第94話 カラスマのお礼
第94話 カラスマのお礼
疾風が取り戻せたのはベルン男爵家のみんなのおかげ。
……なんだが、ちょっと腑に落ちないのが俺がこの世界に召喚されたのってあいつらのせいなんだよな。
この世界に来なきゃ疾風も取り上げられることなんか無かったし。
いやいや、俺の作ったプラモが俺の思い通りに動く世界。
こんな夢みたいな異世界に俺を呼んでくれたのはやっぱり感謝していいだろう。
ということで、屋敷の全員に俺はちょっとしたお礼をすることにした。
俺のかなえられる範囲でプレゼントをしてやろうかな。
廊下でルナリアとすれ違ったので立ち話をする。
「ルナリア? なんか欲しいものはないか?」
「カラスマ様に愛していただきたいです!」
……重い。
真顔だし。
今日も俺のサマーセーター大事そうに着てるし。
「なんか肩たたき券くらいの感覚のもので頼む」
「はぐらかさないでください」
「じゃあ、いいやこの話、無かったことにしてくれ……」
「むぅ」
と、むくれた。
ちょっとズレてるが、かわいいなぁこの子。16歳にしては子供っぽいが。
「じゃあ……」
と、ルナリア。
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丘の上。
屋敷からちょっと離れた場所。
ここでルナリアと合流する。
「怖いぞ? 覚悟はいいんだな?」
「はい……、覚悟はしてきました」
「誰にも見つかってないな?」
「はい、メイド長やお姉さまやハウに見つかると、絶対に止められますから」
俺もそう思う。あいつらルナリアに対して過保護が過ぎる感じがする。
滅多にルナリアを屋敷の外には出さないし。ルナリア一人では出かけさせない。
「ズボンは履いてきたな?」
と、俺。全身ベルトのバトルスーツを着込んでいる。
「はい」
と、ルナリア。中世のズロース? 的なダボっとしたズボンをはいている。
日本を代表するファミリーアニメ映画のスタジオ。そのスタジオを代表する2人の監督のうち、ミリタリーと少女が好きな方の監督。
その監督の第2作目の映画にかっこいい空賊の婆さんが出てくるのだが、その婆さんがはいているズボンと言えば、わかるだろうか?
ん? 何か俺がルナリアによからぬことをしようとしてると思った?
残念でした。違います。
まぁこれからよからぬというか危険なことはするんだけどね。二人で。
俺はルナリアの体に命綱のワイヤーを巻きつける。
それを俺の体にも巻きつける。
「こいつを被ってくれ」
と、フルフェイスのバイクヘルメットをルナリアに渡す。異界堂で買ってきた。
「はい」
と、被るルナリア。
「じゃあ、いくぞ? 怖かったら降りるから言うんだぞ」
バイク用のゴーグルをつけ、俺はルナリアの肩を抱く。
「はい!」
がっしり俺にしがみついてくるルナリア。
おお柔らかい。
いや、いかんいかん。
では準備完了だ。
俺は疾風に背中のベルトを持たせた。
そのまま上昇する様に念じる。
疾風の推進装置が唸りを上げ、推力を生む下降気流が巻き起こる。
下生えの草が、風でなぎ倒される。
「疾風、発進!」
疾風にひっぱられ、俺たち二人の体がふわりと、浮き上がった。
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「うわぁ。うわぁ」
と、はしゃぐルナリア。
気持ちの良い晴れた空だった。
疾風にひっぱられ、頬に風を受けながら、俺たちはどんどん上空へと昇っていく。
「すごい! これが空なんですね! 屋敷の屋根があんなに小さいです!」
空が飛びたい。
それが、ルナリアのリクエストだった。
かわいい願いじゃないか。お安い御用だ。
「子供の頃から空を飛ぶのが夢だったんです!」
まだ子供だろお前。
「飛行魔法も勉強しようとしたことあるんですよ!」
ファンタジー異世界。なんでもあるなぁ。
上空に雲が見えた。
「あの雲わたがしみたいですね!」
とルナリア。当然のようにこの異世界、綿菓子があるんだな。
「子供の頃、雲って食べたらどんな味がするんだろうって思ってました」
「じゃあ今から食べてみるか?」
「ええっ?」
「いくぞ!」
上空の雲に向かって、疾風を加速させる。
