なぜ高齢者は異世界転生しないのか?(その三)
「サキちゃん、こうは考えられないかな?」
僕は頭の中で屁理屈をこねくり回し、幾つかの仮説をでっち上げた。
「転生者とは、言わば転生先の世界に変化をもたらす存在だよね?」
「そうですね。変化というか、変革というか……。そういう目的で転生してもらうことは、たしかに多いです」
「でもさ、お年寄りって、どちらかと言えば頑固で保守的な人が多いよね? そんな高齢者に変革をもたらすことができるのかな?」
つまり、固定観念に凝り固まって融通の利かない高齢者を異世界に送るよりも、柔軟な発想のできる若者を異世界に送る方が、転生の目的を達成しやすいんだよ! どーん!
わ、私、気が付きませんでした! 先輩、さすがです! 好きっ!
――――とは、ならなかった。
「でも、転生するのは異世界ですよ? いくら高齢者が保守的だとしても、歴史も、文化も、何もかもが違う異世界では守るものが最初から無いじゃないですか」
「それもそうだ」
説得するどころか、あっさりと論破されてしまった。
だが、安心するのはまだ早い。
僕がこねくり回した屁理屈は一つや二つではない。
一の太刀を防がれても、まだ二の太刀、三の太刀があるのだ。
「でもさ、何かを変えよう、何かを成し遂げようとする原動力は、人間の欲望だよね? その点、若者に比べると、高齢者は精神的に成熟している分、枯れているというか、精力的な活動ができないんじゃないかな?」
「先輩、それは思い込みです。高齢になっても、お金や、健康や、人間関係に異常な執着を見せるお年寄りは沢山いますよ」
「そうなの?」
「歳を取るにつれて、だんだん自分にできることが減っていくから、その反動で、今、自分の手元にあるものを必死で守ろうとするんです。認知症の初期症状らしいですよ」
「へ、へぇ……。詳しいんだね」
二の太刀が、ひらりとかわされた。
「で、でもさ、高齢者って百年近い人生を歩んできたわけだよね? 長い時間をかけてやっとゴールした人に「もう一度、最初から」って言うのは、ちょっと酷じゃないかな?」
「それは、その人によるんじゃないでしょうか? たしかに、嫌がる人もいるかもしれませんけど、喜ぶ人もいると思いますよ? 何かそういう統計があるんですか?」
「いや、無いけどね」
三の太刀も、ぬるりと避けられた。
(駄目だ、強すぎる!)
というか、屁理屈が弱すぎる。
所詮は短時間でこねくり回しただけの、裏付けの無い付け焼き刃ということか。
僕は削られた精神力を回復させるため、フライドポテトをやけくそ気味に口に放り込んだ。
(そもそも、この状況が不公平なんだよなぁ)
僕は当日までテーマを知らされず、ぶっつけ本番で事に当たっているのに対して、後輩は疑問を抱いたその瞬間からコツコツと理論武装を積み重ねているのだから。
(というか、誰のためにこんな苦労をしていると思っているのか)
このまま放っておいたら、不利益を受けるのは後輩の方なのに。
僕は、対面の席で呑気にポテトを食べている後輩を、恨みがましい視線で一瞥した。
(かわいい)
プライベートでも相変わらず髪をお団子にしているのが可愛い。
パーカーにハーフパンツという、あまり気合の入っていない服装が逆に可愛い。
ポテトを一本ずつ口に運んでモグモグと咀嚼している仕草が可愛い。
しかも、パーカーの隙間から鎖骨が見えている。
くっそ、エロすぎるだろ、こいつ。
こんなにもエロ可愛い後輩を、僕は失うわけにはいかない。
こうなったら、最後の手段だ。
「あ、ごめん。職場の上司から電話がかかってきちゃったから、少しだけ席を外すね?」
僕はマナーモードにしてある携帯電話に着信があったふりをして、席を立った。
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