第18話 出現! ザ・パワー=テン!
デン侯爵のホワイトナイトが広げる手、その上空、空一面に巨大な魔方陣が広がる。
「さあ顕現せよ! 猛々しき翡翠!」
ずずずず……ずずずずずずず……。
魔方陣の中心が鈍く輝き、水面が泡立つようにボコボコと波打つ。
そこから現れたのは巨大な緑の足だった。
ずずずず……ずずずずずずず……ずずずずずずず……。
巨人の体が、まるで生み出されるように徐々に徐々に魔方陣をくぐりぬけてくる。
その異様な光景に、ガーネットと、ルナリアの目が釘付けになる。ゴウレムを棄てたデン侯爵配下の兵士たちも固唾を呑んだ。
ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉン。
巨大な魔方陣から、全身を現したその緑色の巨人は、ホワイトナイトのすぐ背後に着地する。
身の丈は6メートルはあろうか、一隻の帆船と見まごう程巨大な、全身半透明の緑色、エメラルドのゴウレムだった。
「ザ・パワー=テン……」
ガーネットがうわごとのようにつぶやいた。
ザ・パワー=テンとは、この島に伝わる特別な10体のゴウレムを指す。
黒睡蓮。
始祖の回想。
時渡り。
時の竜巻。
膨れ上がるオパール。
栄華のサファイア。
雄々しき黒玉。
苛烈なるルビー。
猛々しき翡翠。
氷河期の厄災。
文明の興るそれ以前の太古から存在したと伝えられ、いずれも伝説に名を残す10体のゴウレムである。
それぞれが単機で世界を滅ぼしかねない凄まじい力を持っている。
時渡りは、その名の通り、時を渡って過去と未来へ干渉する力と持つとされるが、時を渡る際に起こした膨大な力の暴走によって、都を一つ消し飛ばし、その行方も定かではない。
苛烈なるルビーはかつて自在に火山を噴火させ、島を一つ沈めたと言われる。
氷河期の厄災は人々の心から恐怖を拭うために7の月の6日を暦の上から消し飛ばした。その名は語ることすら禁忌とされている。
そして今、この場に顕現したパワーテンは、今は捨てられた大陸と呼ばれる大地で発見されたものだ。
かつての乗り手が暴走させた挙句、かの地に存在した文明と、その主である古代種ヒトを絶滅に追いやった、呪われたゴウレム。
デン侯爵が呼び出したゴウレムこそ、禁断のパワーテン、「猛々(たけだけ)しき翡翠」そのものであった。
猛々しき翡翠はホワイトナイトを持ち上げると、その背中からデン侯爵を吸い上げ、自らの体に取り込んだ。
瞬間、猛々しき翡翠の節々から、凄まじい光が漏れる。
まるで、今まで眠っていたものが目覚めたかのように、エメラルドがその輝きを増した。
ゲートキーパーは自らの首を押さえつけているバトルアックスを取ろうともがいていたが、猛々しき翡翠から巻き起こった衝撃波にアックスごと弾き飛ばされた。
「さて宴の始まりだ」
猛々しき翡翠の両目が禍々しく光った。