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駄目駄目。
上空寒い。超寒い。空気も薄いし。
寒さでがくがく震える俺とルナリア。がっしり抱き合って必死に体温を維持しあう。
雲なんて霧の濃い奴なんだ。ガスみたいなもんだから食えるわけないし。
屋敷に戻って風呂に入ろう。
すぐ入ろう。
「帰るぞ!(がくがく)」
「はい(がくがく)」
高度を下げる。
すると眼下に、雲があった。
妙だな、こんな高度に雲ができるわけないんだが……。
雲に近づくと、なんだが急にぽかぽかしてきた。
雲の周囲の空気が暖められている気がする。
普通の雲じゃないなこれ。
「行ってみましょうカラスマさま!」
何か危険があったら、ルナリアを巻き込むことになる。
それは避けたいが。
疾風の下降気流が自然と雲を掻き分ける。
すると、雲の下に陸地が見えた。
おおよそ学校のグラウンドくらいの陸地。
それが、空に浮いている。
浮遊島ってやつか? さすが異世界。
陸地があるなら、疾風を戦わせられるな、ルナリアも守れる。……降りてみるか。
好奇心のほうが勝ってしまった。
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グラウンドの中心。
そこに、ぽつりと一軒屋が建っていた。
いわゆる中世ヨーロッパの木造立ての一軒や。
一階建て。
雨風に打たれてボロボロで、ドアもぎいぎい鳴っている。
人がいる気配はないな。
中に入る。
ほこりがすごい。
壁には海賊旗だろうか?
どくろマークの旗が飾られている。
そこには異世界語で何か落書きされているみたいだが。
「空賊リバ・ス・スラス。空を愛するバカ野郎に遺産を託す、と書いてありますね」
「空賊ねぇ。そのアジトってところかなここは」
部屋をよく見てみると、宝箱がたくさんあった。
残念ながら既に開封されたあと。空箱ばかりだが。
「先客が荒らしたあとみたいだな」
開いたままの宝箱には、中身が残っているものもあった。
ボウリングのピンに、わたがしメーカー、こっちはだるまか。
この世界には日本の物が転移してくるみたいだが、空賊はそれも収集してたみたいだな。
先客にこの辺には興味が湧かなかったのだろうか?
「宝物はもう無いんですね……」
「いや、そうでもないぞ」
俺はがらくたの山の一番下にあったその箱を手に取った。
それはプラモデルの箱だった。
日本で一番ビッグタイトルなロボットアニメ。その主役ロボットの1/144のプラモデル。静岡製だ。
「こいつは……とんだお宝だ」
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ベルン男爵家。
食堂。
ごうんごうんごうんごうん。
メイド長が綿菓子メーカーで綿菓子を作っている。
「最初の一口は美味しいけど、べとべとするし、飽きるのよねこれ」
と、ガーネット。
「(もぐもぐ)」
と、ひたすら食べるハウ。
「カラスマ様は召し上がらないんですか?」
と、ルナリア。
「俺はいいや、食欲無くて」
と、俺。
机の上。俺の目の前には1/144のロボットのプラモデルが、ビームライフルを構えたかっこいいポーズで飾ってある。
この異世界ではプラモが動く!
このロボットプラモシリーズを動かして戦う熱い少年漫画やアニメがある。
俺はまさにそれを再現できると思い、ウキウキしながらこいつを組み立てたんだが……。
駄目だ、これ、動かない。
どんだけ念じても、駄目だった。
そういえば、この世界で動くのは生物の形の像だけなんだっけな。
前に簡単な車を作って動かそうとしてみたんだが、動かなかった。
こいつは操縦する巨大ロボット。どっちかというと車とか飛行機とかに近いもの。生物じゃないって判定なのかこの異世界。
はー。
がっくし。
でも疾風のパーツを変形させた四式戦の飛行機は飛ぶのに、ガバガバじゃないかその辺?
まぁいいか。
俺には疾風がいるしな。
食堂の天井に浮かして、送風機代わりにしていた疾風を、俺は手のひらに呼び戻した。
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