第17話 ゲートキーパーVSホワイトナイト
ガーネットは、ハングドマンズに拘束されたまま、妹とデン侯爵らの戦いをただ見守ることだけしかできない。
新妻ガーネットの目の前で、その妹をいたぶってたのしむ。
デン侯爵の目論見はいささかあてが外れていた。
「せいやーっ」
ゲートキーパーを駆るルナリアが吼えた。
気合とともに放った長剣の一閃が、リビングプレートの盾を両断する。
「うおおおおッ?!」
囲い込み、圧していたとばかり思っていた侯爵だったが、その実はルナリアに良い練習台を提供していただけだった。
すでに配下の兵士ゴウレム、リビングプレートは、2機が破られ、2機は半壊させられ、
「ひぃぃい! ひぃぃ!」
恐慌状態に陥った最後の一機は戦いの頭数には入っていない。
ルナリアの動かすゲートキーパーは、侯爵の予想をはるかに超え、驚くべき強さを発揮していた。
侯爵のホワイトナイトが、バトルアックスを振り下ろした。
ゲートキーパーが剣で受け止める。
「さすがはザ・パワーナインを破ったゴウレム。将軍を殺したゴウレムか」
「かぁッ!」
受け止めた斧を、剣で押し戻す。気圧されて下がるホワイトナイト。
父親を愚弄され、ルナリアは怒った。
「人違いではなくて? なんのことかはわかりませんが……お褒めに預かり光栄です」
だが、すぐに冷静さをとりもどす。
「勘違いをされているようだな。私はこう言いたかったのだ。……たとえ相打ちとはいえパワーナインの一角を沈めた、かのゲートキーパーが、乗り手次第でここまで落ちるものかとね」
再び、斧と剣が数合、ぶつかりあう。
ホワイトナイトの構えた盾が、ゲートキーパーの一閃で真っ二つになった。
「お見事」
押しているのはルナリアのゲートキーパーだ。傍観を強いられていたガーネットの目にもそれは明らかだった。
ホワイトナイトは、今も見る間に損傷が増え続けている。
「どうなされた? まだ私は戦えますよ」
だが、デン侯爵の声から嘲りが消えることはなかった。
「つぁッ!」
ゲートキーパーの剣がホワイトナイトの胸を捉える。袈裟懸けに切る。
その一撃は、デン侯爵の居るコクピットの位置をわずかにかすめるものであった。
「あははは、これはいい、あははははは。……これは傑作だ」
ホワイトナイトはバトルアックスを下ろした。
デン侯爵はついに笑い出してしまった。
「賊は花嫁を盗む勇気はあっても、他人の命まで取ることはできないらしい」
その言葉にガーネットは、思い知らされる。
だめだ、ルナリアでは勝てないと。
デン侯爵は気付いていた。
ルナリアが倒した配下の兵士達。その誰一人として死んだもの、そして大怪我を負ったものが居ないことに。
彼らの乗っていたリビングアーマーは行動不能なダメージを負っていた。だが、それはいずれもコクピット、操縦席を巧みに避けて繰り出されたものだった。
「才能の使い方が間違っていますな、賊どの。そんなことでは大切な人は誰一人守れないと知るでしょう」
ホワイトナイトに内蔵されたボウガンが展開する。
それは磔にされたガーネットに狙いを定めると、
びゅん。
ガーネットの顔と肩、その合間を掠めて背後の木々を吹き飛ばした。
ガーネットの頬を血が伝い。ドレスは肩から破かれ、片方の乳房があらわになる。
「ほら、こんな風に……」
「うわああああああーッ!」
ゲートキーパーの突きがホワイトナイトのコクピットを性格に狙った。
ホワイトナイトは身をひねってかわす、
ゲートキーパーの長剣が、デン侯爵の顔の間際に突き刺さった。
動くのがあと数秒遅くとも、また早くとも、
致命傷は避けられなかったであろう。
「今私の命を狙ったか。本気で狙ったのか?」
デン侯爵は、首筋に焼けるような感覚を感じていた。
剣に斬られたのだ。
焼ける感覚の後ににぶい痛みがどんどん拡大してゆく。
「許されん、無防備な私をだぞ?」
自分に突き刺さった剣、それを持ったゲートキーパーを、ホワイトナイトは蹴り飛ばした。
続いてバトルアックスが振り下ろされ、ゲートキーパーの肩飾りを斬り飛ばす。
「小娘が、小娘程度が、この私を殺そうとした。……絶対に許せん!」
倒されたゲートキーパーの首に、バトルアックスの槍先が刺さった。
それは地面にささり、丁度首輪を付けられたように、ゲートキーパーの身動きが取れなくなる。
ホワイトナイトが手のひらを天に掲げると、空に巨大な魔方陣が浮かび上がった。
「絶望でお前の心をぶちこわしてやる」




