なぜ高齢者は異世界転生しないのか?(その二)
「転生させる人選に問題があると思うんです」
「え? また?」
後輩の口から出たデジャヴのようなセリフに、僕はまたもや間の抜けた声を出してしまった。
その問題は、前回、解決したはずではなかっただろうか?
まさか、一周回って疑問が原点回帰してしまったというのか? 周期、早くない?
「ど、どういうこと?」
「私、職場では、上から送られてきた候補者リストに基づいて、誰を転生させるのかを決めているんですけど」
「うん。前回、そんなことを言っていたね」
「候補者リストに若者が多すぎるような気がするんです」
「うーん?」
どういうことだろう? 今回は質問の意図が読めない。
「私たちは候補者を転生させる際、奇跡の力で事件や事故を起こして、候補者を死亡させますよね?」
「うん。転生するには、一度、死亡してもらう必要があるからね」
「それならば、十代や二十代の若者ではなく、老衰で天寿をまっとうしかけているお年寄りに転生してもらう方が合理的だとは思いませんか?」
おおう、なるほど。
今回もなかなか鋭いところに切り込んできたものだ。
「たしかに死因が寿命で片付くのなら、僕たちも奇跡を使わなくていいから楽だね」
「はい。それに、高齢になっても社会に貢献しているお年寄りなんて殆どいませんし、残りの人生でできることも殆ど無いのですから、さっさと転生してもらった方が、家族の負担も、社会の負担も減ると思うんです」
「とても合理的な考え方だね」
お、恐ろしい……。
ロジックに人の心が無さすぎて、戦慄を抑えられない。
「それに、人生経験豊富な高齢者を転生させた方が、人生経験皆無のゴミ屑ニートを転生させるよりもマシだと思いませんか?」
「その憎しみはどこから湧いてくるの?」
ここまで全方位に噛みつきまくる狂犬のごとき喧嘩外交は、なかなかお目にかかれない。
そして、そんな狂犬に味方認定されてしまっている自分が不憫でならない。
(この局面……いったいどうやって乗り切ればいいんだ?)
ここで、本当のことを言ってしまうのは簡単だ。
高齢者が異世界転生の候補者にリストアップされない理由――――それは、高齢者になると自動的に輪廻転生の予約が入ってしまうからだ。
転生には、大きく分けて異世界転生と輪廻転生の二種類があり、それぞれ担当する部署が異なる。
そして、輪廻転生を担当する部署は異世界転生をイロモノだと見下しており、異世界転生を担当する部署は輪廻転生を時代錯誤だと馬鹿にしている。
よって、相互に情報交換や候補者の調整をすることは殆ど無い。
大型組織にありがちな、縦割り構造の弊害だといえるだろう。
(でも、そんなことを言ったら、サキちゃんは世界管理機構の在り方に疑問を抱いてしまう。ただでさえ前途多難な新人の未来を、より絶望的な方向に導くことになってしまう……)
後輩が自分一人で歩いて、自分一人で崖から落ちる分にはどうでもいい。
でも、僕はもう後輩の中でナビゲーター的なポジションにおさまっているのだ。
さすがの僕も、自殺のナビゲートはできない。
ここは後輩の思考をうまく誘導して、その鋭い牙が世界管理機構に向くことがないように、導いてあげるべきだろう。それがお目付け役の本懐というものだ。
まったく、面倒なことに巻き込まれてしまった。
もしかすると、上司はこうなることを予想していたのかもしれない。
(性格は悪いけど、頭は良い人だからな……)
こうして、誰にも語られることのない僕の戦いが始まったのだ。
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