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第19話 決着

グリフォスとゾルダーはお互いに火炎や光線を放ちながら、縦横無尽に飛び回っていた。

グリフォスは明らかに体力が落ちており、徐々にスピードにも陰りが見え始めている。

その後ろから、ゾルダーが迫ってくる。


「どうした?お前にしてはあり得ないくらい遅いな!」


ゾルダーは鉤爪を立てると、そのままグリフォスの翼を切り裂いてしまう。

グリフォスはバランスを失って落下し、高層ビルに激突する。

周囲を見渡すと、この周辺だけ建物が残っているのがわかった。

上には、次元転移装置が浮遊している。幸いにも、まだ再起動はしていないようだ。


向こうの方から、紫色の光が急接近してきた。ゾルダーの火球だ。


「チッ…ちょっと待てよ」


グリフォスはビルから体を剥がして自ら落下し、それを回避する。

火球の直撃を受けたビルは上半分が大爆発を起こし、瓦礫となって下にある建物に降り注いだ。

ゾルダーは、別のビルの最上部に取り付き、こちらの様子を見つめている。

グリフォスの体は、乗り捨てられた車を潰しながら道路に叩きつけられた。

周りに人はおらず、完全にゴーストタウンと化している。

ゾルダーが火炎を周囲に放ち、それがわずかに残った建造物に容赦なく降り注ぐ。

道路も、車も、線路も、ビルも瞬きをする間に吹き飛ばされ、グリフォスの倒れている場所以外は火の海と化す。

"これでチェックメイトだ"とでも言いたいのだろう。


「さらばだグリフォス。偉大なる勝利は我らのものだ」


ついにゾルダーは、グリフォスのいる場所に最大出力の火炎を放った。

グリフォスも命の全てを燃やすかのように、最後の光線を放つ。

火炎と光線が空中で激突し、強烈な光を発生させる。

それは過去数百年の戦いを象徴するような、力強く、様々な色が入り混じった光だった。

しばらくは完全に互角で、衝突によって出来た光の玉は空中で静止する。

だが徐々に、グリフォスの光線が押されていく。

グリフォスの力はピークを越え、少しずつ威力が低下していた。全身の力が抜け、光線が細くなっていく。意識が朦朧とし、思考が働かなくなる。

ゾルダーの炎が、ゆっくりとこちら側に迫ってくる。

それを何とか抑え込んでいる光線も、もはや風前の灯であった。


ーー終わりだ、グリフォス。


遠く意識の中で、ゾルダーの声が聞こえた気がした。

実際にそう言っていたのかは分からない。

死は目の前に迫っている。

結局、ゾルダーを倒すことはできなかった。

何か卑劣な手を使われた訳ではない。

単に相手の方が実力が上だったというだけだ。

勝敗に関して言うことは何もない。

今心に浮かぶのは、自分が死した後の世界だ。

この世界の人間ならば、あるいはゾルダーを滅ぼしてくれるかもしれない。

その希望に賭けるしかなかった。

そして、峰人の命も契約により失われることになる。

ドラゴンにとって、契約者を道連れに死ぬことは最も恥ずべきことの一つだ。

ドラゴンと出会わなければ、彼は平和な日々を過ごせていたことだろう。

彼に謝罪したかったが、もうそれを伝えることも出来ない。

グリフォスはそのまま、ゆっくりと目を閉じた。







「これが…オリジン・ストーンか」


峰人の目の前にあるその石は、どこまでも透き通るような緑色で、思わず見とれてしまいそうなほど美しい。

中ではエネルギーが絶えず流動を続け、まるで見る者を別世界へ誘っているようだ。

人差し指で、石の表面に触れてみる。

摩擦をほとんど感じず、限界まで研磨された氷のような感触だ。

中にあるのは、きっとこの世界には存在しないエネルギーなのだろう。

石から指を離し、その指を自分の目の前に持っていく。

見た目に変化は無かったが、指の内側では水が流れるような感覚がある。

気色の悪さはなく、むしろ心地良さすら感じる。

しばらくするとその感覚は消え、感じるものは何もなくなった。


「全ての源の力…か」


そう呟いた時、装置全体がグラグラと大きく揺れた。

それと同時に、下から強烈な光が差し込んでくる。

この真下でグリフォスとゾルダーが戦っているのだと、直感で分かった。

もう時間はない。

今度は右手のひら全体で、ストーンに触れる。

水の流れるような感覚が、右手全体を覆う。


「オリジン・ストーンよ…俺に力を与えろ!!」


声を張り上げたその時、全身にこれまで感じたことのないような痛みが走る。

肉が弾け、骨が吹き飛びそうな感覚に思わず叫び声を上げるが、決して手は離さない。

ストーンのエネルギーが、峰人の全身にまで行き渡る。

そして…。






体の奥から、エネルギーが湧き上がってくる。

それは瞬く間に身体の隅々にまで届き、力を呼び覚ましていく。

このエネルギーが何なのかは分からないが、グリフォスにとっては願ってもないものだった。

弱まっていた光線が、再び威力を強めていく。

それはゾルダーの炎よりも強力で、一瞬で形勢を逆転させた。


ーーー一体何だ、これは?


