第144話 誤算
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第144話 誤算
ベルン男爵邸。
カラスマが眠りについた後、決闘の日を二日後に控えた日のことだった。
「ぬんッ」
ラヴァーズが刀身に気合いを込める。
日本刀。八相に構えた刀身に爆炎がまとわり付いた。
対峙するのはガーネットとルナリアだ。
二人が操るゴウレムがそれに対峙する。
「鋭ッ」
刀を振りかぶるラヴァーズ。
刀の爆炎が、数十の炎の弾丸、炎の嵐となって、ガーネットと、ルナリアを襲う。
「はあッ!」
「たあッ!」
二人は、それぞれが操るゴウレムを炎の嵐に飛び込ませた。
炎の弾丸が、次々と、二人の操るゴウレムに撃墜されてゆく。
その瞬間だった、招かざる闖入者が現れたのは。
突然ルナリアの四方の土が盛り上がる。その中から猟犬のようなゴウレムが這い出す。ルナリアを取り囲むように猟犬のようなゴウレムが現れた!
猟犬達はルナリアに飛び掛る。
<きゃいん……>
一体は飛び出したハウのとび蹴りによって、土くれへと変わった。
<きゃいん……>
もう一体はメイド長のかかと落としによって、無力化された。
<きゃいん……>
さらにもう一体は、ガーネットのゴウレムが踏み潰した。
だが……。
<ぐるおおおおお!!>
最後の一体、ルナリアの正面から現れた猟犬ゴウレムを止めるものは居なかった。
「あッ……」
猟犬ゴウレムが、ルナリアの喉元に開いた顎を、よだれをしたたらせた牙を伸ばしたその時だった。
「ぴきゅー!」
シリコンスライムだ。
ルナリアがかわいがっていたシリコンスライムが、主人の窮地を救うために飛び出したのだ。
次の瞬間。
ばしゃん。
ルナリアの目の前で、シリコンスライムが爆ぜた。
シリコンスライムは自ら猟犬ゴウレムの口の中に飛び込み、主人を救ったのだ。
「鋭ッ!」
ラヴァーズがかまいたちを繰り出した。
シリコンスライムを噛み砕いた猟犬ゴウレムが空気の剣によって真っ二つに両断される。
倒された猟犬ゴウレム達は、次の瞬間その姿を土の塊に変えていた。まるで最初から居なかったかのように。
「シリコンスライムさん!」
ルナリアは、シリコンスライムが噛み砕かれた場所に駆け寄る。
そこには水溜りがあるだけだった。
「そんな、シリコンスライムさん! シリコンスライムさんが……」
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「誰の差し金かは知らぬ……知らぬが無粋。まこと無粋の極みよな。……のぅ御仁?」
ラヴァーズはその場に居合わせた男に問いかける。
「……」
男は何も答えなかった。
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「そんな……そんな」
ルナリアは目の前の水溜りに手を伸ばす。
両手で、水をすくいとる。
粘りのある水がばちゃばちゃと手からすべり落ちるだけだった。
「だめです! そんなのだめです!」
ルナリアは羽織っていたサマーセーターを脱いで、水溜りに押し当てた。
サマーセーターが泥水となったシリコンスライムを吸い込み、土色に変色していく。
水を吸いとり、重くなったサマーセーターを抱き上げるルナリア。
「誰か助けてください! シリコンスライムさんを助けてください!」
その場に居た人間達が、自然とルナリアを取り囲んでいた。
「見せてください」
チャペルが声を上げた。
チャペルはルナリアが抱えたサマーセーターに向かって手を押し付ける。
「我が神、主サンマルティーノよ、彼のものに癒しを与え、その命を救いたまえ……ヒール!」
チャペルの手がやわらかい光に包まれ、それがルナリアの抱えるサマーセーターに伝播してゆく。
サマーセーターが光に包まれ、それがふっと掻き消えた。
……サマーセーターは重たい泥水を含んだままだ。その中からシリコンスライムが這い出てくる様子はない。
「チャペルさま!」
と、ルナリア。
「手ごたえはありました。ですが、すみませんルナリアさん。不定形生物、それも形を失ったものに回復魔法をかけたのはこれが初めてで……」
「チャペルさま……」
「ルナリア、チャペル様にご迷惑をかけてはいけないわ」
ガーネットが、ルナリアの肩に手を置く。
「お姉さま! でも、シリコンスライムさん! シリコンスライムさんが」
ルナリアの頬を涙が伝っていた。
「ルナリア……」
「あー、ちょっと。僕にも見せてほしいッス」
フィッシャーが手を上げる。
「出番ッス! キャンプマスター」
呼ばれたキャンプマスターがフィッシャーの横に立った。
フィッシャーとキャンプマスターは、ルナリアが抱えたサマーセーターを見る。粘液を吸ってぐずぐずになっているサマーセーター。
「これは……もしかしたらイケるかもしれないっス。どうっスか? キャンプマスター」
「スライムの生態は謎に包まれているんだが、再生を望めるかもしれないな」
「……? あの? シリコンスライムさんは助かるんですか?」
笑顔になるフィッシャーとキャンプマスター。
「ルナリア様。ナマコはご存知ですかッス?」
なまこ。海に住む生き物だ。
「知っています。カラスマさまが酢の物がお好きなんです」
こりこりして美味しいと、カラスマが夕食で食べていた。
「なら話ははやいッス! ナマコは敵に襲われると体を硬くして身を守るッス」
「はい……」
「でもそれでも駄目ならどうするかというと、なんと体を液状化させるッスよ」
「液状化!?」
今のシリコンスライムと同じ状態だ。
「液状化したナマコは海中にいるとだんだんその形を復元させていって数日後には元通り復活するッス」
フィッシャー。釣りが趣味ならではの男の知識だった。
