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第67話 501号室の怪談

 目が覚めた。


 朝日がまぶしい。


 空気に消毒液が混ざっているような独特のにおいがする。


 心電図を映す装置。


 白い部屋。鉄パイプのベッド。


 ようやく目を覚ますことができたか。


 長い夢。大長編映画より長い夢を見たな。


 夢の中で何日か過ごしたような気がするが。


 まぁそんなこともあるだろう。


 俺はバッグの中にしまった疾風を見る。


 良かった……頭のパーツはついたままだ。


 おや?


 しかし妙だな。全部の間接パーツ、ジョイントパーツが硬くなってまるで動く気配がない。


 無理に動かすと折れてしまいそうだ。


 退院したら潤滑用のシリコンスプレーを買うか……。


 サイドスタンドに置いた鏡を見て驚く。


 なんか顔のあざが増えてるような気がするんだが。


 まるで誰かに殴られたりしたような。


 動物かなにかにひっかかれたような痕もある。


 そういえば夢の中で双子に顔面をボコボコにされたよな。


 腹がズキズキ痛い。


 見てみるとベルトのかたちにくっきり赤いあざができていた。 


 これは夢の中で疾風が俺の体を支えたり、受け止めるのにベルトを使って何度もひっぱったからか。


 ……寝ているうちに無意識にぶつけたりひっかいたりしたんだろう。

 ベルトの形のあざは……なんでだろう? ずっとパジャマを着ているんだけどな。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 その日の昼、巡回に来たお医者さんに妙な事を言われた。


「酒臭い……」


「はぁ……?」


「隠れて飲んでませんか? 病院を抜け出して買って飲まれたりしましたか?」


 身に覚えが無い。というか尿道カテーテルがつながった状態で歩くのも億劫だし。


「……そうですか……」


 お医者さんは怪訝な顔をして出て行った。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 その日は何度か昼寝をしたが、あの妙な夢を見ることは無かった。


 日中は起きている間は小説投稿サイトの異世界転生ファンタジー小説を読んで過ごした。


 その晩はぐっすりと眠った。


 夢を見たがおばあちゃんと動物園に遊びに行った夢。子供の頃の夢だった。


 翌朝。


 なんだか気落ちしている自分に気づく。


 あの夢を見なくなってなんだかさびしい気持ちになった。


 続きが気になる夢だったんだな。


 見たらもううんざりする気持ちもあるけれど、あの変な世界に行って知り合った登場人物達にまた会いたい気持ちもある。


 人間の気持ちっていうのは、ないものをねだるものなんだな。


 まぁ、そのうち見ることもあるだろうが、もう見ないかもしれないけれど。


 二度と見れないかもしれないと思うと、なんだかさびしい気分になった。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 ナースステーション。


「今晩の501号室の巡回。代わって貰えませんか?」


 新人の看護士が言う。


「いやよ、あなたの番でしょ……」


「でも、あそこの病室。なんだか気味が悪くて……」


 病院に心霊現象の話はつき物だが、今回ばかりは勝手が違っていた。


 先日入院した患者。


 その患者の体に夜な夜なひとりでにあざが増えるというのだ。


 その現場、その瞬間を目撃してしまった看護士は何人も居た。


 この怪奇現象は501号室の怪談として、この病院の七不思議を現在進行形で更新している。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 俺が次にあの世界の夢を見たのは、


 いや、俺が夢であの世界に行ったのは、数日後の話。


 尿道カテーテルが外れた頃だった。

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