第23話 召喚! 異世界の元原型師
70,839文字と執筆期間3カ月をかけて転移した主人公カラスマ。いよいよ異世界へ着地、物語の本筋へ合流します。
俺は烏丸からす。
もちろん本名じゃない。ペンネームだ。
ペンネームを使っていると本当の自分じゃない気がしてくる、ちょっとした変身気分? だからちょっと恥ずかしいこともできる。
おっぱいが揉みたい。
叫んでみた。
とにかく俺はおっぱいが揉みたい。
おっぱいだ。おっぱいなんだ。
なんでおっぱいって叫んでるかというと、絶賛遭難中だから。
あたり一面真っ白に光があふれてる。
光だけで何もない。
まぶしくて前が見えず、目を閉じてもまだまぶしい。風がごうごうととにかくすごい勢いで吹いている。
台風の中を歩かされているようだ。
わけがわかんないよね。
こんな空間にただ一人でいると、おっぱいって叫んでないとやってられませんよ。
何を叫んだって風の轟音にかき消されてるしね。
だから好き勝手叫ぶのさ。
あー、おっぱいが揉みたい、そしてできれば吸いたい。
ところで……なんで俺はここを歩いてるんだっけ?
『……妹を、私の家族を助けてください』
女の声が聞こえた。
なんだ?
すると、体が声のする方へ自然と引き寄せられていく。
流れるプールを思い出すね。流れがあって、同じ場所に立っていられない。地元にあった超デカいスーパー銭湯にあった。
『この身はどうなっても構いません……』
若い女の声。
おっぱい大きいのかな……。
いや、そんな事を気にしてる場合じゃないか、俺の体が流されてる……。
『……どうか御前様とお嬢様を! 先帝陛下、どうかヴァルナリア様を! そして我が盟友を……』
詳しくはわからないが助けを求めてるのはよくわかった。
俺の体は依然として、声のする方向へ引き寄せられてる。
……とすると、助けを呼んでる奴を……俺が助けるのか?!
え、待って。
『……御前様と皇女様。我が友を助ける力を。この命を差し出そう』
おそらく声を出した奴の、その悲壮な覚悟が俺の心に直接流れ込んでくる。
助けてって言われても俺、ただの29歳だよ。認めたくないけどおっさんだよ。どうしろっての?
依然として俺の体は、声がした方向へと流されている。
足を踏ん張って抵抗してみたけど無駄だった。
……だんだん怖くなってきた、これ。
助けを呼んでる声がして、助けに行きたいのはやまやまだけど、何をどう助ければいいのだろう?
火事が起きてて中に取り残されてるから、飛び込んでくれとか?
溺れているから濁流にダイブしろとか?
気持ちとしては助けに行きたいけれど……。理性の方がトラブルにわざわざ近づくなって言ってる。
総武線のホームで電車に乗ろうとしたとき、若い酔っ払いがおっさんを一方的に蹴っていた。
あの時は間に入って止めたけど、それは横に同じように止めようとしたサラリーマンが2人居たからだ……電車も丁度発車を待ってドアが閉まるところだったし、酔っぱらいを電車の外に押し出してその場を収めた……。
秋葉原駅のラッシュで取っ組み合いの喧嘩をしてるのは年1回くらい見るけれど……俺はスルーをする。
俺はヒーローじゃない。
しがない会社員だ。業種が少々珍しいだけの。
『こわい、こわいの……』
女の子の声だった。か細い、涙声だった。
『誰か、誰か助けて! お父様! 誰か! 助けて、助けて!』
最後の声を聞いた時、俺は足を、自然と声のする方へと向けて歩き出していた。
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空に太陽が二つ。
俺は森の中に居た。
いつからここに立ってたんだ?
「ふぇ…………」
女の子の声だ。
緑の綺麗な澄んだ眼が、びっくりしたように俺を見ていた。
目の前に褐色の美少女が居た。
高校生くらいだろうか?
