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第146話 爆発するガーネット

第146話 爆発するガーネット


「こんなんじゃ私、戦えない!」


 ガーネットが声を上げて泣いた。


「お姉さま……!?」

 ルナリアが驚く。


「私はさっきまで最高だったの……最高の気分で居れたの……」


 ガーネットはルナリアを見ていなかった。俺だけを見ていた。


「カラスマが、あなたが、私の為に作ってくれたこの子が一緒に戦ってくれるんだもの」


 俺が作ったゴウレム。青い炎、悲しみの瘴気を燃やしているそのゴウレムを抱き上げるガーネット。

 なんか怖い絵面だ……。病んでる感じがする。


「それだけでなんだかすごく満たされていた。誰にも負ける気がしなかった……そうでしょ? あなたが私の為に作ってくれたこの子! あなたが私にくれたこの子と戦うのよ! すごくうれしかった。うれしくてうれしくてたまらなかった……なのに! なのに……でもどうして。今は。もう、なにもかもだめになっっちゃった……。世界が真っ暗になっちゃった……」


「何を言ってるんだガーネット……!?」


 どうしたんだ? いつもの怒りっぽくて自信たっぷりのガーネットはどこにいっちゃったんだよ?


「どうして私の目の前で。私の目の前でしなくたっていいじゃない……よかったじゃない……」


「な。お、落ち着こう? な?」


 24歳が取り乱してるのは正直怖い……。


「落ち着いてなんか居られないわよ!」


「……」


「『大好きな人』……」


「え?」


「『大好きな人』が、大好きな妹とキスをしてるのを目の前で見せられて、平気で居られるわけなんてないでしょ!」


 え?


 大好きな人。大好きな人って今言ったか……。


 大好きな人って……?


 大好きな人……。


 俺のこと?


 俺のことが好き?


 大好き?


 うそ。


 うそだろ……。


 ええ……。


「あ、え、ああ……えええ?」


 びっくりしすぎて変な声しか出ない。


 声が出せない。


 ガーネットはただ、俺が贈ったゴウレムを抱きしめて、顔をくしゃくしゃにして泣いている。


 こういうときは、どうしたらいい。


 どうしたらいい。


 どうしたらいい?


「カラスマのばか! この意気地なし、卑怯者! 人間のクズ!」


 罵倒された。


「こんなにいい女が泣いてるのよ! そばに寄って、涙をぬぐって、やさしいことばをかけて。そんなこともできないの? そんなこともできない甲斐性なしだったの?」


 ゴウレムを落とすガーネット。スタッと着地するゴウレム。


「なんでよ。私……」


 流れる涙を自分でぬぐう。


「なんでこんなクズのことを……好きになっちゃったのよお!!」


「あ、あう、ああ」


 動けない俺。


 その時だった。


 がっ。


 と、ケツを蹴られた。


 痛い。


 超痛い。


 メイド長だ。メイド長に、思いっきり蹴られた。


 つんのめって、前にとととと、と動いてしまう俺の体。


 その先に居るのはガーネット。


 両手を伸ばしたガーネットが、俺を捕まえる。


 飛んで来たガーネットの両手が、がつっと、俺の顔の左右、両方の頬をつかみとる。


「えあ?」

 

「今まで散々、私を好き放題にしてきたんだもの! 今日くらい、今くらい、あなたを好き放題にするわ」


 ひいいい。


「……」


「……」


「……」


「……」


 あれ?


「……」


「……」


「……」


「……」


 ガーネットは俺のほっぺたをつかんだまま。つかんだままで、そのまま動かない。固まってしまっている。


「……」


「……」


「す、……好き放題にしないの?」


「……う、うるさい!」


 真っ赤だった顔をさらに真っ赤にする。茹蛸みたいだ……。


「……」


「……」


「……」


「……」


 俺はガーネットの首の後ろに手を回した。うなじにそっと手を添える。


 ガーネットはそのとたんにびくんと動いて、俺のほっぺたから両手をはずした。


 うなじに回した手に、力をすこしこめて、ガーネットの顔と、俺の顔をゆっくり近づけていく。


 すごくいいにおいがしてくる。


 ガーネットが目を閉じたので、俺もそれに習う。


 唇と唇がぶつかった。


 ようやくキスができた。


 できたのだが、なんだこれ。


 ガーネットが俺の口の中に入ってきたのだが。


 すごい……これは……なんというか……。 


 捕食。


 捕食って表現がいちばんしっくりくると思う。


 捕食。


 食われてる。食われています俺。


 めっちゃ食われてる。


 背筋に電気が走って、背筋の神経が露出してるみたい。


 ガーネットが俺の背中に手を回してきて、その神経を撫でてくる。


 なんだこいつ。


 ものすごくきもちいい……。


 ああ。


 こいつはものすごく良い女だったんだな。


 抱き合って、キスをして、お互い呼吸を忘れていたと思う。疲れるほど舌を絡めたので、そのまま自然と顔が離れた。


「好き放題してくれたな」


「うん! 悪い?」


「いや、最高だった」


 ガーネットの足元に、俺の作ったゴウレムが居る。


 その体が金色に輝いていた。


「カラスマさま!」


 と、ルナリアが来る。


「私にももう一回お願いします!」


 ガーネットの腰に手を回したまま、俺は上半身をかがめて、ルナリアと、短くちゅーをする。


 ルナリアの傍に浮いていたちぃネットも、金色に輝き始めた。


「これでもう、今度こそ。大丈夫だよな? 二人とも」


「ええ」

 と、ガーネット。


「はい」

 と、ルナリア。


「じゃあ、行って来い! 必ず無事で帰って来い!」


「わかったわ」


「はい!」


 金色に輝く2体のゴウレムを引き連れて、二人は闘技場へと進んでいった。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 残された俺は、そこで尻餅をついた。


 なんというか、もう立っていられない。


 びっくりしたやら、気持ちよかったやらで……。


 腰に。


 腰に力が入らないのだ。


「メイド長、ハウ、ごめん。ちょっと助けて。俺を観戦席まで運んでくれないか……?」


 メイド長とハウがやってくる。


「本当に情けない男、クズですね。あなたは……」


 メイド長に引っ張ってもらって、ようやく俺は立ち上がることができた。


 さぁ、いよいよ二人の決闘が始まる……。

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