グリフォスは疑問を抱くが、この好機を逃すわけにはいかない。

緑色に変色した光線は、遂にゾルダーの眼前にまで迫った。


「ぐおおおお!!?」


ゾルダーは驚愕と困惑の入り混じった叫びを上げながら、緑色の光線を顔に食らう。

それと同時に大きな爆煙が起こり、ゾルダーの半身を包み込んだ。


「どういうことだ?一体なぜ…?」


グリフォスは自分の体に目を落とした。

すると光線だけでなく、体全体が緑色の光を放っていることに気付いた。

消えかかっていた意識はハッキリとし、抜けかかっていた力は今や溢れんばかりだ。


「貴様ァ…どんな手を…使いやがった…!!」


ゾルダーが憎らしげにこちらを見つめる。

顔はところどころ焼けただれ、口元は殆ど溶けてしまっている。

ゾルダーの疑問には答えることができなかった。

ただ一つ分かっていることは、これがまたとない好機だということだけだ。

グリフォスは再び、口から緑色の光線を放つ。

ゾルダーはそれを相殺するために火炎を放とうとした。

しかし、ボロボロになった口ではエネルギーを一点に集めることが出来ない。

ようやく発射された火炎は、今までの半分以下の威力になってしまっていた。

無論、その程度でグリフォスの攻撃を防ぐことなど出来るはずもなく、光線は首から胴にかけての広い範囲に命中した。

強靭な鱗が、熱によりじわじわと融解していく。

ゾルダーはそのままバランスを失って巨体を地上に叩きつけ、大量の土埃を舞わせる。


「まさか…オリジン・ストーンの力か…!?」


ゾルダーが苦しげに言う。

確かに、体から発せられる光はストーンのものによく似ていた。

しかし、当然グリフォスはストーンなど持ち合わせていない。

だとすると一体どういうことなのか。

まさか本当に神の奇跡だとでもいうのか。

様々な疑問が湧いてくるが、とにかく今は目の前の敵に集中することにした。

ただ一つ確実なのは、この力があればゾルダーを仕留められるということだ。


「終わりだ。自由の前に散れ、ゾルダー!!」

「ま…待て!」


その言葉も虚しく、ゾルダーに緑色の光が濁流のように浴びせられた。

防ぐ術もないまま、光線は胸の辺りを焼き、鱗や肉を溶かしていく。

無論、グリフォスの狙いは"竜の輝き"だ。

光線を一点に集中させ、ゾルダーにトドメを刺そうとする。


もはや勝ち目はない。ゾルダーは敗北を悟っていた。

しかし、このまま敗北を受け入れるつもりは毛頭ない。

グリフォスがオリジン・ストーンの力を手に入れたのには、何か理由があるはずだ。

ドラゴンにエネルギーを送ることができる唯一の存在、それは竜騎士だ。

そしてこの場にストーンはただ一つ。

大方、あの竜騎士がストーンの力をグリフォスに送っているということだろう。

自身の胸に風穴が空き、命の危機を前にしても、ゾルダーは驚くほど冷静だった。

グリフォスの光線が"竜の輝き"を破壊するまであと数秒程度だろう。

それまでに、グリフォスを殺すことなど不可能だ。

だが、ひ弱な人間ならば簡単に道連れにすることができる。

そして標的は、おそらくストーンのすぐそばにいる。

ゾルダーは最後の火球を、装置の中心に向け放った。

同時に、自らの"竜の輝き"に亀裂が入るのを感じた。





ゾルダーが最後に放った火球は、次元転移装置の中心に直撃し、そこを完全に破壊した。

オリジン・ストーンはその衝撃で四散し、装置そのものも亀裂の入った部分からガラガラと崩壊していく。

この幾何学的な装置は、部品部品が複雑に絡み合って針の上に立つようなバランスで成り立っていた。

その一部が大きく損壊したとなれば、当然それは全体に波及する。