「スライムの生態は未だにわかっていないのだが、一度倒されて水溜りになったスライムが、数日後元通りになったという話は聞いたことがある。野営地を築くためにザコモンスターを掃討していたのだが、倒したはずのスライムがテントの下で不思議と甦っていたというケースはな」
キャンプマスター。野戦の経験が豊富な男。冒険者ギルドではB級バッジを持つ斥候職でもある。
「それじゃあ、シリコンスライムさんは!?」
「助かる可能性は十分にある。ただし乾燥させないことだ。干からびてしまっては本当に消えてしまうからな」
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ベルン男爵邸、浴場スペース。
ルナリアとガーネット。そして二人のために集まった援軍たちが総出で詰め掛けている。
ルナリアはシリコンスライムを含んだサマーセーターを大鍋に入れ、その鍋に新鮮な薬草をたくさん入れると、フタをとじた。
そして、その大鍋を浴場スペースに置いた。
浴場のすべての湯船には水が張られている。
「これだけ湿気があるなら渇きはしないだろうッスね」
と、フィッシャー。
「あとはそのスライムの生命力にかけるだけだ。なぁに、滋養となる薬草をあれだけ入れたんだ。心配することはないだろう」
と、キャンプマスター。
「念のため、回復魔法を重ねがけしておきますか」
と、チャペル。
「みなさま! みなさま本当に、本当にありがとうございます!」
ルナリアは涙が止まらなかった。
「ルナリア。良かったわね」
ガーネットがルナリアを抱きしめる。
「お姉さま、はい!」
「ガーネット殿」
ラヴァーズだ。
「僭越ながら。決闘の期日までわずかとなった。お二人の残りの時間は休養に当てられるとよろしかろう」
「ラヴァーズ様。そうさせていただきます」
「賊がいつまたくるやも知れぬ。我らがこの屋敷を守ろうではないか? カラスマ殿の代わりにな」
『おう!』
その場に居た全員が声を上げた。
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決闘。当日。
ガーネットとルナリアは屋敷を出てバトルアリーナへ向かう。
ラヴァーズ達が眠ったままのカラスマを担いでそれに同行した。
「うりうりズラ、こいつ本当に起きねぇズラなぁ」
と、ズーラン。
「眠っている顔は、多少は愛嬌があるのですがね」
と、メイド長。
「みなさん、カラスマさまを玩具にしないでください!」
むくれるルナリア。
談笑するルナリアの顔に緊張や気負いはなかった。
その時までは……。
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カラスマは関係者控え室に運び込まれた。
「ガーネット。死ぬなよズラ!」
ガーネットとルナリア。そして、身内であるメイド長とハウを残して、帯同者達は観客席へと向かった。
控え室は、屋敷の家族だけになった。
ガーネットとルナリアは眠るカラスマの顔を見る。
「大丈夫ルナリア? あのセーターが無くても平気?」
「平気ですお姉さま。私にはちぃネットが居ますから!」
「そう」
そして決闘の時刻となった。
「行って来るわカラスマ」
ガーネットがカラスマの頬を撫でる。
「行って来ますカラスマさま」
ルナリアもそれに習った。
「メイド長はここでカラスマの様子を見ていてくれない? あなたが居てくれれば私達は安心して戦いに望めるわ」
「承知しました御前様」
「では。行って来ます」
ガーネットはルナリアの肩を抱いて、控え室を後にする。ハウがそれに続いた。
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ハウの先導で、二人は廊下を進む。
だが、廊下を進むほど、カラスマの居る控え室から離れるほど、ルナリアの頬を伝う冷や汗が増えていった。
体の震えが止まらなかった。
観客席の喧騒がどんどん大きくなる。
まもなく闘技場、あと数歩で決闘の場というところで、ルナリアはついに歩けなくなった。
「あれ? おかしいですお姉さま。体の震えが止まりません。足が動かないんです。力が入らないんです……」
「ルナリア……」
「お姉さま……」
「立ちなさいルナリア。それが私達の役目でしょう? 決闘に勝つ。そして、カラスマが起きた時、笑って迎えてあげるの。そうするために、私達はアイツから力を貰ったじゃない……」
「ええ、お姉さま。でも……ごめんなさい。私、こわくて。こわくてたまらないんです。カラスマさまが居てくれないんです」
「御前様!」
二人の背後から、声がかけられた。
メイド長が立っていた。
「メイド長……」
「御前様。お嬢様。ただいまカラスマを連れてまいります。どの様な手段を使ってでも奴を起こします。お待ち下さい」
「メイド長。……でも」
涙が止まらないルナリア。
メイド長は姿を消した。
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そして、カラスマを連れてきた。
「カラスマ?」
「カラスマさま……?」
信じられないと言った顔で、二人がカラスマに声をかける。
「すまない。さっき起きれたんだ」
「カラスマさま!」
ルナリアが、立ち上がり、震えながらカラスマに近づく。
そして、そのまますがるように抱きついた。
「ルナリア、……お前。サマーセーターはどうした?」
「それが……」
サマーセーターを失った顛末をカラスマに伝える。
「そうか……」
「あれは私のお守りだったんです。お守りがなくなっちゃったんです……。なくなっちゃったんです。カラスマさま、私うごけなくなりました。うごけなくなっちゃいました。どうしたら……どうしたら……」
「わかった……」
カラスマはルナリアを抱き起こすと、その頬に触れる。
「今から新しいお守りをやる」
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