第116話 ハウの1日
第116話 ハウの1日
ハウ・ジャガー。
ジャガーの獣人。
ベルン男爵家の食客にして警備員。
年齢不詳。
今回は、このだいたい「わからん」と「ごはん」しか喋らない謎の獣人の1日を追いかけてみよう。
朝。
「わからん」
ハウの朝は早い。
日の出とともに起床する。
昨晩の寝床に選んだのはカラスマの部屋だ。
カラスマはよく寝ていた。
起こしても起きない。
最近はこの異界人を枕代わりに使うのが彼女のお気に入りだった。
夜と翌朝とで枕の大きさが変わるのが面白い。
軽く柔軟運動をして、屋敷の玄関広間へ移動する。
そこで寝る。
再び寝る。
「ハウ、朝ごはんの時間ですよ」
メイド長が起こしに来る。
「ごはん!」
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朝。食堂。
「「いただきます」」
主人と、もう一人の主人が朝餉の挨拶をする。
「ごはん、ごはん、ごはん!」
今朝の朝食はトーストと、卵料理。野草のスープ。今日は館の主人が当番で作ったものか。
異界人が居ない日は、どこか食事が手抜きになるなとハウは思う。
「ハウ、ゆっくり食べなさい」
同僚が牛乳を注いでくれる。
ありがたい。
「今日はカラスマ様は起きますかね。起きたらいいなぁ」
と、主人。
「そろそろ起きてくるんじゃないの? 何にも食べないで寝っぱなし、さすがにお腹もへってくるころでしょ……。しかし、どうなってんのかしらねあいつの体」
と、主人。
「すごく大きかったですね」
と、主人。
「そ、そういう意味じゃなくてね」
と、主人。
「何が大きかったのですか?」
と、同僚。
「な、なんでもないわメイド長」
と、主人。
こいつら最近異界人の話しかしないなぁと、ハウは思う。
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食後。
「一週間お疲れ様ハウ。今日は屋敷の警備はメイド長に任せて1日休んで頂戴」
「わからん」
久しぶりのオフだ。何をしよう。
考える。
とりあえず玄関ホールに移動する。
そこで寝る。
ひたすら寝る。
「ハウ、昼ごはんの時間ですよ」
メイド長が起こしに来る。
「ごはん!」
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昼。食堂。
「「いただきます」」
主人と、もう一人の主人が昼餉の挨拶をする。
「ごはん、ごはん、ごはん!」
昼食はオートミールと、野草のスープ。
異界人が居ない日は、どこか食事が手抜きになるなとハウは思う。
「ハウ、ゆっくり食べなさい」
同僚がジュースを注いでくれる。
ありがたい。
「カラスマ様は起きてきませんね。異界人の方って皆様ああなのでしょうか?」
と、主人。
「んー。ムトーさんは違うみたいだし。あいつだけなんじゃないかしら……一回医者に診せようかな」
と、主人。
「確かにあれは心配です。あんなになるのはきっと病気です。お医者様に診ていただいたほうがいいと思います」
と、主人。
「そ、そういう意味じゃなくてね。ああでも……あれは診せたほうがいいのかしら……あんなのどう考えたっておかしいし……」
と、主人。
「カラスマの何を医者に診せるのですか?」
と、同僚。
「な、なんでもないわメイド長」
と、主人。
こいつらやっぱり異界人の話しかしないなぁと、ハウは思う。
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食後。
昼食を食べてお腹もふくれた。
久しぶりのオフだ。何をしよう。
考える。
とりあえず玄関ホールに移動する。
そこで寝る。
「ハウ、お使いを頼まれてくれませんか?」
メイド長が来る。
「ごはん!」
「おやつは300エンまででどうでしょう?」
秘密の符牒だ。
「わからん」
了解したと告げる。
「ではお財布と、お買い物のメモです。買い物かごも」
財布はずしりと重い。メモには帝国軍で使われていた暗号のすかしが入っている。買い物かごの二重底には受け渡しの品も入っているのだろう。
「わからん」
「晩御飯までには帰ってきてください」
ハウは玄関を出て丘をくだった。
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デニアの街の市場をぶらつく。
