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第6話 バトルアリーナ第3試合 日本最高峰の原型師

 第3試合。


『これより本日のチャンピオンの最終試合!』

 ジャッジが高らかに宣言する。


『同じ操作型のゴーレムマスター同士の戦い。よって、お互い使用する操作するゴウレムは3体まで投入可能とする変則ルールとします!』


 俺は疾風、ミセリコルデ、ちぃネットの全員を控えから呼び寄せた。

<三人一緒で戦えるのは嬉しいですね>

<まーたやっつけてやるなの!>

<私は今日初試合なので頑張るであります!>


 騎兵のちぃネットは騎士の鎧を身につけ、同じ比率の馬型のゴウレムユニットに乗っており、さっきもらったばかりのランスを装備している。小さな女騎士といういでたちだ。



『さぁチャンピオンに対するは謎のチャレンジャー! アサマッ!!』


 対戦相手の控室から、マントで体を覆い、フードを被った男が現れた。


 ……アサマ? 聞き覚えがある名前だった。


 そして、なんとも異様な相手だった。

 マントとフードで正体を隠しているのは、マスターと思われる男だけではなかった。


 奴が使役するであろう3体のゴウレム達も、同様にマントとフードでその正体を隠している。


 そして驚くべきは、そのゴウレム達の身長だ。疾風やコルデ、ちぃネットと同じくらいの大きさしかない。


 まさか……。


『オッズは1.2でカラスマ一強! さぁこのチャンピオンに対してチャレンジャーはどんな勝負を見せてくれるのか!?』


 戦いの始まりを告げる銅鑼が響いた。

『試合開始だーッ!』


 ちぃネットが飛びだした。


<サジタリアモード!>

 馬型ゴウレムユニット、ルビーアイ2の頭部が変形し、ちぃネットの下半身を馬の胴体内部に格納する。鎧が変化し、ちぃネットのシルエットが人馬形態、ケンタウロスの様な姿になった。

 背中には小さな羽根が生え、短時間なら飛ぶこともできる。


<この魔槍サンドワームのさびになるがいいであります!>


 その名前はやめなさい。


 ちぃネットは急加速すると、敵の小人ゴウレムの前衛一体に突撃を仕掛ける。


 敵のゴウレムはふわりと浮きあがると、マントから槍を出して構えた。


 あの武器の形状、見覚えがある。あれは……!


「戻れちぃネット!」


 強制的に動かそうとして余計に動きをにぶらせてしまった。


 敵の小人ゴウレムと、ちぃネットのケンタウロスが交差し、


<きゃあああああああああああああああああーッ!!>

 ちぃネットの体が切り裂かれた!


<<ちぃネット!>>


「きゃああああああああああああーッ」

 観覧席のルナリアの悲鳴が聞こえた。


 ちぃネットも一太刀、相手の小人ゴウレムに一撃加えていたらしく、小人ゴウレムを覆っていたマントがはじけ飛んでいた。


 俺はその見慣れたシルエットを見て絶句する。


 北欧神話の戦乙女バルキリーと天使を元にデザインされた、巨大な白い羽根を持つ美少女フィギュア。


「バルジェリン!?」


 バルジェリンとは、現世で美少女プラモに親しむ人間なら、大半のファンが知る名作フル可動フィギュアだった。

 では、それを操るゴーレムマスターとは……?


「貴方は……」


 相手はフードを跳ねあげた。


 見覚えのある顔が出てきた。


「浅間さん……」


「やぁ烏丸くん、びっくりした?」


<チェストバスター!>

 急回転し竜巻となった疾風が日本刀を構えてバルジェリンにつっこむ。

 だが、バルジェリンは戦乙女の槍を払ってそれをなんなくいなし、受け止めた。


 疾風とバルジェリンがつばぜり合いになっている。


<お父様、この子、私達に似ています!>


 そりゃデザイナーが一緒だからな。『島田ミカ』のデザイン。日本最高の美少女メカデザイナーがデザインしてる。


<カラスマパパ! あの子は一体誰なの?>

 大きな傷をつけられたちぃネットを、ホバー走行で駆け寄ったコルデが回収し、俺の元へ運んできた。

 ちぃネットの具合を確認する。よかった、これならまだ治せるはずだ。


「鎧袖戦女シリーズ001、天使型戦女バルジェリン……。お前たちの前に売りだされていた、可動フィギュア」

<なにそれなの?>


「今の日本の美少女プラモデルブームの基礎を作ったシリーズだ。……お前達は、あの子が居なけりゃ生まれなかったホビーなんだ」


<よくわかりません。ですが、この方は、私たちのお姉さまなんですか!?>


「疾風ちゃんかい? そういってくれると嬉しいよ。たとえ露払いの企画ではじまったとしても、今や君達は慶屋(ヨロコビヤ)さんの立派な大黒柱だ」



 露払いの企画。


 企画段階じゃ確かにそうだった……。



<お父様あの方は>


「浅間紀伊さん……。美少女可動プラモ開発の第一人者にして日本最高峰の原型師の1人……」


 バルジェリンが疾風をはじいた。


<うわあああーッ!>

 飛ばされた疾風が、俺の所まで後退する。



 浅間さんは、バルジェリンを自分の手元に呼び戻すと、指先に止まらせた。

 まるで指に止まった蝶々でも見るようにうっとりと眺める。


 そしてまるで指揮棒を操る指揮者のように、手をひらひらとさせると、バルジェリンを空中でダンスさせた。


 その優美さに、観客達の誰もが息を飲んだ。



「いいなコレ。あのシミュレーターの中で色々なプラモデルを対決させるあの漫画や、アニメにもなったプラモのレスラー同士が戦うあの漫画。少女漫画でもあったよね人形同士をバトルさせるやつ、後にアニメ化もされた。最近は強化ダンボールの中でプラモを戦わせるアニメとか、特殊な粒子の中でロボットプラモが戦うあのアニメとか」


 ふぅと目を落とす。


「ああいう世界がまさか異世界で魔法の力で実現するなんてね」


 ええ、わくわくします。正直。


「こうして君とは戦ってみたかったんだ烏丸くん。……ようやくその夢がかなうよ」



□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 これは異世界に旅立った人間達が、その地で生ける彫像ゴウレムとなったプラモデルやフィギュアを戦わせ、対決する。


 そんなお話。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 ……だが、その前に、俺が何故この地に飛ばされるに至ったか?


 それを話しておかなきゃならないだろう。


 ついでになんで屋敷の連中に受け入れられたのか。も。


 そう、時間は少々、巻き戻る。


 ……あれは、俺がこの世界の存在を知る前の話だ。

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