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第43話 いや駄目なのは俺のアタマのほうだった。だってこれ俺の夢だもの……。

 使用人用の小さなドアを開けて屋敷の中に入る。


 入ってすぐのところで、でかい猫が寝ていた。

 うずくまるようにむき出しの直に床に寝ていた。


 いや、猫じゃないのはわかっている。ハウ。……と呼ばれていた猫のコスプレをした……いや、コスプレじゃないよなあの感触と毛並みは……。獣人っていう言葉が頭をよぎった。


 俺=疾風はドアをわずかに開けて入りすぐ閉じた。

 音も鳴らさずに開け閉めしたはずなんだが、獣人ハウの頭の上にある耳は2つともピンと俺の方を向いている。


 ……向いているよなアレ。


 人間の耳もついているのでコスプレ感がハンパないのだが……。なんでこいつ全身に毛をもさもさ生やした上で耳が4つもあるんだろな……。コスプレにしては毛の感触がリアルすぎたのに。


 普通生き物の耳は2つしかないだろ。おたくファンタジーで描かれてきた獣人っていうのは、人間と獣の合いの子なのだ。人間の耳の代わりに獣の耳が頭の上に生えているのがスタンダードだったんだが……、どうしてけものの耳を頭につけた上で、人間の耳を残す必要があったんだ?


 まぁ、いいや。


 俺=疾風は壁に沿ったまま慎重に物音を立てずに空気になって壁沿いを進み、天井へを貼り付く。


 ハウの頭の上の耳も俺の動きを追随するように俺の居る天井を指してピンと止まった。


 ……。


 完全に見つかってるなこれ。


 だが、あいつが何もしてこないのは何故なんだ?


 俺に気付いてるだろ。


 ……と、思っていたら、耳が不意に横を向いた。


 耳が向いた方を見ると、メイド服を着たデカい女がぶるんぶるんと歩いてくる。


 メイド長……。


 背もデカイがそれ以外もすべてが規格外だ。


 メイド長がハウの前で止まった。


「わからん」


「それはなによりです」


「わからん」


「いえそんなことはありません。私はいたって正常です」


「わからん」


「……」


「わからん」


「……では少し休憩を頂きましょうか」


「わからん」


「そこはお願いします」


 ……。


 ……今のって会話が成立してたか?


 夢っていうのは支離滅裂なものだ。

 ものだが、あまりに支離滅裂すぎないだろうか?


「では」


 メイド長が歩き始めたので、こっそり後を付けることにした。


 俺本体の様子を見に行くかもしれないしな。


 天井に張り付いてニンジャっぽく移動する。


 とりあえず早く俺本体と合流しなきゃならんのだが、この屋敷やっぱり小学校の校舎並のでかさなだけあってどこをどう探していいやら見当がつかない。多分俺は地下牢っぽいところに居るので、地下への階段がどこかにあるはずなんだが……。


 メイド長の後を追いかけて気がついたことがある。


 これだけでかい屋敷なのに人の気配がまるでない。


 まさかこのでかい屋敷にあの4人だけで暮らしているのだろうか?


 さらに調度品の類いも見かけなかった。絨毯やマットの類も床に敷かれていない。


 よく見ると何かが置かれていたり、壁にかけてあったであろう日焼け跡なんかはあるんだが……。


 メイド長が廊下の突きあたりへと進んでゆく。


 このあたりの壁は石がブロックのように積まれている。


 メイド長はつきあたりの壁につくと、背後を振り返った。


 きょろきょろと誰も居ないことを確認して、壁のブロックを押す。


 隠し扉……?


 壁がスライドして、地下階段が現れた。


 地下への入り口。


 ビンゴだ。

 この先に俺本体が居るに違いない。


 メイド長が階段へ進み、扉を閉じる前に、するっと中に入る。


 明かりをともしたメイド長が、階段を下りていく。


 なるほど、俺のいる地下牢へと続いているのだな。


 と、思ったら違った。


 階段を下りてたどり着いたのは学校の教室くらいのスペースだった。


 薄暗くてあまりはっきりとは見えないが……、


 壁にかけてあるものが見えた。


 巻かれた長い鞭。


 馬のケツを叩いて走らせる靴ベラみたいな鞭。


 先端がこう……、たくさん分かれてて、ホウキというか、ハタキというか、メデューサの頭みたい? になった鞭。(『バラ鞭』って名前なのをしばらくあとでメイド長に教わった)

