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第9話 真実への道

2018年7月24日 東京都 防衛省市ヶ谷駐屯地


無機質な部屋の中にある時計は、5時を指していた。

午前なのか午後なのかはわからない。

熟睡した感覚があることからも、おそらく午後だろう。

いつも目覚めは悪い方だったが、今回は不思議と体が軽い。


あの戦いの後、自衛隊に誘導されてこの場所に来た。

「とりあえず休息を取れ」と言われてこの部屋に4人で招かれ、疲れからそのまま熟睡してしまい、現在に至る。


「よう、やっと起きたか」


突然話しかけられ、寝ぼけたまま声の方に振り向くと、そこにはあの金髪の少年がいた。


「お…お前!」

「何驚いてんだ。お前らが来いって言ったんだろ」


峰人は一歩後ずさるが、少年の目から敵意は感じられない。


「いや…起きるの早いなって思って」

「お前が遅いだけだろう」


セーネと隼太は、未だに気持ち良さそうに熟睡している。

つまり今この空間には、峰人と少年しかいないということだ。

この少年とは戦ったことはあれど、まともに話し合ったことはない。


「…で、お前の名前は?てかそもそも名前ある?」


峰人は恐る恐る聞いてみる。

気難しそうな人間と話すのはどうも苦手だった。

「お前になど教えるか」なんて言われれば、それ以上話せなくなる。


「…エアル」


意外にも、少年は素直に答えた。


「エアルか…俺は峰人。旭峰人だ」


この少年…エアルは、よくよく見れば端正な顔立ちだった。

ひょっとしたら隼太よりも上かもしれない。


「…そんなことを話してる場合じゃない。俺たちは今囚われの身だ」

「え?」


エアルの言葉に、峰人は少し驚く。

囚われの身とはどういうことだろうか。


「この部屋は外から施錠されてて、出られないんだ」


エアルは真剣に訴えかける。

だが、峰人は冷静だった。

おそらく、自衛隊は警戒しているのだろう。

敵でないことは示したとはいえ、人知を超えた力を持った少年少女が3人もいるという状況だ。

自由に歩き回られるわけにもいかない、ということか。


「大丈夫だ。自衛隊は俺たちを殺したりはしない」

「何でそう言える?」

「連中もドラゴンや竜騎士について知りたいはずだ。殺しても損にしかならない」


峰人の説得に反論が思いつかなかったのか、エアルは口をつぐんだ。

それっきり2人の会話は途切れてしまい、沈黙が部屋を包む。


「ようお前ら、起きてたのか」


妙に明るい調子の声が、その沈黙を破った。

隼太がようやく目覚めたようだ。


「ようお前、初めて話すな」


そう言いながら、隼太は躊躇なくエアルに近寄っていく。


「名前はエアルでいいのか?」

「どうしてそれを…」

「お前の相棒の黄色いドラゴンいるだろ?あいつが"エアルと最後まで戦い抜く"みたいなこと言ってたから」


峰人は少し感心した。

隼太は意外と洞察力に優れているのかもしれない。


「…そうだ!セイバー!」


エアルは突然そう叫ぶと、耳に手を当てて誰かに呼びかけ始めた。


「きっとテレパシーだ」


若干引いた様子の隼太に、峰人は教えた。

セイバーとはあの黄色いドラゴンの名前だろう。


「セイバー…おい大丈夫か!?返事しろ!」


エアルはだんだん語気を強める。それだけ心配している、ということだ。


『…ん?あぁ、エアルか。僕は大丈夫だ。それより聞いてくれよ!グリフォスって意外といい奴なんだ!』


返ってきたのは、拍子抜けするほど軽い調子の声だった。

とにかく、無事なことは確かなようだ。

その事実に、エアルはほっと胸を撫で下ろす。


「…おいグリフォス、今何してんだ?」


エアルに続いて、峰人もテレパシーを飛ばす。


『よう峰人、起きたみたいだな。今自衛隊と異種族間交流中だ』


異種族間交流とは一体なんだろうか。突拍子もないことをしてなければいいが。


「…ってかお前はいつまで寝てんだよ!」


そう言って隼太は、未だに夢の中にいるセーネの頭をはたく。


「ふぇっ!?何です!?朝ご飯の時間ですか!!?」


寝癖でボサボサの髪をしたセーネが、布団から飛び起きる。

笑わせにきたのかと思ってしまうような髪型だ。


「ま、とりあえずこれで全員起きたか」


そう呟くと、峰人は今後について考え始めた。力ずくで脱出する、というのはまず論外だ。

ならばどうするべきか…。


だが、それを考える必要はなかった。

不意に、ガチャッという音とともに部屋の扉が開かれる。


「全員起きたか?もう出ていいぞ」


その声とともに、警備兵と思しき男が顔を覗かせた。






グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