それらは些細なことだ。色々と問題がある。
まず格好。
全裸。
すっぽんぽんで、ぺたりと俺の前に座っている。
いや、パンツは履いてるか、ほとんどやぶれかけてるけど。
おっぱいもばっちり見える。
綺麗だ。けど残念、あんまり大きくない。でも美乳だ。
乳首の色そんな感じなんだ……。
そんな感じって言ったのは、その種族の全裸を初めて見るからだ。
全裸の女の子はおそらく人間じゃない。
褐色の肌。銀色の肩まである髪。翡翠のような瞳、そして、
耳が尖っている。
「ダークエルフ……?」
この顔。どこかで見たような覚えがあるが、何だったか思い出せない。
とにかく、そばに居るだけでなんかいいにおいがした。
「なんだお前は!」
背中から声をかけられた。
振りかえる。
色々と衝撃を受けた。
まず超でかい緑のロボットが立っていた。
お台場のアレみたいなモニュメント? 立像?
アメリカの有名なヒーローが集まって地球を救う映画があるんだけど、それに怒れば怒るほど強くなるが暴走してしまうヒーローが出てくる。
ジキル博士とハイド氏っぽいやつね。
そのヒーローの暴走を止めるために、そいつに対抗できる超大型パワードスーツを用意していたくだりがある。名前が思い出せないけど、なんちゃらバスターっていうのが出てくるんだが、
見た目がそれっぽかった!
そのロボットの下に白人の男が立っていた。
白人。金髪碧眼の外国人。
……に一見見えるが、耳がアーモンド状に尖っている。
エルフだ。細面で美形の……。
ダークエルフを見た後だから、まぁエルフも居るよなと脳が処理する。
……でも残念ながら男だ。
性別を主張するものが、目の前でぶらぶらしている。
おええええええええええ。
オスエルフはシャツを開いて、下は靴にフルチン。
恰好がまず異常者の露出狂だが、それが問題じゃないくらいにおかしな体をしていた。
全身に魔法陣っぽい刺青や、大小色んな形のカラフルな石を埋め込んでいる。
肩や腕はもちろん、へそとか、くまなく……。
えっ……(中略)にまで入れてるのそれ……。
おええええええええ。
他人の(中略)をまた見てしまった。
ダークエルフのおっぱいで目を解毒しなきゃ……。
振り返るのと同時にダークエルフが俺の背中に抱きついていた。
背中があったかい。
ちょっとドキドキする。
あと、いいにおい。
「なんのつもりだ貴様!」
俺たちを見た全身改造エルフが激昂した。
肌があんなに真っ白だと、怒ると顔が真っ赤になるのね。ゆでダコか。
目の前にいる改造エルフがムチをひっぱりだした。
えっ? 本物それ?
いや、いまさら何をって話だけど。
ひゅん、ひゅんと、ムチが地面を打った。
アレ……、当たったら肌がべろっていくやつだ……。
背筋が凍るとは言うけど、恐ろしさのあまりその場で動けなくなる。
3WAYバッグを肩から下げ、100均のタッパーを持って俺は棒立ちだ。バッグで防御とかとっさに出来ないって。
「死ねぇ!」
改造エルフがムチを振りかぶった。
「ひえええああああ」
怖くて怖くて情けない声を上げた。だって怖いもの。
痛いの! いやだ! 両腕で顔を覆って目をつぶる。
ぱん。
次の瞬間。
俺は痛くなかった。
ふりかぶって勢い余った改造エルフが、何故か後ろへ倒れていた。
「なんだこれは?」
改造エルフが手に持っていたムチが、なんかちぎれて……断面が破裂してバッサバサのホウキみたいになっていた。
『旦那様ッ!』
声がした方を見る。
がちゃん、がちゃん、がちゃん、がちゃん。
金属の足音を鳴らして、3メートルくらいの背丈の塊が歩いてくる。
ロボット? 鎧のようなパワードスーツだ。声がしたから中に誰か入っている感じだ。かっこいい。
でも、手に持っているのは……人? 女……。
首輪をつけられた女エルフ。……が繋がれた鎖を掲げている。
おっぱい丸出し。
でかい……歩くたびにすごい。
いや、そんな事を考えている場合じゃない、なんて酷い格好だ。助けてやりたい……。
がつんっ。
突然。
パワードスーツの頭がひとりでにへこんだ。
「えっ?」
「ひゃっ?!」
俺とダークエルフがほぼ同時にびっくりした。
ばん。
続いて、エルフをつないでいた鎖が破裂する。
「お姉さま!」
ダークエルフが叫んだ。
「ルナ…リア…?」
うなだれていた女エルフが目を覚ました。
「なんだ……なんだというんだ……!?」
改造エルフが明らかにうろたえている。
「旦那やべえ、早くパワー=テンの中へ!」
また別の声がした。
「何か居る! 目で見えない何かが居るッ!!! 逃げてください旦那」
頭に布を巻いたあごひげの男が叫んでいた。
見えない何かってなんだろ?
