私を倒しに来た勇者が色々と拗らせていた件について。
なんとなーく書いてみました。
ちょっとR-15な感じなので、苦手な人は逃げて下さい‼︎
私、チェルシーはある日、ケモミミちびっ子を救った。
いや、どう状況?って聞かれたら、なんか魔物が生息する森でちびっ子が魔物に襲われてたんだよ。
普通なら、最低でも大人五人パーティーで来るような場所でだよ?
それなのに五歳ぐらいのちびっ子一人で、しかも襲われてるのに遭遇したら助けるに決まってるじゃないか。
「ちびっ子、大丈夫?」
魔物を斬り捨てて、私は振り返る。
泥で汚れたダークブルーの髪に金色の瞳、薄汚れた小麦色の肌。
幼い顔立ちは可愛らしい。
そして……その耳と臀部には髪の色と同じケモミミとシッポ。
獣人、と呼ばれる種族がそこにいた。
「……………」
「おーい、喋れないのかーい?」
ぽかんっとする顔は可愛いらしいけど、怪我をしてたら困るからね。
私が何度か、ちびっ子に声をかけたらやーっとちびっ子はハッとして、私を見上げた。
「…………女神、様?」
「女神ぃ?」
「だって、きらきら……」
そう言われて、私は自分の髪を触る。
私の容姿は、無駄に色白な肌に銀色の長髪、瞳は鮮やかな空色。
服は白と淡い緑を基調としている。
………まぁ、何も知らない子なら勘違いするのかな?
「ごめんよ。私は女神じゃないんだ。ハイエルフ、または魔王様だよ」
「……………え?」
ちびっ子はキョトンとする。
そして……大きく目を見開いた。
「マオー、様?」
「おや?聞いてなかったのかい?この森は魔王が住む森だって」
そうここは魔王が住む森。
私の、森だ。
「さて。ちびっ子。どっから来たんだい。優しい魔王様が送って行ってやろう」
「……………あ……」
「ん?」
私が送ると言った瞬間、ちびっ子の顔色が凄まじく悪くなる。
ガクガクと震えて、顔面蒼白だ。
ありゃ……こりゃ訳ありかな?
「どーしたんだい?」
「……うっ……うぅぅっ………」
「ありゃりゃ」
ボロボロと号泣し始めたら、もう何も言えないよねぇ。
「ほら、大丈夫だよ」
小さな身体を抱き締めてやれば、堰を切ったようにちびっ子はギャン泣きし始める。
私はそのまま、ちびっ子を抱き締め続けた……。
*****
「マオー様‼︎」
「おぉう」
ドスンッ‼︎と勢いよく私の腰に突撃してくるモノ。
私は、あのケモミミちびっ子……ヴェンの頭を撫でた。
「危ないだろう?怪我してしまうよ」
「ごめんなさーい‼︎」
ケラケラと楽しそうに笑うヴェンは、私の腰にスリスリと頭を擦り寄せてくる。
ちょっと懐き過ぎちゃったかね?
