第25話 猛々しき翡翠・龍神形態『エメラルドドラゴン』
意識を集中させて疾風を飛ばす。
緑の巨大ロボに羽根と尻尾が生えていた。
しっぽはトカゲか恐竜のような感じ。
羽根はコウモリのよう。
それぞれあの巨大なロボの体に相応しい巨大なものだ。
足を見れば立派な爪が生えている。
この分だと頭も変わりそうだな……、ツノみたいなものが生え始めている。
ロボットアニメなんかだと変形というのはもっと早く、一瞬で形を変えるものなんだが、このロボットはずいぶん苦しそうに時間をかけて形が変わるんだな……時間がかかった方が体を作り変えている感じがしするし、正直不気味だ。
ずどん。
俺は疾風の蹴りをロボの顔面にぶち込む。
びくともしない。
ではもう一発。
ずどん。
さらにもう一発だ。
ずどん。
疾風を何度叩きつけても一向に傷ひとつつかない。よろめきもしない。手で防ぐようなリアクションすらないのは疾風を舐めているのだろうか。
ずどん。ずどん。ずどん。ずどん。
眉間のあたりを集中的に攻撃する。
「無理よ、そいつに傷をつけた人間は未だかつて誰もいない!」
おっぱいが叫んだ。
うるさいな。
「こういうのは同じところを何度も何度も殴ってれば傷がついてそっからヒビが入るものなんだよ!」
「ちがう! 衝撃を内部に飛ばしなさい!」
おっぱいがなんだか偉そうに指図をしてくる。
「衝撃を内部に……っつってもなぁ……」
巨大な敵を相手にした場合の勝ちパターンは口から中に入って内部からぶち壊すってのが定番なんだが、これ口は中に続く穴が開いていないかざりっぽい。
ものは試しで巨大ロボのツノをつかんだ。
それをそのまま持ち上げようとしてみるが、……ちょっと無理だった余りにも重すぎる。夢なんだから都合よく持ちあがれよ……。
3メートルくらい持ち上げてそのまま落とせば乗ってる中身はかなり痛いと思ったんだが……。
『もうじきだ。あと少しで、猛々しき翡翠はドラゴンに変わる。滅竜エメラルドドラゴンに! この意味がわかるか?』
「……そんな」
おっぱいエルフが顔色を失うのがわかった。
背中から張り出したパーツが巨人の顔を覆いはじめている。
あとでガーネットに聞いた話だが、このゴウレムは猛々しき翡翠という名前だそうだ。
ザ・パワー=テンという、世界で最も強い10体のゴウレムの1つで、10体それぞれが、物騒な逸話を持っている。
このゴウレムは、一番堅い個体で決して誰も傷をつけられたことがない。
そして、竜の姿に変形したあとは制御を失って暴れまわるそうだ。
挙句7日間にわたって暴走し、人間族が住んでいた古の帝国を崩壊させたという。
多分、どっかの拠点ないし国ないしを滅ぼす前提でそんな機能がつけられたんだろうな。
「変形には、変形だな」
俺は疾風を呼び戻す。
疾風を俺の胸の前で止め、背中を向けさせて宙に仁王立ちにさせた。
疾風の武装を組みかえるためにパーツを取り外さなくては……。
手を動かすのにサマーセーターが邪魔だった。あとバッグも。
俺は持っていた3WAYバッグを置き、サマーセーターを傍に居たダークエルフの肩にかけた。
全裸じゃ可哀想だからね。
緑色のすごくきれいな瞳が、びっくりしたように俺を見ていた。
薄汚れてはいたが、白いセーターだ。褐色の肌を隠して……いや覗く範囲からよりその褐色の肌を際立たせてしまっている……。
ダークエルフの顔がこわばっている。
これ、余計な事をしたか?
こういう時は笑ったほうがいいんだよな。
俺は上手く笑えているだろうか?
誰かを気遣って笑ったことなどしばらくないな。
「う、ううう」
……。
「う、うわあああああああああああああああああああああああん」
ダークエルフが堰を切ったように、泣き出す。
抱きつかれた。
いいにおいがして、温かくて、なんだか背中のあたりがびりりとしびれた。
泣いているダークエルフ。
この泣き顔、どこかで見たことがある。
ずっと何かを耐えて、我慢して。我慢しようとして、ついに耐え切れる堰が切れて泣き出したんだ。
今まで悔しくても泣かなかった。
どこで見たんだ。
泣いてる女の子。女……。
寝ている女は何人か泣かせたが、こうして立っている女は……
ああ、あれだ。
思い出した、あれは……
その瞬間から、疾風の体がふつふつと黒い湯気を出し始めた……。




