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暮らしのヒント

暮らしのヒント もしも旅先でトラブルにあったら(車)

作者: 山本大介

 私達、夫婦は今、高知龍馬空港へ到着した。「南国土佐にやってきたぜよ」私は心の中で、そう呟き、四国南の太陽を眩しさに目を細め、胸ポケにしまっておいたサングラスをかけた。そんなわたしの様子を見ながら「おのぼりさんね」と妻の一言。彼女の眼もとには、あゆばりのサングラスが顔の三分の一を覆っていた。(人の事言えないやん)と思いつつも、彼女の気分を損なわないように、とりあえず笑らてみた。

 レンタカー屋さんで、車を借り桂浜や高知市内を観光して回る。夕方からは学生時代の親友の家で夕食をご馳走になり旧交を温める。ほろ酔い気分の妻を助手席に乗せ、「また、会おう」と友と約束を交わし、今日宿泊するホテルを目指す。友人宅から少し離れた小道の空いたスペースに車を停め、ナビにホテルの場所を登録する。

 それから数10メートル先の広い国道に出るまで、ゆっくりと車を進める。対向車の大きなバンが来ていた。ナビを見ると、逆方向を示している。

 「あっ」

 「どうしたの」

 自分の間違えに気づく少し余裕のないまま、対向車とすれ違った時に、軽いゴゴゴという音。右のサイドミラーが、対向車のボディをかすったようだ。

 「ちょっと」と妻。

 「あちゃー」と、私。

 私は車から降りて、対向車のもとへ。相手は若い夫婦でお子さんもいた。旦那さんはスマホのライト機能で、かすった部分の後方のボディを照らした。暗くて、よく見えない。キズ自体は浅そうだ。

 「だいぶ、真ん中、走っていましたよね」

 奥さんの冷たい声が響く。

 「私達は止まっていたのに」

 ぼそりと呟く。そこは承服しかねるところだった。動いていたような・・・。

事故経験がほとんどない私は、現状全く余裕がなかった。ただ、相手の車は停まってなかったような・・・も、この際どうだっていい。今、こうなってしまったことは、もう不可避なのだから。お互いが納得するしかない。

 一旦、車を近くの空き地に停めることにする。

 車に戻ると、

 「謝ってないよね」

私の妻も強い。

 「いや」

 「こういう時は謝っちゃいけないんだよ。お互い様なんだから」

 大きな白い車が通り過ぎた。私はそれを相手の車と思い、空き地とは別方向へと車を走らせようとした。

 「ちょっと」

 「なに」

 「どこ行ってるの?」

 「へっ、相手の車の後ろについているだけだよ」

 「もう!空き地って言っていたじゃない。車は似ているけど、違う車だよ」

 「ごめん」

 「もう、しっかりしてよ」

 自分自身がテンパってるなあと、はっきり認識できた瞬間だ。

 空き地に互いの車を停め、お互いの住所を交換。妻が、

 「レンタカーなので、しっかり保険もつけています」

 そうだ。こんな時の為にと、千円プラスして手厚い状態にしているんだった。

 結局、警察に来てもらって、事故処理をしてもらい、後は保険屋さん同士の話し合いにすることとなった。

 暗闇に二台の車のヘッドライトが光り、警察が来るのを待つ。一時間ぐらい互いに車に乗り込んだまま時間は過ぎる。とても長く感じる。

 夜の九時を回っていたのでレンタカー会社は閉まっていて、直接保険会社へ連絡。なかなかつながらず、ヤキモキする。スマホの電源が切れるのを心配しながら、かけっぱなしで電話がつながるのを待った。ようやく繋がり、事の経緯を話すと事後処理が終わってから、また連絡してくれとのことだった。

 こちらは旅先のこと、あちらは日常での出来事かと、ふと思った。そう考えるとなんだか申し訳ない。空を見上げれば満点の星空、私は思わずため息をついた。

 やがてパトカーが来て、互いから事故の状況を聴取する。免許書提示をし、旅行中であることを伝えた。それから接触時の状況を話す。相手側が停止して、離合したというのに対しては、実際はっきりと相手の車の動向を見ていないので、「分からない」と答えた。狭い道で離合していたら軽く接触した。それだけだ。

 警察の方は二人で来られていた。互いの言い分を聞いて、接触箇所を確認。こちらのサイドミラーには、ほとんどキズはなかった。でも、音がして当たったのは紛れもない事実だ。が、それが少し自分の気持ちを緩和させてくれた。

 警察の方々は慣れたもので淡々と作業をこなし、早々に「あとは互いの保険会社で話してください」と告げた。これで事故処理は終わり。

 私達は相手側に軽く会釈し車を出発させた。心がまだ落ち着いてないのか、カーブで大きくふくらむ。

 「ちょっと、しっかりしてよ」

 「うん、大丈夫」

 それから大きな道に出て、信号待ちをしていたら、背後からサイレンが、何事かと二人ふりかえったら、真後ろにパトカーが、今の今である。心が早鐘を打つ。

「そこの車停まりなさい」

拡声器から声がする。

 「なんか、したっけ」

 「なにもしてないよ」

 (ひょっとしたら)

 すっと私は冷静になった。すぐ路肩に車を停車させると、

 「ちょっと行ってくる」

 「大丈夫?」

 妻の不安そうな顔。心配かけちゃってるな。

 「うん」

 私は車から降りると、パトカーの元へ向かった。やっぱりさっきの警官だった。

 「なんでしょうか」

 「○○さん、さっき運転フラフラしていたでしょう。念の為、アルコール検査してもらえます?」

 「はい」

 私は、検査機に息を吹きかけた。しばらくして、

 「あっ、大丈夫ですね」

 警官の気の抜けた声。明らかに当てが外れたかのようだった。 

 「なんかフラフラしてるようだったから」

 「動揺していたからですよ」

 「そうですか、少し休まれてから車を運転されてください。では」

 パトカーはそそくさと走っていった。

 身体中からどっと疲れがあふれだした。と同時に疑われていたんだという憤りと虚しさを感じた。よろよろと、運転席に戻り妻に、

 「飲酒の検査だったよ」

 「あー良かった。でも、あの感じじゃ間違えられてもしょうがないよね」

 「なんと」

 「だって、挙動不審で、おまけにさっきも運転危なかったでしょ」

 「・・・・・・」

 「あー怒った」

 「・・・でも、事実よ」

 「・・・・・・」

 「でも、良かったね。大きな事故じゃなくて」

 それは私も思った。それが何よりだと。

 満点の星空、のろのろ運転の車が一台。ホテルに向かっている。後悔と保険屋に連絡することで、幾分ブルーになっている私に、妻が、

 「いいじゃん、明日もあるさ」と笑った。


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