市ヶ谷駐屯地の敷地内に、ドラゴンの勇ましい咆哮が響く。


「おおおおおおおおおお!!」


周囲でそれを見ていた人間たちが、一様に歓声を上げた。


「すっげぇ…本物のドラゴンだ」

「まさか本当にいたとは…」

「めっちゃ格好いい…」


グリフォスの周囲に集まっていた自衛官たちが、子供のように目を輝かせている。

セイバーやメフィアの周囲にも、同じように人が集まっていた。


「なぁ、ちょっと乗ってみてもいいかな?」


1人の自衛官が、恐る恐るグリフォスに尋ねる。


「ははは!いいぞ石丸(いしまる)!」

「勇者ですね一曹!」


石丸一曹の勇気とも無謀とも言える申し出に、周囲がさらに盛り上がる。

するとグリフォスは、自らの首を差し出し、軽く目配せをする。

「乗れ」という合図だ。

石丸は少しずつ、ゆっくりとグリフォスの首に跨る。

完全に乗ったのを確認すると、グリフォスは一気に頭を持ち上げる。

石丸一曹は今、ドラゴンの背に騎乗していた。


「凄いです石丸一曹!!」


その光景に、盛り上がりは最高潮に達する。


「おいお前ら…何馬鹿なことしてんだ」


それを一瞬で沈めたのは、八重山の一声だった。

だが歓声がやんでも、自衛官たちは依然としてドラゴンに興味津々だ。


「石丸…一体何をしてるんだお前は」

「あっこれはその…」


グリフォスの上に乗って遊んでいる石丸を、八重山が少し責めるような目で見つめる。


「何だ?乗りたいなら乗せてやるぞ?」

「いや…俺はいい!」

「あれ一尉?もしかして本当に乗りたいんじゃないですか?」

「な…馬鹿を言え!」


八重山と石丸が言い合っていると、解放された峰人たちがやって来た。


「おい、あれが例の竜騎士じゃないか?」


その場にいた人間すべての視線が、峰人たちに注がれる。


「え…何でこんなに注目されてるんです?」

「そりゃあ、あんだけ派手に戦えばな…」


自衛官があっという間に4人を取り囲む。まるでアイドルのサイン会だ。


「やあ、俺は石丸秀久(ひでひさ)!会えて光栄だよ!」

「ドラゴンに乗ってる時ってどんな感じなんだ!?」

「どうやって戦うんだ!?」


嵐のような質問攻めに、峰人とセーネは困り果ててしまう。エアルは表情一つ変えず、それらを黙殺している。

そんな中隼太だけは、意気揚々と質問に応じていた。


「おいお前ら!いい加減にしないか!」


見るに見かねた八重山が、鶴の一声で全員を黙らせる。

4人の周囲から、ようやく人がいなくなった。


「竜騎士諸君、一緒に来てくれ。ドラゴンもだ」


八重山に、峰人、セーネ、エアルがついていく。


「…あれ?隼太は?」


峰人が振り返ると、隼太はスマホを持って、楽しそうにポーズをとるセイバーと石丸を撮影していた。


「石丸!!!」


再び八重山の怒りの声が轟く。




案内されて場所は、かなり大きめの格納庫だった。

ドラゴンのサイズを考えてのことだろう。

周囲には、自衛隊の車両や兵器がずらりと並んでいる。

八重山たちに続いて、3体のドラゴンがのしのしと中に入ってくる。

その光景に、作業中だった整備士たちはただ驚愕していた。

しばらく進むと、そこには白い制服をしっかりと着込んだ、初老の男性の姿があった。


(はやし)統合幕僚長」


八重山が姿勢を整えて敬礼する。

統合幕僚長…つまり自衛隊の実質的なトップだ。


「やぁこんにちは、君が旭峰人君だね?」


林が、笑顔で握手を求める。

峰人はそれに応えて、自身の手を差し出した。

優しそうな表情とは反対に、その握手はとても力強かった。

他の3人とも、順に握手をしていく。


「まずは掛けてくれ」


峰人は用意されたパイプ椅子に座る。

格納庫での会議など想定していなかったようで、椅子もテーブルも急ごしらえのものだ。

全員が座るのを確認すると、林も向かいの椅子に掛ける。

それは向かい合って座る5人の人間を、3体のドラゴンが見下ろしているという、何とも珍妙な光景であった。


「さてと、君たちにいくつか質問したい。まずは…この世界に一体何が起こっているんだ?」

「戦争に巻き込まれた…と言っておこう」


質問に答えたのはグリフォスだった。


「戦争?」

「そうだ。人類を支配しようとするギデオン軍とのな。六山でお前たちを襲ったのは、そのギデオン軍だ。俺たちの世界は、その戦争によって滅亡した」


グリフォスは、持てる全ての情報を林に話した。


「1946年に、そのゾルダーと戦ったのか?」

「あぁ、俺はその戦いで長い眠りについた」

「それで、ゾルダーを三原山に封印したのだな?」

「その通りだ」


林は手で口を押さえ、目を細める。その表情は、じわじわと険しくなっていった。


