第30話 冒険者パーティー『レフティー』
俺はサム。
冒険者パーティー『レフティー』のリーダーだ。
俺、ヒトサシ、ミドル、リング、リトル。
パーティーのメンツはこの5人。これまで一度も入れ替わることなく、解散もしたことがないのが、我がパーティー数少ない自慢かな。
俺たちの専門は斥候・調査・工作任務。
後続する別働隊・本隊が攻略、ないし蹂躙するのに最適な環境、お膳立てを用意しておくのがお仕事ってとこだ。
これまで頂上まで踏破した山々は数知れない。数多の茂みをかきわけ、時にジャングルを抜けて、お宝への道を切り開いて来た。
俺たちは今回、とある雪山、その山頂の攻略を命じられている。
攻略とは、単なる登頂のことではない。
頂上を縄張りとするボスモンスター。『リビングケルン』の討伐が任務だ。
斥候・調査・工作。いつもの前段作戦ではない、俺たちのみによる討伐。
俺たちだけでボスモンスターを制圧するということだ。
腕が鳴る。血が騒ぐ。こんな花形任務めったに無い。
だが俺達の雇用主は、我らレフティーに5合目での待機を指示した。
「なぁサム。まだ、俺たちはまだここに留まっていなきゃならんのか?」
カタナソードを新雪にさりさりと立てながら、サブリーダーのヒトサシが不満を漏らす。
「ああ。こればかりは、なんともな」
俺たちは雇われパーティー。雇用主の支持なしには動けない。下請けの悲しいところだ。
「まぁいいじゃないか、ずいぶんなめらかな雪肌だ」
と言って、鍵開け屋ミドルが積もった雪を撫でた。
「心が落ち着く。休暇を貰ってるんだと思おうぜ。滅多に休みなんて取れないんだからな」
俺たちに指示を出している奴は『ブレイン』と呼ばれている。その名のとおり、俺たちの頭脳だ。
昔馴染み……いや、幼馴染だな。とにかく卑劣で卑怯。自分より弱い相手をいじくり回してその反応を見て喜ぶ。そんな奴だ。
「ああクソ!」
とリング。
「俺たちだって早く暴れたいのによ」
とリトルが悪態をついた。
ブレインの奴が雇っている冒険者パーティーは俺たち以外にもある。
もうひとつの冒険者パーティー『ライトハンド』は、この雪山の隣にある同規模の雪山の攻略に先んじて向かっている。
彼らは既に頂上部へ到達し、その上に陣取るボスモンスターと交戦中との話だ。
悔しいかな、ライトハンドの方が冒険者チームとしては腕利きだ。
そんな折、ブレインから連絡が入った。
『サム、チーム・レフティー、聞こえるか? ブレインだ。 ライトハンドと交戦中のモンスターが最終形態まで進化した』
「了解、下山してライトハンドの救援に……」
『それには及ばん! お前たちの待機命令を解き、これより頂上の完全制圧を命じる! 存分に暴れてくれ』
「聞いたか皆? チーム・レフティー! 出撃だ!」
「「「「おう!」」」」
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「なんてこった」
山の頂上、その頂点に陣取るボスモンスター、山の王『リビングケルン』は既に最終形態まで進化していた。
「こんなことってあるのか?」
「俺は聞いたことが無いぞ!」
リビングケルンは外部からの刺激を受けない限り、山に紛れ、時に山肌に擬態しながら生きるモンスターだ。
「おそらく、ライトハンドの奴らが戦っているもう一匹のリビングケルンに呼応して、攻撃を待たずに、最終形態まで進化したってことだろう」
「どうするんだリーダー?」
問われた俺は無い知恵を絞る。だが出たのはいつもの脳筋戦法だった。
「ヒトサシ、最初から全力だ、ダブルアタックをしかけよう!」
「なんだと?」
「ブレインからは徹底的にやれとの指示だ。どうやら南のダンジョンには攻め込まず、この山だけで決着をつけるらしい」
「ダンジョンを攻めねえのかよ。俺の出番は無いな」
パーティー随一の攻城能力を持つミドルが残念そうに呟いた。
「残念ながらそうはいかんらしい……」
「すんません! こいつ俺達の攻撃を吸収してさらに硬度を上げました!」
リングとリトルのコンビが、シザースアタックを仕掛けたのだが、それはますますリビングケルンを活気付かせてしまったようだ。
「ガッチガチです!」
「ヒトサシ! ミドル! トリプルアタックだ! この山を崩す勢いでかかるぞ!」
「「おう」」
「「「うおおおおおおおおおおーッ!」」」
俺たち3人の渾身の総攻撃が炸裂する。
同時に、チームライトハンドの奥義が向こうの山でも放たれたらしい。
びくん。びくッ。びくんっ。
「地震?!」
地面が、……大地がびくんっびくん、ガクガクと震えている。
「なんてこったこれは、この大地が、地面が崩れ落ちるぞ……」
「うおおおー、ここで終わりかよ、そりゃないぜーちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!!」
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第30話 冒険者パーティー『レフティ』
出演
サム カラスマ(左手親指)
ヒトサシ カラスマ(左手人差し指)
カタナソード カラスマ(左手人差し指のつめ)
ミドル カラスマ(左手中指)
リング カラスマ(左手薬指)
リトル カラスマ(左手小指)
冒険者チームライトハンド カラスマ(右手)
リビングケルン ガーネット((中略))
舞台装置 ガーネット
世界 ガーネット
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「ふえあぁぁ……ッ」
姉エルフが太ももをがくがくと震わせたのち、全身を痙攣させて倒れた。
びくんッ、びくんびくん。
「お姉さま!」
「御前様!」
「わからんっ!」
「き、貴様、その手の、その指の動きはなんだ……魔物でも寄生させているのかッ!?」
メイド長が叫ぶ。
「この手がそう見えるかよ?」
俺はフリーにした左手をひらひらと見せてやった。
「わからん」
と、けもの。
「お前はなんだ! 人間ではないな? 悪魔か?」
と、メイド長。
「わ、私は貴方様が触手モンスターであろうと構いません」
と、ルナリア。
「構えよ! あと人間だよ俺は!」
「ふぁ。ふぁふぁーはひっひゃいひゃひほほはほ?(貴方は一体何者なの?)」
と姉エルフが聞いてくる。
答えてやるとしよう。
「お姉さま、いや御前様かな? ……その昔、日本では手先が器用なチャンピオンを決める大会があった。その大会で3度の優勝に輝き手先が器用である大会で、殿堂入りした優勝者がいた」
「ふぇぇ?」
「そのチャンピオン。一体何の仕事をしていたか知っているか? 世界一手先が器用なチャンピオンを生み出した、その職業を?」
「しょ……しょんなのしらないぃ……」
「原型師だ」
「げんけいし……」
「俺は烏丸からす。職業は(元)原型師だ」
辛うじてヒジと精神力で立っていたおっぱいエルフが、
再度倒れた。
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