私はあの日、ヴェンを私が住む家に連れて帰った。
まぁ、泣き疲れて寝ちゃったんだから仕方ないよね。
で、ドロドロのままでもいけないからお風呂に入れたんだけど……驚いたよ。
女の子だと思ってたら男の子だったんだもん。
まぁ、相手は所詮五歳児だから何かある訳じゃないけどねぇ。
魔物達は魔王ではない存在……ヴェンを殺そうとしてくるんだけど、結界内には入ってこられないから大丈夫かな。
「マオー様ぁ?」
ヴェンがボーッとしていた私を心配したのか、不安げな顔で見つめてくる。
私は再びヴェンの頭を撫でた。
「チェルシーだよ。魔王様って言われるのはあんまり好きじゃないんだ」
「ちぇる?」
「チェルシーね」
「うー?」
ヴェンはまだ幼いからか舌が回らないらしいね。
それはそれで可愛いんだけどねぇ……。
「ちぇるー‼︎好きぃー‼︎」
「はぅ‼︎」
きらきらした笑顔でそう言ってくるヴェンはとっても可愛い。
きゅんとしちゃうよ‼︎
「ずっといっしょー‼︎」
「………………」
でも、その言葉で私は現実に帰る。
まぁ、ね。
今は、ヴェンを保護してるに過ぎないんだ。
だって私は魔王。
いつか勇者に倒される存在なんだから。
だから……ずっと一緒にはいられない。
「ヴェン」
「う?」
「ごめんね」
君の願いは叶えられない。
*****
………最初は数ヶ月のつもりだったんだけどね。
気づいたら二年も経ってしまったよ。
命を救ったからなのか、ヴェンは私を無条件で慕ってくれた。
ずっと、甘えてくれた。
私は魔王。
ずっと、ずっと……独りだった。
だから、私は孤独だったんだろうね。
ヴェンが甘えてくれることは、私が独りじゃないと実感できた。
それが心地よかった。
でも、もう限界かな。
「どうしたの?チェルシー?」
「………ヴェン…」
一人、考え事をしたくて外に出ていた私の肩に優しく毛布がかけられる。
ヴェンは後ろからぎゅうっと私を抱き締めた。
「夜はまだ寒いんだから……風邪引くよ」
「魔王様が風邪なんて引く訳ないだろう?」
「それでも、ボクが心配なの」
成長したヴェンは、少しだけ男の子っぽくなった。
獣人だからか力持ちだし。
私が教えたから、剣術だって魔術だって使える。
この子は才能があったんだろうね。
たった二年で私が教えたことを全て覚えてしまった。
だから……もう、この子は私の元以外でも生きていけるはず。
「もう、ここまでだね」
「…………何が?」
「もうそろそろ、ヴェンもここから出て行かなきゃねぇ」
「…………え?」
ヴェンの顔から表情が抜け落ちる。
そんな顔をさせたかった訳じゃないんだけどね。
ごめんよ、ヴェン。
「な、んで?チェルシー……?ボク、何かした?」
「違うよ。予想よりも長引いちゃっただけなんだ。本当は数ヶ月で終わらせるつもりだった。それがズルズルとここまできてしまっただけなんだよ」
泣きそうな顔をさせてしまってごめんよ。
許してくれなくていい。
狡い私を、許さないでおくれ。
「私は魔王。世界に仇なす者だ。気紛れで君を育てたけど……私は君の敵だよ」
転移の魔術を発動して、ヴェンを包み込む。
ヴェンが何かを叫ぶけど、私は聞こえないフリをした。
「バイバイ、ヴェン。大好きだったよ」
「ーーーっ‼︎ーーーーーっ‼︎」
光が満ちてヴェンが消える。
私は、自分の頬に伝うモノに気づかないフリをした。
*****
また独りになって十年。
どうやら、ヴェンといた日々が暖か過ぎて……私は弱くなってしまったみたいだ。
簡単に、穢れてしまった。
この世界では、七つの大陸ごとに七人の魔王がいる
………〝魔王〟という存在は、簡単に言えば濾過装置のようなモノなんだ。
大陸に住む者達の負の感情が大地に張り巡らされた魔脈(分かりやすく言えば、血管のようなもの。血液の代わりに魔力が流れている)に乗り、大陸の中央……つまり魔王が住む領地、魔王に集まる。
そして魔王がその負に満ちた魔力を濾過して、綺麗な魔力が大地に還る。
でもね。
