第160話 終わりと始まり
第160話 終わりと始まり
リングに降り立つ俺とムトーさん。
無言だ。
会話は無い。
「カラスマ!」
「カラスマさま!」
ガーネットとルナリアが迎えてくれる。
ガーネットに近づくムトーさん。
身構えるガーネット。
「……」
ムトーさんは、そのまま、彼女が抱えていたシズルとマズルを抱き上げる。
「彼女達を送ってきたい。すこし待っていてくれるかい?」
「わかりました。こっちも色々済ましておきますんで」
「ありがとう」
ムトーさんはシズルとマズルを抱えて、選手の退場口へと歩いていく。
「……というわけで、俺はムトーさんと戦うことになったから」
「何がというわけなのよ!」
と、ガーネット。
「何で二人が戦わなきゃいけないの?」
「ムトーさんはデン公爵の手下だった。そういうことだよ……」
「……そんなのって……」
「ルナリア」
「はい」
「屋敷でお前を襲ったのは多分ムトーさんだ。だけど、ムトーさんを恨まないでやって欲しい。多分、仕方が無かったんだと思う……」
「……。カラスマさまがそうおっしゃるなら……」
「ありがとう」
本当にありがとう。
「ガーネット、ルナリア。俺を召還してくれて、ありがとう。二人に出会えて俺はすごく楽しかった。俺の人生、すごくろくでもないやつだったんだけど、二人に出会えて、屋敷のみんなと出会えて、なんだかすごく楽しくなったよ」
「……。カラスマ!? 何言ってるの? なんかまるで、お別れを言ってるみたいじゃない!」
お別れさ。
念のための。
いや、多分お別れになる。
なるだろう。
そんな予感がしてる。
<カラスマ殿>
ガーネットの透明なお父さんがしゃべった。
「はい」
<娘達によく力を貸してくれた……。貴殿のおかげで娘達は無事決闘をやりぬくことができた>
「はい」
<この体を、ゴウレムを貴殿に返そう>
「はい」
ありがたい。今は一体でも戦力が欲しいところだ。
<娘達を頼む>
「……それは……」
約束はしかねちゃうんだけど……。
<こういう時は無理でも『はい』と答えるものだ。違うかい?>
「……。はい」
<ではな、カラスマ殿。それと……>
ばきっ。
俺を殴りつける透明なお父さん。
なんで!?
<俺の女に手を出すな!>
そう言って、お父さんは消えてしまった。
……。
んー。
メイド長を揉むのはもうやめよう……かな。
お父さんが居た心臓の位置から、ちぃネットがジャンプしてきて、俺の手のひらに着地する。
戦闘のダメージがあるが、こいつにはもう少しがんばって貰わなきゃな。
「カラスマ様。四式戦装甲をお返しします」
ルナリアが、疾風のアーマーを集めてきてくれた。
「ガーネット」
「なによ?」
「最後に、もう一回ちゅーしてくれない?」
「嫌よ……」
そうか。
「戦いが終わったらしてあげる。だから絶対無事で帰ってくるの。必ず、必ず無事で帰ってくるのよ!!! わかった?」
「ああ」
頷くルナリア。
「じゃあ、二人とも。元気でな」
「カラスマ! 無事で帰ってくるのよ!」
「カラスマさま」
俺はガーネットとルナリアを抱きしめる。
うん、すごくやわかいし、いいにおいがする。
シズルとマズルと送り終えた、ムトーさんが帰ってきた。
「あそこにチャペルが居る。二人とも怪我を治してもらうんだ。さぁ、行った行った」
「カラスマ!」
「カラスマさま!」
俺は二人の背中を押した。
観客席に向かって、二人が歩いてゆくのを見送る。
「済んだかい?」
と、ムトーさん。
「はい」
と、俺。
リングの上で、俺とムトーさんは向かい合う。
ガーネットとルナリアは、ちゃんと観客席に戻ったみたいだな。
「ジャッジ! 聞こえているか?」
『OKブラザー。お前が思い切り戦える舞台だったな』
ジャッジの声が響く。
「頼むよ」
『まかせろ。ちょっと揺れるぞ。館内の皆様。これよりバトルアリーナは少々揺れます。どうかお近くの手すりにおつかまりになるか、その場で身をかがめてください』
ジャッジの宣言の通り、バトルアリーナ全体が振動しはじめた。