中心部に大きな穴が空き、それが端々へと及び、破片が滝のように地上に降り注いだ。

そして、その上にいた人間も。


「うわああああああああああああああああああああああ!!!」


峰人の足場が、一気に崩れ去る。

火球はギリギリ直撃を免れたが、峰人の周辺は完全に破壊されてしまう。

ストーンは粉々になり、峰人の体は装置の破片とともに地上へと向かっていく。

この高さから落ちれば、ほぼ間違いなく即死だろう。

全てがスローモーションに見える。

生き残る道がもうないと分かると、不思議と気持ちは落ち着いた。

ふと目をやると、ゾルダーが力無く倒れていくのが見えた。

どうやら、作戦は成功したようだ。

峰人は口元を緩めると、静かに目を閉じた。




どのくらい経っただろうか。

もう落ち始めてかなりの時間が経つはずだ。

だが、いつまで待っても痛みは感じず、死んだという感じもない。

これはおかしい。

ようやくそう思うと、ゆっくりと目を開けた。


「ええっ!!!?」


目に入った光景に、峰人は素っ頓狂な声をあげた。









ゾルダーを討ち取った時、峰人の叫び声が聞こえた気がした。

崩壊していく装置の方からだ。

さっき身体から溢れた力…あれは間違いなくオリジン・ストーンのものだ。

だが、装置が破壊されたと同時に全身の緑色の光も消えてしまっていた。

もし、峰人がストーンの力を送ってきたのだとしたら…。

そう思った瞬間、全てが線で繋がったような気がした。

あれは決して神の奇跡などではない。

峰人は今、地上へと降り注ぐあの瓦礫の中にいる。

グリフォスはそれまでの壮絶な戦いのことなど忘れ、全速力で瓦礫の中へ飛び込んでいった。


「くそっ!峰人!!?」


地上に叩きつけられれば、竜騎士といえど絶対に助からない。

だから何としても、ここで峰人を救わなければならない。

だがどこを探しても、彼の姿は無かった。

地上から強烈な破壊音が響く。

瓦礫が地上に当たる音だ。

峰人も、あの中にいたのだろう。

グリフォスは目を閉じて、ゆっくりとうな垂れた。

自分のために命を賭した者さえ救えないとは、なんと情けないことだろう。

彼を巻き込み、死なせてしまったのは自分だ。

後悔の念が押し寄せてくる。

峰人は15歳という若さであったが、今まで出会ったどんな人間よりも勇敢だった。

それは紛れも無い事実だ。

ここで死ぬべき人間ではなかった。

だが、失われたものが戻ることはない。

もう二度とーーーー。


ふと、不可思議な光景が目に入った。

ほんの数m四方だが、瓦礫が空中で静止している。

訳が分からなかったが、ゆっくりとそれに接近していく。

すぐそばまで近寄ると、静かにそれを覗き込む。

その中心には、人間の少年が布団に寝転がっているかのように浮いていた。


「峰人…!?」


その人間…峰人は、ゆっくりとこちらに視線を向ける。


「あぁグリフォス。ゾルダーは倒せたみたいだな」


峰人はいつもの調子で話す。

その様子に、グリフォスは少し安心した。


「あぁ、お前のおかげだ。ところで、お前宙に浮く能力なんて持ってたのか?」

「そんなもんあったらお前の背中に乗ってはしゃいだりしないだろ」


もっともな反論に、グリフォスは口をつぐむ。確かに、空を飛べる人間など存在するはずがない。


「ん?お前、さっきからどこを見てるんだ?」


峰人はグリフォスではなく、遥か真上をじっと見ている。そしてそのまま、空中にある何かを指差す。それを追うように、グリフォスも視線を真上に持っていった。


「なっ!!?」


そこにあったもの。

