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本当の王子様  作者: 宗像 来栖
3/3

背後の影

 この前の体育の時間、隣のクラスに王子がいると知ってから、よくよく日常的に気にしてみれば彼が結構目につくことが判明した。


 今だって・・・


「う、うぉおおお!」

「奥原ぁああああ!!」


「・・・・・・・・・」


 魔法動物学の授業中。

 貴重な飼育園を使うこともあってか、動物学の授業はクラス合同で行う。


 わたしは一組。王子は二組。

 つまり一緒だ。


 その授業中に、彼はまたしても問題を起こしていた。


「奥原くん? 君は私の話を聞いていなかったのかな?」

「ず、ずみまぜん・・・」

「はぁ・・・ とりあえず怪我はないかい? まだ幼獣とはいえ少しずつ牙が生え始めている時期だからね」


 心配したように王子の手を取る先生。


 その瞬間、周りの女子生徒から黄色い悲鳴が上がった。


「きゃああッ! なんて優しいの!」

「奥原くん羨ましいッ!」

「ていうか! 美形の王子と先生が同時に視界に入るとかヤバいんですけどッ!」

「私めまいがしてきちゃったぁっ!!」


 ポッと頬を赤く染めた女子がうっとりと二人を見つめている。

 男子数名も感心したように王子と先生に視線を送っていた。


 うん。もうなんとなくわかるだろう。

 この魔法動物学の先生・・・かなりの美形なのだ。


 りっちゃんに聞いた話だと性格もかなりの紳士で、女子生徒どころか女教師の間でもかなりの人気を誇るらしい。

 まぁ毎度のことながら、わたしはまったく興味ないのだが・・・


 そんなこんなで今現在、飼育園は一部の生徒にとってはパラダイスと化しているのだが、そんなことより奥原くんを心配すべきではないのか?


「うん、幸い大きな怪我はないみたいだね」

「はいー 大丈夫です!」

「まったく・・・ 次からは気を付けるように!」

「はーい」


 どうやら大事には至らなかったらしい。


 一応説明しておくが、奥原くんは幼い魔獣に噛まれたのである。


 性格は穏やかだが牙が鋭く怪我をする恐れがあるため幼獣と言えど檻越しに観察していたのだが・・・

 奥原くんはその檻に指を突っ込んだのである。しかも、先生が注意したほんの5秒後に・・・


 案の定、好奇心旺盛な魔獣の子はそれを遠慮もなくパクリッとしたのだが、幸いにも彼の指に牙が刺さることはなかったらしい。


 というか、見てるこっちからしても幸いだ。

 血まみれの惨劇を目にしていたかもしれないと思うとぞっとする・・・

 下手したら吐いてたよ。冗談抜きで。


 そう考えたら無事でよかったな、奥原くん。そしてわたし!


「それじゃあ、授業を再開するよ」


 先生の一声でやっと再開された授業。


 わたしはちらっと腕時計へ視線を落とした。

 王子の騒動のおかげで授業も残り20分もない。

 今は6限目なので、この授業とHRが終わればもう放課後だ!


 今日はさっちーたちと駅前に新しくできたカフェへと行く予定だから今から楽しみなのである!


「(むっふふー! バイト代も入ったし、贅沢にパフェでも食べちゃおうかなー!)」


 なんて、まだ授業中なのにわたしは脳内でルンルンと盛り上がっていた。


 というのに・・・


「んぁああああ! くっそぉおお!!」


 時刻は変わって、今は楽しみにしていた放課後。


 わたしは念願の駅前のカフェへ・・・

 ではなく、総合準備室へと向かっていた。


 ええ、そう。まだ校内にいるんですよ。まだね!!!


 実は動物学の授業が終わった後・・・


「あ、そう言えば・・・ 今日の日直は誰かな?」


 なんて言葉を零した先生の一言にピタリッとわたしの足が止まった。

 はい。本日の日直はわたしです。


 というかなに!?このタイミングで呼ぶとか絶対何か頼まれごとでしょぉ!!

 絶対返事したくない!しらばっくれたい!!!


「あ、せんせー 一組の日直ならここにいますよー」


 って、ああああああッ!りっちゃん!!


「あぁ、よかった! 二組、は・・・ もう戻ってしまったか」


 まぁ仕方ないか・・

 なんて言いながらこちらへ寄って来た先生。

 正直めちゃくちゃ逃げたい。


「え、っと・・・ きみは一組の高宮さん、だったね?」

「は、はい」

「申し訳ないんだが、放課後少し仕事を頼めるかな?」

「えッ!?」


 放課後ォ!?!?


 ほらね!やっぱり仕事押し付けられたぁ!!

 と思ったけどまさかの放課後!?!?

 いやいやいや、勘弁してくださいよぉおお!!!


 なんて先生に向かって言えるわけもなく、私は渋々とその仕事を引き受けるのであった。


 そして今はその放課後である。


「えーっと・・・ 総合準備室にある資料集を動物学準備室に持って行けばいいんだよね?」


 一人ぶつぶつと言葉を漏らして廊下を歩く。


 総合準備室とは、その名の如く色々な教科の教材道具を保管している場所であり、そんなに頻繁に使うこともないため普通の教室からは少し離れた場所にある。


「たしかこっち? だっけ?」


 つまりはわたしも場所はうろ覚えだ。ははッ。


 でもまぁなんだかんだで目的地に着きそうだ。

 ・・・というか、放課後ということもあってか人の姿が全くない。先生すら見かけない。


 すこし怖いなぁ・・・


「あ、あったあった準備室~」


 無事に到着。

 さっさと資料を持って行こう。


「失礼しまーす」


 誰もいないだろうが一応声をかける。


 ガラララッ、と音を立てて開いた扉の先にはやはり人の影はなく・・・

 ただただ埃っぽい空気と、少しだけひんやりとした隙間風が流れ込んできた。


「うわぁ・・・ 少しカビ臭いなぁ・・・」


 鼻を刺激する不愉快なにおい。

 辺りを見渡してみても大体の教材には結構な量の埃が積もっていた。


「先生も生徒にこんな場所に行かせるとか酷なことするなぁ」


 鼻と口を手で覆いながら・・・ 愚痴を零しながら目当ての物を探す。


 たしか赤い背表紙の少し分厚い本って言ってたような・・・


「ん? あ! あったー!」


 適当に準備室内を歩き回って数分。

 少し立て付けの悪そうな本棚をちらりと覗くと、すぐに赤い背表紙が目についた。

 少し埃を払って名前を確認してみる。


 うん。やはりこれで間違えないようだ。


「ふぅー・・・ 意外と早く終わったなぁ」


 あ、と考え付き腕時計を確認する。

 時刻はHRが終わってから約30分後の時間を差していた。


 これなら、もしかしたら急げばカフェにいるさっちーたちと合流できるかもしれない!


「よしっ!」


 わたしは気合を入れ直すと急いで準備室を後にした。


 思いはただ一つ。

 カフェで美味しいものを食べるために!!


 わたしは勢いよく走り出した。


 そう・・・ 背後に忍び寄る、理不尽な影の陰謀に気付きもせず・・・ わたしはただただ走り出したのである・・・



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