濾過装置だって壊れることがあるんだ。
分からない程度だけど、魔力を濾過するたびに少しずつ…少しずつ、その負のエネルギーがこびり付く。
それが〝穢れ堕ち〟。
穢れ堕ちした存在を倒すことでも、綺麗な魔力は大地に還る。
一応、魔王の眷属……魔族も同じように魔王の補助役ではあるんだけど私は独りでやっていた。
だって、いつか倒されなきゃいけない役目に道連れにするなんてできる訳ないじゃないか。
魔族ではないけれど……魔物も穢れ堕ちした存在だし。
仕組みはよく分からないけど、どうやら負の魔力が集まってしまったらしく……それを倒せば綺麗になった魔力が大地に還るんだ。
なら、私は魔族を作らずにただ独りの魔王と……支配下にないけれど似たような存在である魔物だけで、この役目を終わらせようとしたんだ。
そして今日ー。
穢れ堕ちしかけている私は、目の前にいる勇者パーティーに……白銀の鎧を纏った勇者君に微笑みかける。
「やぁ、待ってたよ。早く私を殺しておくれ」
両手を広げて微笑みかければ、勇者君の後ろにいた少女達がそれぞれの武器を構える。
でも、それを勇者君が制してしまった。
「………私が完全に穢れ堕ちするまで待つつもりかい?そうしたら見境なく暴れてしまうよ。早く終わらせた方がいい」
穢れ堕ちすると理性というモノがなくなってしまう。
だから、完全な穢れ堕ち状態ではないから還元魔力量が若干少ないけれど……今の内に殺した方がいいのに。
「ボクがチェルシーを殺すと思うの?」
「……………ぇ…」
驚いて勇者君を見つめる。
パーティーの女の子達だって驚いた顔だ。
一体……。
「よくも、十年前……勝手に転移してくれたね?」
「えっ」
「許さないよ?チェルシー」
そう言った勇者君の頭には、いつの間にかケモミミが現れていて。
臀部にはシッポさえある。
というか……ダークブルーの髪に獲物を捕らえたような金色の瞳……。
「………………」
逃げよう。
本能的にそう思った。
「逃すと思ってるのかなぁ?」
「ふぎゃんっ⁉︎」
回れ右して走り出そうとした私は、自身の足に巻きついた鎖に気づかず顔面から倒れ込む。
慌てて勇者君が私を抱き上げた。
「あぁ、ごめんね?転ばす気はなかったんだよ」
「いや、あの、ちょっと……」
「あははっ……チェルシーの匂いだ……」
首筋に鼻を埋められて、私は完全に思考停止に陥る。
いや、だってだよ?
こんなに大きくなって会いに来るとは思わなかったし。
無駄に男らしい匂いがするし、身体だってしっかりしてて簡単に私を抱き締めてしまえるし……。
だって、だって……。
「勇者様っ⁉︎一体何をっ……‼︎」
ナイスバディな神官服を着た金髪少女が、私達を見て叫ぶ。
ごめん、それはどちらかと言えば私の台詞だよ。
「最初に言ったでしょ?ボクは魔王を倒しに来たんじゃなくて犯しに来たんだって」
「それは領土を奪いに来たということじゃないんですか⁉︎」
「あははっ、そう解釈してたの?違うよ。ボクがここに来たのはチェルシーにボクの子供を産ませるためだもん」
『っ⁉︎』
とろりっと蕩けた笑顔でそう言う勇者君。
という、彼がそんなつもりでここに来たなんて思ってもみなかったから思わず目眩がした。
あの無邪気なヴェンが、どうしてこんな本能的な感じになっちゃってるのかなぁっ⁉︎
「…………あの……ヴェン……?」
「やぁっと、ボクの名前を呼んでくれたね」
「いやいやいや、君、勇者でしょ?私を倒すんだろう?」
「あははっ。気づいたら勇者に仕立て上げられてたんだ……ボクはチェルシーに会いに来ることしか考えてなかったからどう言われようと、どうでも良かったし。後、さっきも言ったけど倒す気はないよ?ボクの奥さんになってもらうんだもん」
熱を帯びた瞳は、とても獰猛で。
もう彼の腕に捕まえられた今、逃げられそうにもないと身体が、本能が理解する。
でもっ‼︎
「いやいやいやっ‼︎私は魔王だから‼︎倒されないと暴れちゃうから‼︎早く倒しなさい‼︎」
「嫌」