それは、純白の鱗と翼を持った、ゾルダーの倍はあろうかという大きさの超巨大なドラゴンの姿だった。

何も知らない者が見れば、果てしない畏怖を覚えることだろう。

だがその透き通るような白い体色は、思わず目を奪われるほどの美しさと妖艶さを備えている。

ドラゴンは何をするでもなく、大きな翼をゆっくりと羽ばたかせながらこちらを見下ろしている。

その穏やかな瞳からは、敵意などは一切感じられない。


「カルディア……」


グリフォスが呟く。

この白いドラゴンのことを、グリフォスはよく知っていた。

あまりいい思い出は無かったが。


「カルディア?カルディアって…」


峰人もまた、その名前に聞き覚えがあった。

果たしてどこで聞いた名前だっただろうか…。峰人は己の記憶の糸を辿っていく。


「私の名はカルディア。レジスタンスを率いるドラゴンです。まず、あなたの勇気に心からの敬意を表します」


カルディアがようやくその口を開く。

ゆっくりとした、包み込むように穏やかな女性の声だった。

視線や話の内容から、峰人に向けて語りかけているようだ。


「あぁ…どうも」


峰人はどうしていいか分からず、一応軽く会釈をした。

とりあえず、敵というわけではなさそうだ。

その事実に、ひとまず安堵する。


「グリフォス、貴方もよくやってくれました」

「ふん。貴様に礼を言われる筋合いはない」


カルディアの丁寧な物言いとは正反対に、グリフォスは吐き捨てるように言葉を返す。

しかしそれをカルディアが気に留める様子はない。

そんな態度には慣れっこだ、とでも言っているようだ。


すると峰人の体が、地上へと向かっていく。

それは驚くほどゆっくりとしたもので、下に下がっていると気付くまでに数秒を要したほどだ。

背中にふわりとした感触が伝わる。

地面の感覚だ。

峰人は上半身を起こし、座ったままカルディアを見つめる。

合わせてグリフォスも着地した。

カルディアもまた、地上へと降下してくる。

そこでようやく気付いたが、彼女には数体のドラゴンが随伴していた。

その背には竜騎士と思われる人間が乗っている。


「峰人!無事でしたか!」


何処かから、セーネとエアルがドラゴンに乗って向かってくる。

こちらに大手を振っているあたり、とりあえず無事なようだ。


「あっ…!?カルディア様!!?どうしてここに!!?」


着陸するや否や、 セーネとメフィアはカルディアに跪いてこうべを垂れる。

そこで峰人はようやく思い出した。

「カルディア」とはメフィアから聞いた名だ。

レジスタンスの指導者、つまり彼女達のボスだ。


「セーネ、メフィア。あなた方の功績は偉大なものです」

「勿体なきお言葉…!!」


セーネとメフィアが、そのまま地面につくのではないかという勢いで深々と礼をする。


「えっ誰?ちょっ…なあ、あれ誰だ?」

「俺に聞くな」


エアルとセイバーは、この状況を測りかねていた。

カルディアやレジスタンスについての知識が全く無かったためだ。


「おいお前達!大丈夫か…なっ!?なんだこの化け物は!!?」


もう1組、何も知らない者たちがいた。

八重山と石丸だ。

地下に避難していた彼らは、たった今状況確認のために地上に上がったところだった。

空に浮く巨大なドラゴンに、反射的に拳銃を構える。


「ちょっ…待ってください!違うんです!敵じゃありません!」


セーネが慌てて彼らを止めに入る。

彼女が必死に説明すると、八重山たちは納得したように銃を下ろした。

八重山は無線で、カルディアに攻撃を行わないよう通達を出す。

これでひとまず安心だ。