あごヒゲの男に目をやれば……なんだろ……とか思っていられない物を続けて見せられた。
あごヒゲのとなりに、青か紫色か、そんな色の髪をしたでかい女が捕まっている。
ちょっと口に出すのもはばかられるようなすごい姿で……。
すぐに助けなきゃ……、
だがどうやってと思う瞬間に、
女を捕まえていたカカシのようなロボット達が次々と爆発四散した。
「おああああああああ!?!?!?」
あごヒゲが尻もちをついた。そのまま器用にあとずさる。
拘束されていた女はふわふわと宙に浮かんで、ゆっくりと地面に着地した。
よかった。
そしてさっきのエルフもおっぱいがでかかったが、あのお姉さんのおっぱいはなんか規格外だ。……うん。
同時に、目の前にあった緑色のなんちゃらバスターが、目から光を出して動き出した。
改造エルフがロボに吸い込まれる様子、乗り込み終えたのが一瞬だけ見えた。
ぎぎぎぎぎぎと、巨大ロボの全身がきしむ。
『何をしたのかわからんが、この猛々しき翡翠がッ!』
なんちゃらバスターがバカでかい、それこそワゴン車くらいある拳をふりあげ……っておいおい待て待て……俺に向かって振り下ろして……。
「おわあああああああああああああああああーッ!」
俺は思わず、手に持っていた100均のタッパーを思わず強く握……ったとおもったら……違和感に気付いた。
タッパーがぐにゅっと握れるのだ。
なんだこれ……タッパーが爆発してる。いつの間に?
内側から何かが飛び出したように……。
そして振り下ろされたはずの巨大ロボのパンチがいつまでも来ない……。
巨大ロボは、パンチを振りおろした姿勢のまま、まるで動画に一時停止でもかけたかのように固まっていた。
『なんだ! なんだこれは!』
改造エルフがロボの中でオロオロした叫び声をあげる。
『おっ、おああああああああああ??????』
次の瞬間、巨大ロボの体が振り下ろしたパンチを起点にぐるりと振り回され、10メートルばかり背後に投げ飛ばされていた。
ずずんと、
あたり一面に震度3くらいの地揺れが起こる。
森がめちゃくちゃだ。
「なんだよこれ……なんなんだよこれ……何が起きてんだよ」
あごヒゲの男が真っ青になって震えている。
俺にも教えてほしい。
一体何が起きているんだ? 誰か、俺に説明してくれ。
そう思い終えた瞬間に、すぅと、見慣れたシルエットが、俺の目の前に現れた。
「えッ?!?」
思いもつかないものが、目の前にふわりと浮かんでいた。
一瞬オナガくらいの小鳥かと思ったが羽ばたきがない。シルエットが人型、いや羽根の生えた人型だから妖精のようなのだ。
手のひらに乗るくらいの身長。女の小人。
俺にしがみついていたダークエルフが恐る恐る、だが途中からキラキラした目でそれを見ていた。
女の小人は第2次大戦の戦闘機をモチーフにしたアーマーをつけ、背中にはその戦闘機由来の翼をはやしている。
本来は黒髪の大和撫子な剣道少女型なのだが、俺の趣味で褐色の肌に緑の瞳、銀髪のダークエルフの武人女傑型に組み上げた。
慶屋から発売されているプラモデルシリーズ。メーカー希望小売価格 5,184円 (税込)。
M・W・F (モノコックウェポンズフラウ)001。
「疾風……」
俺の組み上げた小さなプラモデルが、今、
俺の目の前で動いている。