 

 バット。野球のね。


 燭台。ローソクがついたやつで、三つ又のやつ。


 ……その他、何とも言いたくないようなのがたくさん……。


 俺がこの屋敷で最初に目が覚めた時、俺の手足には鎖がつながれていたっけ……、そんなものを常備してあったわけだ。この屋敷というかこのメイド長は。


 俺=疾風が、壁にかけてある物に目を奪われているうちに、メイド長はいつの間にか上半身裸になっていた。


 ぶるんッ。


 というか、ばるんッ。


 という感じだ。


 メイド長が立っているその奥には、薄暗くてよく見えないけれど、『三角木馬』っていう『大人向けの創作物』の中でしかお目にかかったことがない物がそびえていた。それ以外のなんとも『大人向けの創作物』の中でしか見たことがない物が……いろいろな物があった。


 ……。


 俺の脳が理解することを拒否しているのだが、メイド長は動き続ける。


 メイド長は壁にかけてあったバラ鞭を取った。


 そして、床に膝を突く。


御館様おやかたさま


 泣き出した……。



「御館様、どうか御前様をお守り出来なかった、この私をお許しください」


 ぱん。


 メイド長は、バラ鞭を振りかぶると自分の背中に当てた。


 メイド長の白い背中に、鞭の形に青黒いミミズ腫れが走る。


 ひ、ひいいいいいいい……。

 見てるだけですげー痛い……。


 メイド長は尚も続ける。


「御館様、どうかあの異界人に自由にさせてしまったこの身を断罪下さい、お許し下さい、お清め下さい」


 ぱん。


 メイド長は、バラ鞭を振りかぶると自分の背中に当てた。


 メイド長の白い背中に、鞭の形に青黒いミミズ腫れが走る。


 な、何考えてるんだこいつ。


 この屋敷の連中かなりやばいんじゃないだろうか……。


 なんか見てはいけない物を見てしまった気がするので、見なかったことにしよう。……と普段なら問題を先送りにする俺だが、メイド長の様子が本当に怖いので、すぐに逃げる方法を考える。


 考える。


 考えるのだが、この部屋から隠し扉を開く方法がわからない。


 ……えっ、俺ここに居なきゃいけないの?


 

「御館様、どうかお嬢様をお守りするためにお力をお貸し下さい。この身はどうなっても構いません。どうかお嬢様を守るすべを使うことを私にお許し下さい」


 ぱん。


 メイド長は、バラ鞭を振りかぶると自分の背中に当てた。


 メイド長の白い背中に、鞭の形に青黒いミミズ腫れが走る。


<もうやめろ、やめてくれッ!>


 思わず叫んでしまった。


「えっ?」


 メイド長が背後を振り返る。


 そして誰も居ないのを確かめる。それでも尚も周囲を見続けた。


「御館様……。御館様がいらしてくださった……」


 さらに泣き出した。


 すげー泣いてる。


 眼鏡が曇るくらい泣いてる。


 というか膝で立ってることができなくなって手で四つんばいになって泣いてる。


「……仰せのままに、御館様」


 


 メイド長は泣き終えると、納得したような顔になってバラ鞭を壁にかけた。


 こわい。


 というかBBAとはいえメイド長の白い背中に紫色のミミズ腫れが広がっていくのを見せられるのは俺にとっても拷問でしかない。


 ひどい腫れようじゃないかあの背中……えっ?


 あれ?


 さっきまで確かに腫れていた背中が、今は綺麗さっぱり真っ白なしっとりした肌に戻っている。というか、こいつって受けた傷をすぐに回復できる超パワーを持ってるっぽい?


 ……。


 ……まぁ、夢だしな。


 とにかく……。


 やばい。

 やばすぎる。


 こんな場所一刻も早く離れなければ、逃げなければッ!


 服を直したメイド長が階段を登り始めたので、俺もその後をつけて一階に上がった。


えいえいエタった?

エタってないよ。

えいえいエタった?

エタってないよ。

えいッ

エタッ

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