メモに書かれた食材を買い込む。
歩いていると通行人と肩がぶつかる。
買い物かごを落とす。
中身がすこし散らばった。
「ああ、これは失礼、お怪我はないですか?」
「全然」
と、ハウ。
「それはよかった。空模様がよくないので、上を見ていたんです。今夜は雨が振らないといいんですが……」
「わからん」
血の雨が降るだろう。
符牒を交し合う。
通行人が、散らばった荷物を拾ってくれる。ハウは受け取る。
その際、二重底にしまった受け渡しの品を通行人が懐に入れる。暗号文のメモも一緒だ。皇女殿下の近況が書かれている。
受け渡しの品は、宝石と希少鉱石を詰めたものだろう。先日、帝国軍残党にビッグバトルに賭ける金を融通してもらった。それを返還するのだ。
「食材が痛んでしまったと思います。お詫びをさせてください」
「全然」
「そうおっしゃらずに」
ベンチに座るハウ。
通行人がケバブを買ってくる。
ベンチに座る通行人。
ケバブを渡す。
「これは私のおごりです」
「わからん」
硬貨を支払おうとするハウ。
「いえ、私の気持ちですので、お代はいただけません」
「わからん」
と、硬貨を渡す。
「そうですか、では」
渡した硬貨は白金貨を数枚。一万エン金貨より高額の貨幣だった。それを数枚。これはこの連絡員への給与である。
「ごはん」
ケバブを食べる。
うまい。
「デニアの街も変わりませんなぁ。ですが、お国は税をひきあげるとか」
デン侯爵家に動きは無い。だが、本家に不穏な動きがある。警戒されよ。
ハウの目が一瞬だけ昔のものに戻る。
今は無き帝国の陸軍師団長。自らの語彙、言葉を戦神に捧げることで常人離れした狂戦士の力を得た彼女を帝国の将兵達は、戦場の悪鬼、血の雨のハウ・ジャガーと呼んだ。
「わからん」
了解。引き続き監視を頼む。
「ごはん!」
ケバブのつつみをくしゃくしゃにするハウ。
「え、わたしのゴミも? これはどうもお嬢さん」
通行人からケバブのつつみを受け取るハウ。つつみに混ぜて、連絡用の暗号文を書いた紙を受け取る。帝国軍残党からの報告書だろう。
「ごはん!」
「いえいえ、それではお気をつけて」
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夜。食堂。
「「いただきます」」
主人と、もう一人の主人が夕餉の挨拶をする。
「ごはん、ごはん、ごはん!」
夕食は小さめの焼き魚とバケット、野草のスープ。
異界人が居ない日は、どこか食事が手抜きになるなとハウは思う。
「ハウ、ゆっくり食べなさい」
同僚がワインを注いでくれる。
ありがたい。
「お姉さま、さっきはカラスマ様の部屋に入って何をしてたんですか?」
と、主人。
「ちょ、ちょっと様子を見てただけよ。いい加減起きないかなって。ルナリア、あなたこそカラスマの部屋に入ってきて何をしようとしていたの?」
と、主人。
「わ、私もちょっと様子を見に行っただけです。カラスマ様が起きてないかなって」
と、主人。
「お二人とも、カラスマの様子を見る回数が多すぎませんか?」
と、同僚。
「メイド長こそどうして私達がカラスマの様子を見に行ってるって知ってるのよ」
と、主人。
「そ、それは……」
と、同僚。
こいつら異界人の話しかできないのかなぁと、ハウは思う。
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食後の食堂。
「お疲れ様でしたハウ」
と、同僚。連絡員から渡されたメモを持っている。
「全然」
「デン侯爵家の本家というと公爵家ですか」
「わからん」
「残りの四天王を呼び集めるか……、あるいはどこかでカラスマを戦力に引き入れる。その時が迫っているのかもしれませんね」
「ごはん」
「おやつは300エンまでです。今日はもうありませんよ」
「わからん」
ちぇっ、とハウは悪態をつく。
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深夜。
風呂に入り終えたハウは今夜の寝床を探す。
庭の木の上もいいがまたあの異界人を枕にするのもいいだろう。
朝になると枕の大きさが変わるのが楽しい。
ハウはあくびをすると、異界人の部屋に向かった。
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