第41話 俯瞰、ベルン男爵邸
とりあえず次行ってみよう……。
疾風が入っていた入れ物のふたを閉じ、タンスの扉も閉じる。
そのまま開けっ放しにしといたら疾風が逃げたのがすぐにわかっちゃうからな。
疾風となった俺はあの御前様の部屋の中をゆっくりとふわふわと慎重に飛ぶ。音速の壁でも超えようものなら、部屋ごとバリっと逝きかねない。窓が丁度よく開いていたので、外に出てみることにした。
出た。
そして上空へ。
気持ちの良い晴れた空だった。
上へ。上へと飛ぶ。
俺が今どこにいるのか見下ろして確かめるのだ。
遠くの景色がいやでも視界に入る。
運河のような大きな川が見えた。
街並みも見えるが、ビルや住宅地じゃない。
石造りの家に、布の屋根の露天に、コロシアムみたいな大きな建物。
中世ヨーロッパとか、いわゆる剣と魔法のファンタジーゲーム的な街並みが見えた。こんな夢を続けて見るとか俺どんだけ異世界が好きなんだろ……。
そろそろいいか。下を見てみよう。
俺自身が今居る=俺の本体が捕まっているであろう建物を上空から見下ろしてみる。
うお?
……何から理解すればいいんだろう。
でかい屋敷だな……。
まず洋館が建っている。それこそ剣と魔法のファンタジーの世界に出てくるような典型的な貴族の屋敷っぽい立派な館だ。大きさは小学校の校舎くらいあるだろうか。
その洋館に併設されているのがコンクリの四角い建物だ。
バッティングセンターの受付の建物とか、バイパス沿いのトラック運転手向けの宿泊施設が付いたでかいラーメン屋とかそんな印象のコンクリの建物。
剣と魔法のファンタジーの洋館と昭和のコンクリが並んで建っている。高いワインの付けあわせにワカメの味噌汁が出てきたみたいな感じだ……。
世界観とかこう、……もう少しあるだろ。なぁ……。
夢で見るにしても俺のセンスってこんなに悪かったっけ? と思う取り合わせだ。
洋館とコンクリの建物とは渡り廊下で接続されているが、さきコンクリがあった上で、洋館側が渡り廊下を作ったような感じ。立ち位置を見るに先にコンクリがあって、その後に洋館が建てられたようなそんな印象をうけた。
物を作る人間として心に致命傷を負っているからこんなものを夢で見るのかもな……。
さすがにコンクリの建物が気になるので様子を見てみるか……。
ゆっくりと下降だ。
コンクリの屋上、屋根の上まで来た。
排気口か煙突か、とりあえずそんなような穴が屋根に見つかったので、そこから中に入ってみる。手のひらサイズの疾風の体を活かした潜入ミッションてヤツだな。
銭湯……!?
というのが最初の印象だ。
入り込んだ建物、その床はタイル張りで、でかい湯船が部屋の1/3を占めている。
それ以外は洗い場、鏡のついた衝立と蛇口やシャワーのあるアレが並んでいる。
温泉や銭湯なんかで一度は見るアレだと思うんだけど……すべての洗い場から鏡が全部取り外されている。
椅子と風呂桶が無い。こういうでかい風呂には黄色い(中略)の風呂桶がたくさん積まれてるはずなのに……。(中略)の風呂桶ってカエルみたいな名前でいいよね。
湯船はほこりを被っている。しばらくの間お湯が張られた痕跡は無い。
とりあえず風呂場から出てみよう。
脱衣所があった。ロッカーにザルが入っていた。
ポスターか何かが剥がされたであろう跡があるくらいか。
その次へ。
がらんとした教室くらいの広さの部屋。
ゲームコーナー……、という看板がぶら下がってるが、筐体は何一つ無い。
アイス200円という張り紙。
まんが図書館という張り紙。だがマンガや本棚の類は無い。
卓球1時間……これ紙が破けてる。
これ、スキー場とか、ペンション街なんかに宿泊施設があるが、そこの離れにあるようなお風呂場施設だな。
こんなものが夢に出てくるなんて……俺どっか旅に出たいんだろうか。
いつまでもここに居ても仕方が無いので、洋館の方に戻ってみよう。
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窓が小さく開いている部屋があったのでそこから洋館、屋敷の中に戻る。
……ここはあのダークエルフの部屋か……。
何故わかるかというと本人が机に座って居るからだ。俺のサマーセーター。牢屋の机に並んでないと思ったらこの子がまだ着てたのか。
立ち上がって、サマーセーターを脱ぎだしたぞ、何を……。
えっ?