「ここにいる皆さんのお陰で、長きに渡る戦争に終止符を打つことが叶いました。レジスタンスを代表し、心より感謝いたします。そして犠牲になった全ての命に、哀悼の意を表します」


人類の存亡をかけた戦いは、ここに終結した。










「これまで…か」

その様子を遠くで見つめていたドラゴン…ノヴァは、無感情にそう呟いた。

もはやギデオン軍に勝機はない。

ノヴァはそのまま、遥か雲の向こうへと飛び去っていった。











「そうだ!エアルも一緒に来ませんか?」

セーネはレジスタンスと共に帰還する間際、突然そう提案した。


「えっ…」


それに答えかねて、エアルとセイバーが顔を見合わせる。

確かに、ギデオン軍が壊滅した今、彼らに行くあてはない。

さらに、自分たちの世界とはまるで違う場所だと来た。

この世界に馴染むことは容易ではないだろうし、ビフレスト社のように敵対する人間が現れるかもしれない。

彼らには、安住の地が必要だった。

どちらの世界にも精通しているレジスタンスに身を置くのが最良の選択なのは明らかだ。


「そうだな。そうさせてもらう」


エアルは首を縦に振った。

セイバーも同意見のようだ。


「2人とも行っちまうのか。寂しくなるな」


そう言いながら、峰人が微笑む。

実のところ、寂しいというのは本音だった。

彼らがいなくなれば、この国にいる竜騎士は自分1人になってしまう。


「大丈夫。またいつか会えますよ!」

「そうだな。次の世界滅亡の危機が待ち遠しい」


峰人は軽く皮肉を言った。

セーネはそれに綺麗に揃った歯を見せながら笑った。

峰人と固い握手を交わした後、再びメフィアの背に乗り込む。

続いて峰人はエアルの方に目をやる。

既にセイバーに乗っており、出発の時をじっと待っているようだった。


「"俺もまた会いたいな"とは言ってくれないのか?」


意地悪そうに聞くと、エアルはようやくこちらに振り返る。


「ま、お前の名前くらいは記憶に留めといてやる。隼太にもそう言っとけ」


峰人に合わせて意地悪そうに返すと、2人揃って口元を少し緩ませた。


「それじゃあ峰人!グリフォス!またな!」


セイバーがそう言い残すと、翼を広げた大空へと飛び上がった。

メフィアもそれに続く。

カルディアは2体が飛び上がるのを確認すると、峰人の方に視線を向ける。


「少年、レジスタンスはいつでも貴方を歓迎しますよ」

「いいからとっとと帰れ」


カルディアの言葉を遮るようにグリフォスが悪態をついた。

カルディアと他のドラゴン達は、そのまま地平の彼方へと消えていき、やがて見えなくなった。


峰人は全身の力が抜けたように仰向けに倒れこむ。

この瓦礫の山がなければ、今までのことが全部夢だったのではと思ってしまいそうだ。

この数日間は、まさに怒涛の日々だった。

世界を救うのに一役買ったようだが、まるで実感が湧かない。

気付いたら全てが終わっていたような感じだ。

もし「何があったのか」と聞かれても、まともに答えられないだろう。

自衛隊が続々と到着し、生き残った市民を介抱している。

そんな様子を、峰人はぼうっと見つめていた。


「峰人?大丈夫か?さあ、帰るぞ」


横にいたグリフォスの声で、はっと正気を取り戻す。

もうここでやることは何もない。

むしろ救助活動の邪魔になるだけだ。


「ああ、帰ろう」


峰人が背に乗ったのを確認したグリフォスは、日の沈みかかった空へと飛び立った。













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