「嫌じゃないよ‼︎勇者が我儘言わないの‼︎」
「嫌だもん。チェルシーには苦い思いさせられたから言うこと聞かないもん」
「ヴェン‼︎」
むぎゅむぎゅと私から離れないヴェン。
後ろにいる女の子達は、やっとハッとしてギロリッと私を睨んできた。
「あんなヴェン様見たことないわ‼︎つまり、洗脳されている可能性がある‼︎」
「何っ⁉︎ならば我々が助けなくては‼︎」
「待ってて下さいませ、勇者様‼︎」
「直ぐに助けるよ、おにぃちゃん‼︎」
神官っぽい少女と、騎士のような女性、魔女っ子な女の子と軽装な幼女……随分と女の子率が高いパーティーが私を滅しようと動き始める。
そうそう、これが普通なんだよ。
私はヴェンから離れて素直に倒されようとしたら……。
「邪魔するなよ、殺すぞ」
ヒョェ。
魔王よりも魔王らしい声音で、ヴェンが彼女達を牽制してしまった。
女の子達もこんなヴェンを初めて見たのか、顔面蒼白でぶるぶる震えだす。
私も、魔王なのに背筋がひやっとしたよ。
「………あー…ごめんね、チェルシー。恐がらせる気はなかったのに」
ヴェンは私の頬に優しくキスをして、懐から光り輝く魔鉱石のネックレスを取り出す。
…………え?何その凄い力が満ち満ちた魔鉱石は。
「これね。第II大陸のとある国の王子と婚約者の公爵令嬢が作った魔王と魔族用の浄化装置なんだって」
「………………は?」
「どういう仕組みだったか忘れたけど……普通の魔力を込めれば、半永久的に神聖属性の浄化が発動し続けるんだってさ。凄いよね」
いや、それ、凄いどころの騒ぎじゃないよ?
穢れ堕ちの対処として、倒す以外に唯一有効なのが聖女が使うとされる神聖属性の浄化魔法。
倒さずに穢れのみを消すから、浄化魔法をかけられた魔王は再び穢れ堕ちするまでの長い間、濾過装置として機能し続けることができるんだ。
それを普通の魔力から神聖属性に変換して発動させるって……世界を揺るがすレベルなんだけど?
「という訳で、はい」
「えぇっ⁉︎」
ヴェンは私の首にそのネックレスをつける。
それと同時に直ぐに浄化魔法が発動して……私にこびり付いていた穢れが浄化されてしまった。
いや……まさか……。
「魔王であるのには変わりないけど、これで穢れに悩むことはなくなったね。じゃあ、行こうか?」
「うわっ⁉︎」
ヴェンは私をお姫様抱っこして、スタスタと歩き出す。
というか、待ってくれ‼︎
「どこに行くつもりなんだいっ⁉︎」
「ベッド」
「うわぁっ⁉︎ヤル気満々⁉︎」
「あははっ、勿論だよ。十年分……いや、十二年分か。俺の想い、受け取ってね?だいぶ、拗らせてるからさぁ……」
舌舐めずりをするヴェンからは大人の色気なるものが溢れていて。
いや、だからちょっと待ってくれ。
男性免疫がない私には少しばかりハードルが高過ぎる。
「ほら、あの女の子達は⁉︎君のパーティーだろっ⁉︎」
「あぁ……あの役立たず達?どうでもいいよ。今まで邪魔しかしてこなかったし」
「「「「なぁっ⁉︎」」」」
女の子達は絶句してその場で固まる。
あの様子から見るに……全員がヴェンを好きと見たよ。
「でもずっと一緒に旅して来たんだろう?少しぐらい優しく……」
「………………チェルシー?」
にっこり。
「………………」
………どうしよう。
ヴェンが笑ってるのに笑ってないよ。
優しい笑顔を浮かべてるのにその瞳が凄まじく冷たいよ……。
「好きな女から他の女のことを気にしろって言われたら……流石にキレるよ?」
「………………」
「あはは……馬鹿なチェルシー。素直にボクに愛されてれば良かったのに………」
どうしよう。
魔王よりも魔王な勇者がいる。
「ボクがチェルシーのことをどれだけ好きか、思い知らせてあげるね?」
連れて行かれたベッドの上。
何が起きたって聞かれたら、一ヶ月はベッドの住人になったとだけ言っておこう。
こうして、《第Ⅳの魔王》チェルシーは……拗らせまくった昔命を救ったちびっ子で、獣っ子で、勇者な伴侶ができましたとさ。
後で勇者サイドも書きます‼︎