第2話 召喚勇者? と雇用主の食卓
「うーす、おはよう」
着替えを済ませて食堂に降りると、4人の女が待っていた。
「おはようカラスマ」
この屋敷の女主人。金髪エルフのガーネット。背は高く乳もでかい。勝気だが貧乏性の苦労人で、「くっころ」がとてもよく似合う。
「おはようございます。だんな様」
ダークエルフのルナリア。16歳。褐色の肌に銀色の髪。ガーネットの妹だ。背は低めで、性格も控えめなのだが、乳はそこそこ主張してくるタイプ。白いサマーセーターを羽織っているので今日も起伏がよく見えた。
「おはようございます。カラスマ」
メイド長。エルフなのだが、やたら背が高く肉々しい体をしている。紫色の髪の毛に銀縁の眼鏡。乳とヒップは超級。思春期を迎えた少年達が一目見るだけで精通を迎えてしまう歩くポルノだ。ロングスカートのクラシックなメイド服を着ている。
「ごはん」
虎っぽいのが混ざってる獣人のハウ。耳が4つと尻尾がある。乳は筋肉質だった。
「ごはん」
腹が減っているそうだ。待たせて悪かったね。
この4人が、俺をこの世界へと呼び出した召喚主。
召喚者か。
色々あって、俺はこの4人が住むこの屋敷の食客。いわゆる用心棒ということになった。
俺がこの異世界に存在し続ける上で、死活に関わる大切な「とあるもの」をこの4人に管理してもらう。
その代わり俺がこの屋敷に生活費を入れ、こいつらの生活の面倒を見る。ちょっと贅沢もさせる。そういう取り決めになっている。
結婚は長い契約売春だと評し描いた作家がいたっけな……。
テーブルクロスの敷かれた長机の上には、重めの朝食が広がっていた。
昼なので皆にとっては昼食らしい。
俺がこの屋敷の食客になるにあたって要求したもの、そのひとつは旨いメシである。
館の主人であるガーネットが、お誕生日席に座り、ダークエルフのルナリアがその斜め隣。空いている向かい側が俺の定位置だ。
ハウはいつも適当なところに座っている。
メイド長は基本的に主人たちと一緒に食事は取らない。……と言って居るのだが、
「メイド長も食事がまだなら一緒に食べようよ」
と俺が声をかける。
「ガーネットもそれでいいだろ」
「構わないわ」
「……かしこまりました。御前様が仰るなら、そうさせていただきます」
毎度このやりとりをして、俺の隣に座る。
「「「「いただきます」」」」
「ごはん」
人に淹れてもらったコーヒーを旨いものとすると、手料理は相当な贅沢品になる。
贅沢品に囲まれた俺は幸せ者だ。
「これ(オムレツ)……。つくったのはルナリア?」
「はい!」
「そっかすごく美味しいよ」
えへへと、ルナリアは照れている。ケチャップとか作るの手間かかるんだよね。
「このシチューぴりぴりするなぁ」
「それは私が。いいでしょ、お肉と一緒にお庭に生えてたハーブを煮込んだの!」
と、ガーネットは得意げだ。
「庭に生えてたって……もうちょっといいもの食わせてくれよ。」
「いいじゃない美味しいんだから。お庭でとれたハーブは、私が選んだ人じゃないと食べられないの! どんなにお金を出したって例え王様だって食べられないんだから」
食べれる草とそうでない草の見分けがつけられる貴族ってどうなんだろな。
「それにもっとすごいものも入ってるし……」
まさか……胸を張って、私の愛情とか言わないよな。
「私の愛情!」
言った。言ったよこいつ。
「……」
「……」
「……」
「シチューが冷めますわお姉さま」
「……うん」
「私はサラダを作りました」
とメイド長。
「そうか。ところで、俺が寝てる間なんか変わったことはなかった?」
「アリーナから招待がきております、毎日来ておりましてほぼ陳情に近いですね。古エルフの森から贈答品がありました。薬草酒が1ダース。ムトー様から新しいプラモデルが届きましたので、工房においておきました。
あと『私はサラダを作りました』」
「わかったよ食べるよ……」
……このにがい葉っぱ嫌いなんだけどなぁ。
この屋敷の食事において、女性陣各々が作った料理を均等に食い、均等に感想を述べないとハブられた奴が途端に不機嫌になるシステムが自然に組みあがっていた。
ものの本というかWEB小説によると、ハーレムの管理というそうで。
実際やってみるとかなり大変だよこれ……。
「しょうゆ味! ……美味しいやつだ。苦味とマッチしてる」
「市場で見つけました。ちゃんと異界産のものですよ」
「そっか、ナイスだメイド長!」
それを聞いて、メイド長は満足げだった。ふんす、って感じだ。
メイド長が用意していた収支の書類に目を通しはじめたところで違和感に気付いた。
妙に静かだ。
そうだ……! 動くプラモたちが居ない。
「チビたちはどうした?」
<<<きゃーっ!>>>
チビたちの歓声が近づいてきて、3つの小さな影が食堂の入口からぽーんとジャンプした。そのままテーブルの上にふわりと着地する。
「なんですか、もうー!! お行儀が悪いですよ!」
とルナリア。
<ごめんなさい、母上>
<<ごめんなさいルナリア様>>
「まぁいいじゃないか。それよりお前たち、どうしたんだその格好は?」
3人とも、ロングスカートにエプロンをつけた小さなメイド服を着ていた。頭にはちゃんとメイドのコームをつけている。
<<<メイド長がつくってくれたんです>>>
3人とも心底嬉しそうだった。
<メイド長になったみたいなの!>
その場でくるくると回ってスカートをふわりとさせたり、スカートをつまんでみんなにお辞儀をしたりしている。
「かわいいじゃないか良く似合ってるぞ」
俺は以前はプラモに服を着せるのは苦手に思っていたのだが、こっちに来るようになってからは正直アリかなとも思っている。屋敷の女たちが皆、プラモを着せ替え人形にして楽しんでるのを見て案外悪くないもんだと考えを改めたんだ。
「ありがとなメイド長」
「いえ、生地が余りましたので」
この人もずいぶん丸くなってくれたもんだ。人形達が可愛いのかな。
<お父様、あーん>
小さい子がお菓子をくれるときあーんて、口に寄こすよね。
チビたちが早速お手伝いがしたいというので、食事の手伝いがはじまってしまった。
フォークで残った料理を刺して、それを俺の口によこしてくる。
俺としては書類を読みながら食事が取れるのでいいのだが。
「皆さん、そこのサラダを重点的に食べさせてあげてください。バランス良く栄養を取ってもらわねばなりません」
<<<はーい>>>
「オムレツも」
<ルナリア様。オムレツはもうありません>
「そう……」
「先に食ったんだよ。美味いから」
「そう!」
<お父様、あーん!>
もぐもぐ。
<カラスマパパ! あーんなの!>
もぐもぐ。
<父上、あーん!>
もぐもぐ。
「カラスマ、あーん」
ガーネットがシチューを乗せたスプーンを寄越してきた。
ガーネットと目が合うと、奴はぴたりと固まってしまった。
「御前様どうした?」
途中でやめるなら、最初からすんなよこっちまで恥ずかしくなってくる。
「……うん。……あーん」
とガーネット。
「あーん」
と俺。
このシチュー。やっぱりすこしぴりぴりする。
だけど美味いよ、御前様。