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第3話「慟哭」

 しかし……

 謎の男は、逃げ出したゴブリンに対し、全く容赦しなかった。


「ふん!」


 ほんの少しだけ気合を入れて、男が声を発すると……

 ゴブリン共の行く手に、強固な岩の壁が3mくらいせり上がったのだ。

 

 しかし岩の壁があるのは、ゴブリン達の逃げる方向だけではなかった。


 何と!

 背後からも、同じような岩の壁が動き、ゴブリン達へ迫っていた。

 やがて、岩の壁同士がどんどん近付き……ぴったりと合わさった。

 

 ぎぃやあああっ!!!

 ぶしゃああっつ!!!

 

 岩と岩が合わさった瞬間、断末魔の叫びと、水気の多い野菜をたくさん握り潰したような音がした。


 謎の男が、最後に使ったのは……地の魔法だった。


 大混乱と底知れぬ恐怖の中で……

 逃げようとしたゴブリン共は、強固な岩の壁に挟まれ、無残にも圧死させられたのである。


「す、凄い……」


 自分を襲おうとしたゴブリン達が、あっという間に全滅させられたのを見て……

 ツェツィリアは、呆然としていた。


 男が使ったのが……

 魔法である事だけは、幼いツェツィリアにも分かった。

 

 何故ならば、以前に母から教えて貰ったから…… 

 自分をこのように「捨てた」から、もう母とは呼べなくなってしまったが……


 中級魔法使いであった『かつての母』は、ツェツィリアへ素養があると言って、簡単な魔法の手ほどきをしてくれたのだ。


 そんな母が、魔法発動の手本を見せる時は、決まって精神の集中、魔力の高揚、難解な言霊、そして長い詠唱が付きものであった。


 だが目の前の男は、そんな手順など全く踏まず、いとも簡単に魔法を使っていた。

 詠唱は勿論、魔力を高める予備動作さえなしに……


 そして幼いツェツィリアは知る由もなかったが……

 男は何と!

 水、火、風、地、全属性の魔法を使っていたのだ。

 通常、魔法使いの属性は、いずれかひとつのみだというのに。

 ちなみにツェツィリアの母は、水の属性を持つ魔法使いである。


 閑話休題。


 恐るべき謎の男は、空中に浮いたまま……

 暫し、ゴブリン共の無残な死骸を眺めていた。


「ふむ……準備運動にもならぬ」


 小さなため息をついた男は、パッと身を翻すと、呆然としたままのツェツィリアの前に降り立った。

 ゆっくりと腕組みをする。


「ひ!」


 ツェツィリアは思わず悲鳴をあげた。


 圧倒的な力を持つ謎の男……

 ゴブリンに喰い殺される、絶体絶命の危機を助けてはくれたが……

 かといって、ツェツィリアの味方とは限らない。


 幼いツェツィリアには……

 男に対し、助けてくれたという淡い期待と、本能的な不安と恐怖が混在していた。


「あ!」


 男を改めて見て、次にツェツィリアのあげた声は、驚きだった。

 何故ならば、謎の男はとても美しい顔立ちをしていたからだ。


 色白の肌。

 小さい顔。

 肩まで伸びた、さらさらの美しい金髪。

 

 「ぴしっ!」と鼻筋が通った端正な顔立ち。

 切れ長の目には感情が見えない。

 碧い瞳がツェツィリアを、まるで『もの』でも見るように捉えていた。


 男は淡々と言う。

 何の感情も込めずに。


「小娘……二度は助けぬ。もし生きたいのなら……死ぬのが嫌ならば、力をつける事だ」


「力?」


「幸い、お前には素質がある」


「そしつ?」


「ああ、魔法使いの素質だ……結構なものがな。更にお前が人の心を失くし、覚醒すれば特別な強者となれる」


「かくせい?」


「うむ……何故、お前がこの森へ捨てられたのか……分かるか?」


「…………」


 ツェツィリアは……男の問いに答えなかった。

 否、両親の言動を見て、薄々感じてはいたが、答えたくなかったのだ。


 しかし男は、ツェツィリアが答えるまでもなく……

 容赦ない、非情な現実を告げて行ったのである。


「小娘……人から生まれたお前は、人にあって、人に非ず……」


「…………」


「お前は夢魔……魔力を喰らう人外、夢魔モーラなのだ」


「え? う、うそ……」


 自分は人間ではない……

 夢魔……モーラ。

 父親が「化け物!」と叫んだ言葉がリフレインする……


 ツェツィリアは首を振った。

 そんな現実、認めたくない。

 夢よ、醒めろ!

 そう念じてしまう。


 しかし男はきっぱりと言い放つ。

 まるで、ツェツィリアの辛い心を見透かしたように……


「否定しても、忘れようとしても……無駄だ。……お前が夢魔なのは、嘘でも夢でもない現実なのだ……」


「…………」


「受け入れろ……お前の両親はお前を捨てた。恐るべき人外である事が分かり、血の絆をあっさり断ち切った」


「あう、あううううううう~~………あああ~~」


 ツェツィリアの慟哭が森に響く。

 彼女は途中から、男の言葉を聞いてはいなかった。


 幼いツェツィリアは、全く予想もしていなかった……

 自分に突如降りかかった、過酷な運命が悲しい……


 幸せに暮らしていた家へは……

 二度と戻れない事を知り、ただただ泣くしかなかったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます!

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