け、今のように遊んで過ごす気なんだわ。
「もうこれ以上・・苦しまないようにするには・・・婚約を解消するしかないのね」
もう筆を進めるべき。そしてもう王妃になりませんと宣言するのだ。
トッ・・
微かな音にハッとする・・・暫くして『コツコツコツ』。
窓?
振り返ると、人の影・・よく見ると・・・え?ネイザン様?
3月とはいえ、まだ夜は寒いのに薄着だわ・・とにかく部屋に入ってもらう事にして。
「どうしました?こんな夜中に」
ネイザン様が何かを見ている。視線を追うと、机の・・便箋!
でもまだ何も書かれていないから良かった・・・
「勉強していたのか?」
「・・・はい」
誤魔化せたわ。
でもネイザン様、なぜここに・・・彼の部屋は真上・・・まあ!お猿さんのように降りてきたの?
こんな夜中、一体どうしたのかしら?それもレディの部屋に!わたくしったらはしたない!
「頑張っているんだな」
勉強していたと思ったのね。そうよ、いつだって貴方のために・・虚しいけど・・
わたくしは今のまま生きていく事になるのだわ。ネイザン様の尻拭いをずっとさせられるのだわ。
「・・・私の価値は・・このくらいしか」
私の言葉に、ネイザン様はハッとした様子で息を飲み・・・・俯いてポツリと呟いたの。
「すまなかった」
!!!
いきなりどうされたのかしら?夜中ですけど、晴天の霹靂です・・
急にネイザン様が跪き、わたくしの右手をとると口付けたのです!
「どうなされたのです?突然・・」
じっと私を見上げるようにして、視線を逸らさないから・・・ドキドキしてしまう。
「最近の私は君を粗末にした」
「・・・」
粗末・・ですの?粗末なんてものではないのでは?
でも自覚はありますのね?それもどうかと・・
「君は・・少しは・・・・」
「?」
・・少しは?
「やきもちを妬いてくれただろうか?」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ま・・!」
それって!それってどう言う事ですの!!!
計略?絡繰りでしたの??な、な・・・
「あまりにも君の反応が薄いので、無駄な戯れは止めることにした」
・・・・・・・・・・・・・・・絶句。
「・・・そういう事でしたの?」
ネイザン様は苦笑しつつ、ゆるんと頭を左に傾げた。ま、可愛い・・いえいえ!!
なんて事・・なんて事なの・・悪戯にしては・・・酷すぎます・・
「意地悪ですわ・・・私、お父様に婚約を解消してくださいと言うところでしたの」
目を細め、なんでしょう・・切なげな顔をしています。
手酷い悪戯をしておいて、貴方の方が傷付いた顔をするなんて・・
狡いですわ・・・
「毎日が苦しくて・・辛くて・・それを、やきもち?許しませんわ!」
わたくしがどれだけ、どれだけ、どれだけ・・苦しんだか、思い知るが良いのです!
ポカポカと、屈んだままの彼の頭を叩いているけど・・
ああ、また涙が・・・
ぽた、ぽたとネイザン様の頬に、頭に、肩に、滴が落ちる。
酷い・・絶対に、絶対に!赦しません・・!!
人を馬鹿にして、苦しめて、傷つけて・・・
「許さなくていい。私にうんと怒って欲しい」
ネイザン様は立ち上がると、わたくしをそっと腕の中に引き寄せて・・
え、えええ??
すごく優しく、逃れようとすれば簡単に逃げ出せる力で包んでいるの。
抵抗?しませんわ・・驚いたけれど。
わたくしは抜け出さず、そっと彼の胸に体を寄せたのです。わたくしったら大胆です。
だってずっとこんな風に・・ネイザン様に触れたかったのですもの・・
気が付くと、すっかり抱きしめられていました。じわーーと捉まってしまいました。
心臓の鼓動も感じます。規則正しい音・・つまり、ネイザン様は余裕という事ですの?
わたくしはもう、体が心臓になったと思えるくらい、ドキンドキンしているのに。
ふと、ネイザン様の手がわたくしの後頭部に触れ、くいと仰け反らせて、お互いの顔が見えるようにして、クスッと笑ったの。わたくし、変な顔してたのかしら?
「そしてもっと私に感情を見せて欲しい。勿論、私にだけだ」
こんなことを言うなんて・・・こんな事って・・夢が願望になったのかしら?
確かに、わたくしはかなり硬い感じだわね。可愛げがない、そういうことですのね?
「でも・・」
「お妃教育で、感情を表に出さない様に、ってあるのは知っているけど、ずっとでなくていいんだ。
公式の場所だけだから・・でもそんな真面目なところが君の良いところなんだろうね」
「・・・」
そうですわね。これからはもっと柔らかく、心にゆとりを持って、そういう事ですのね?
「私も真面目にするとするか・・・ねえ、メラディ」
「はい」
「キスして良い?」
聞きます?そんな事。
「もう・・それは真面目とは・・・くす。お願いします」
お願いしますという言い方、固かったわ、あ・・
・・・きゃ。どうしましょう!どうしましょう・・初めて、きゃあ・・
今夜のネイザン様は、どうしたのかしら?
これは夢なのかしら?ネイザン様が改心してくださったのなら、ちょっと赦して差し上げます。
でもちょっとですからね?夢だと分かっても、ちょっと赦すだけですわ。
「メラディ。これからも私を怒ってくれるか?」
何を言っているのです!!そんな甘えた微笑みで!もしや私を籠絡する気ですのね?
でも怒ってくれって、どういう事ですの?横道逸れたら注意しろって事?でも!
「ま!!怒らせない様にする気はないのですのっ?」
思わず声を荒げてしまったら、ネイザン様は物凄く嬉しそうにして、声を出して笑ったの。
きゃ・・なんて素敵な笑顔なのかしら・・私ったら・・ちょろいわね。ふふっ。
そうなの。ちょっと冗談を言ったり、軽い喧嘩しても最後に笑ってお終い。
こんな風に、ネイザン様と過ごしたかったの。
これが夢なら本当、素晴らしいわ・・
やっぱり大好きです・・・
次の日・・
昨夜の出来事は、夢でない事に気づいたの・・・
だってネイザン様、私の隣で寝ているんですもの・・・
あ!まだ婚約だもの、その先は自粛していますわ!!本当ですわ!!
あら?胸元が肌蹴て・・?
一旦エンド
ちょっとおまけ>
ネイザンはこの日、メラディを断罪するための資料を纏めたモノを持ち帰っていた。
最近ディナーに間に合わなかったのは、あの女と過ごしているのもあったが、断罪する証拠や証言も揃えたりして、メラディを陥れる気満々、虎視眈々だった。
だが彼は3月1日の夜中に転移したのだ。
持ち帰った証拠や資料は暖炉に焚べ、隠滅した。
これで完全に断罪はなくなったのである。
本当のエンド
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191