「そのような戦闘記録は聞かされていない。その話が事実なら、アメリカは事実を隠蔽していることになる」


隠蔽があったとすれば、日本政府も事実を知らない可能性が高い。アメリカから全てを聞き出すのは、至難の技だ。


「待った。ゾルダーはオリジン・ストーンを探していた、と言ったな?」


話を遮って、八重山がグリフォスに質問する。


「ああ」

「統幕長、ひょっとすると、八丈島で見つかった遺跡と何か関係が…」

「ああそれ、俺知ってます。確か何も見つからなかったんですよね?」


隼太がそう指摘するが、八重山はさらに続ける。


「確かにそうだが、無関係とは思えない」


隼太はポケットからスマホを取り出し、画像を探し始める。


「あった!これだ」


画面には、人工的なものと思われる洞窟を進む調査員の画像が映し出されていた。

スクロールすると、壁画を写した画像に変わった。


「これって…」


峰人とセーネが、驚きの声を上げる。

そこに刻まれていたのは、魔法陣のような、円の中に幾何学模様がある紋章であった。

竜騎士の手に現れる紋章と全く同じものだ。


「間違いない…ここにオリジン・ストーンがある!」


セイバーが興奮した調子で叫ぶ。


「じゃあ、ここには間違いなくギデオン軍が来る…?」

「ああ、もしかしたら幹部級を討ち取れるかも」

「セイバー、南へ飛べ!」


そんな話をするとエアルとセイバーは、格納庫を飛び出して瞬く間に空の彼方へ去ってしまった。


「あいつら…どれだけ気が早いんだ」


グリフォスは呆れた調子で言う。


「まあとにかく、我々は接触できそうな米国の重鎮を探ってみる。政府と外務省に連絡しろ」

「了解しました」


林が八重山に命じ、自衛隊もすぐに動き始めるが、諜報活動の類であるため、峰人たちに出来ることはなかった。




会議が終了すると、3人と2体は外に出て、深呼吸をした。

空にはもう月が昇り始めている。

峰人と隼太の家族には、政府を通じて事情が説明されたそうだ。

どんな反応をしたかは想像に難くないがーーー。


「ギデオン軍の目的は、ゾルダーを復活させることじゃないでしょうか」


セーネが、不安げな声で切り出す。

ゾルダーがギデオン軍のボスならば、そう考えるのが自然だろう。


「十分あり得るわね」


メフィアがその意見を肯定する。だが峰人としては、是非とも否定してほしいところだった。

もしそんな強敵が現れれば、あっという間にミンチか焼肉にされてしまう。


「でも、七聖竜(しちせいりゅう)のうちの1体であるグリフォスを仲間にできたことは、不幸中の幸いでした」

「ちょっと待て、俺はお前らの仲間になったつもりはないぞ」


その会話を聞いていた峰人の中に、新たな疑問が浮かぶ。

聞いたことのない単語があったためだ。


「なあ、七聖竜って何だ?」

「ドラゴンという種族の中でも、最強と言われる7体のドラゴンのことよ」


答えたのはメフィアだった。

つまり…グリフォスが最強のドラゴンのうちの1体ということか?


「え…じゃあこいつ結構凄いドラゴンだったのか!?」

「だからレジスタンスは彼を何度も誘ったのよ」


確かに、グリフォスは他のドラゴンよりも強かった。

ようやくその理由が分かった気がする。


「じゃあ、もしゾルダーが復活しても何とかなりそうだな」

「あー…残念ですがゾルダーも七聖竜です」

「マジかよ…」


僅かに生まれた希望は、花火のように儚く消え去った。

相手も同じ称号を持っていたのでは、何のアドバンテージにもならない。

峰人の表情が、再び暗くなる。


「まぁ…ゾルダーを復活させなければいい話ですから」

「そうか…そうだよな!」


セーネの言葉で、無理やり笑顔を作り、自分を納得させる。


「おい、接触できそうなアメリカ人が見つかったぞ」


八重山の声だ。

あれからまだ1時間ほどしか経っていないのに、もう見つかったというのか。


「在日米軍の元司令官で、幸いにも退役後はずっと日本に住んでいたようだ」


そう言いながら、八重山は峰人たちにその男に関する資料を見せる。

しかし、経歴やら何やらが細かい字でズラズラと書かれているばかりであり、しかも半分ほどは英語だ。見ただけで読む気を無くす代物であった。

峰人は一応資料を手に取ったが、適当に目を通してさっさと隼太に渡す。

男の情報になど誰も興味は無さそうだった。

だが、グリフォスだけは違った。


「おい、名前をよく見せてくれ」

「え?ほい…」


隼太は不思議に思いながらも、資料をグリフォスの方にかざす。


「おい嘘だろ…」


グリフォスは言葉を失った。

"ジャック・テイラー"、資料にはそう書かれていた。









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